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閑話 ある少女の最後①
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「うふふ~! 私の赤ちゃん、もうすぐ会えるのね~!」
エドワードが廃嫡となる少し前の頃、一人の妊婦が出産を今か今かと待ち望んでいた。妊婦の名はルルナ。ビット男爵の庶子である。
「ルルナ、体調はどう?」
「あ、おばさん! ふふ、私もお腹の赤ちゃんもとっても元気よ!」
ルルナが“おばさん”とよんだ女性は密かに眉根を寄せた。
整った容姿と落ち着いた品のある所作、皺のない透明感のある肌はをもった佳人にその呼称は似つかわしくない。
「そう……よかったわ。元気だからといって昨日みたいな無茶は駄目よ」
「も~大袈裟! 別に泳ぐくらいどうってことないって!」
「そう…………」
この頭空っぽの娘は昨日医者を呼んだことをもう忘れたのか。
女性は内心ため息をついた。
昨日、ルルナは「暑い!」と言って急に海で泳ぎだした。
ルルナ付きの老齢の侍女が必死に止めるのも聞かず、それどころか制止を振り払って服のまま海へと入った。
暑いといっても気温はそこまで高くなく、海の水温は泳ぐに適した高さではない。
冷たい水に入るなど妊婦の体には害だ。案の定ルルナは「お腹が痛い!」と騒ぎだした。
幸い大事には至らなかったものの、妊婦がこんな行動を取るなんて普通はあり得ない。というよりも、貴族令嬢が泳ぐといった行動を取ること自体がこの国ではあり得ない。しかし、今更貴族令嬢の常識を説いたところでルルナが聞くわけもなく、仕方がないので妊婦が水で体を冷やしてはよくないと叱るだけにとどめた。
「奥様……大丈夫でございますか?」
ルルナ付きの老齢の侍女が女性に心配そうな声をかける。
奥様と呼ばれたこの女性はビット男爵夫人であり、ルルナの義理の母だ。
「ええ……大丈夫よ。貴女にも苦労をかけるわね」
「いえ、とんでもございません。昨日はお嬢様を危険な目に遭わせてしまい申し訳ございませんでした」
「あれは貴女のせいじゃないわ。臨月だというのに冷たい水に入ろうとするあの子が悪いのよ。まったく……妊婦だと言う自覚も、貴族令嬢としての品格も持ち合わせていないのだから……」
「それに礼儀もなっていません! 庶子風情が奥様を“おばさん”と呼ぶなどなんと無礼な……! 義理とはいえ母親に対して使う言葉ではありません!」
「あの子の頭の中でわたくしはルルナの母親から旦那様を奪った“悪女”になっているのよ。だから頑なにわたくしを“お義母様”と呼ばないの」
「まあ! あのお嬢様の母親は旦那様が結婚前に関係を持っていた娼婦ではありませんか? 奪うも何も、もとからそういう関係性ではないのに……勘違いも甚だしい」
ルルナの母親は男爵が結婚前に愛人として囲っていた娼婦だった。
この国の貴族令息の中には婚前に欲の解消相手として娼婦を愛人として囲う者もいた。一般人をその相手として選ぶと何かと面倒だが、娼婦だと仕事として割り切ってくれる。ルルナの母と男爵の関係性もこれだったのだが、一つ誤算だったのは子を孕んでしまったことだ。
庶子がいると後継者を決める際に問題が生じる。仮に正妻が産んだ子が女児で、愛人が産んだ子が男児だった場合は後者が跡継ぎとなる可能性だって出てくる。そうなると妻の生家との関係性も悪くなるので、愛人の子が始末されることもあった。だが、愛人が産んだ子は女児だったので、男爵は金だけ渡して放置していたのだ。
だが、思い込みの激しいルルナは何故か自分の母と男爵は愛し合っていたと考え、夫人によってその仲を引き裂かれたと疑わない。ルルナの母は決して娘にそんなことは言っていない。男爵のことは愛人稼業をしていた頃の客としか見ていなかったし、男爵もルルナの母のことを欲の発散相手としか思っていなかった。
「あの子はずっと妄想の中で生きているようだわ……。それで巻き込まれるこちらはいい迷惑よ」
頭を抱える夫人に侍女は冷たい果実水を給仕した。
「ありがとう」
口に含むと爽やかな柑橘の風味とベリーの甘味が広がり、自然と顔が綻んだ。
「美味だわ……。ばあやが作る果実水の味は変わらないわね」
「奥様は幼い頃よりこちらがお好きでしたものね」
老齢の侍女は夫人が嬉しそうに果実水を飲む姿を微笑ましく見つめた。
彼女は夫人が生家より連れてきた侍女だ。夫人が産まれたからずっと傍で仕えている。
「ごめんなさいね……ばあやにあんなとんでもない子の面倒を押し付けてしまって」
「いえ、とんでもない。奥様の頼みでしたら何なりと。それに……どうせあと少しですから」
この侍女は全ての事情を知ったうえでここにいる。
ルルナの腹に王太子の子が宿っていることも。
その子を取り上げて夫人が自分の子として育てることも。
出産後、ルルナが用無しになることも。
「あのお嬢様には驚きました……現実というものを全く見ていません。何故、このまま無事でいられると思うのでしょうか?」
侍女は貴族家出身なので、貴族の在り方もよく理解している。
ルルナが王命で王太子に対して接近禁止を言い渡されていたにも関わらず逢瀬を重ね、子まで孕んだと聞いて血の気が引いた。
どう考えても腹の子ごと始末されるどころか、ビット男爵家のお取り潰しと連座で当主夫妻まで処刑されるかもしれない。そんな状況なのに、何故呑気に妊娠を喜べるのかが信じられなかった。
「平民だから……というよりも、元から物事を自分に都合のいいように解釈する性格だからでしょうね。王命が下されていようが、孫が出来れば陛下も許してくださるなどと甘い事を考えているのよ」
「それは王命を甘く見過ぎですね……」
「王命どころか王侯貴族を甘く見過ぎているわ。少しでも対応を間違えれば命取りだと理解していない。だから文字通り命がとられるような事態になるのよ……」
ルルナは王命を口約束程度にしか認識していない。
王が自分の名のもとに発令するものは絶対だ。破れば自分にも一族にも家にも累を及ぼす。しかし彼女の目出度い頭ではそれを理解できない。
「真面目に令嬢教育を受けていれば理解したでしょうに……馬鹿な子」
貴族や淑女の在り方さえ学んでいればルルナは命を落とすことにはならなかった。
婚約者のいる男性と懇意になることや、格上相手に喧嘩を売る行為がどれだけ危険か理解し、自重したことだろう。
「どれもご自分で選んだ道でしょう。貴族として生きるのであれば、貴族の在り方を知らなければならない。あのお嬢様はすべきことをせず、ご自分の思うままに好き放題生きた結果なのでしょう」
妊娠が発覚してすぐにビット男爵はルルナを海辺の別荘へと押し込んだ。
海辺の別荘、と聞くと響きだけはいいが実際は辺鄙な場所にある一軒家だ。そこに世話と監視目的の夫人と侍女が出産までいることとなった。
金で買収した医師には付近にある宿に常駐してもらい、出産の際に立ち会ってもらい、産まれた子を夫人が産んだ子として証明書を作成してもらう手筈となっている。
ルルナは周囲が皆自分の出産を優しく手助けしてくれるものだと信じ込んでいる。
実際は味方なんて一人もいないというのに…………。
エドワードが廃嫡となる少し前の頃、一人の妊婦が出産を今か今かと待ち望んでいた。妊婦の名はルルナ。ビット男爵の庶子である。
「ルルナ、体調はどう?」
「あ、おばさん! ふふ、私もお腹の赤ちゃんもとっても元気よ!」
ルルナが“おばさん”とよんだ女性は密かに眉根を寄せた。
整った容姿と落ち着いた品のある所作、皺のない透明感のある肌はをもった佳人にその呼称は似つかわしくない。
「そう……よかったわ。元気だからといって昨日みたいな無茶は駄目よ」
「も~大袈裟! 別に泳ぐくらいどうってことないって!」
「そう…………」
この頭空っぽの娘は昨日医者を呼んだことをもう忘れたのか。
女性は内心ため息をついた。
昨日、ルルナは「暑い!」と言って急に海で泳ぎだした。
ルルナ付きの老齢の侍女が必死に止めるのも聞かず、それどころか制止を振り払って服のまま海へと入った。
暑いといっても気温はそこまで高くなく、海の水温は泳ぐに適した高さではない。
冷たい水に入るなど妊婦の体には害だ。案の定ルルナは「お腹が痛い!」と騒ぎだした。
幸い大事には至らなかったものの、妊婦がこんな行動を取るなんて普通はあり得ない。というよりも、貴族令嬢が泳ぐといった行動を取ること自体がこの国ではあり得ない。しかし、今更貴族令嬢の常識を説いたところでルルナが聞くわけもなく、仕方がないので妊婦が水で体を冷やしてはよくないと叱るだけにとどめた。
「奥様……大丈夫でございますか?」
ルルナ付きの老齢の侍女が女性に心配そうな声をかける。
奥様と呼ばれたこの女性はビット男爵夫人であり、ルルナの義理の母だ。
「ええ……大丈夫よ。貴女にも苦労をかけるわね」
「いえ、とんでもございません。昨日はお嬢様を危険な目に遭わせてしまい申し訳ございませんでした」
「あれは貴女のせいじゃないわ。臨月だというのに冷たい水に入ろうとするあの子が悪いのよ。まったく……妊婦だと言う自覚も、貴族令嬢としての品格も持ち合わせていないのだから……」
「それに礼儀もなっていません! 庶子風情が奥様を“おばさん”と呼ぶなどなんと無礼な……! 義理とはいえ母親に対して使う言葉ではありません!」
「あの子の頭の中でわたくしはルルナの母親から旦那様を奪った“悪女”になっているのよ。だから頑なにわたくしを“お義母様”と呼ばないの」
「まあ! あのお嬢様の母親は旦那様が結婚前に関係を持っていた娼婦ではありませんか? 奪うも何も、もとからそういう関係性ではないのに……勘違いも甚だしい」
ルルナの母親は男爵が結婚前に愛人として囲っていた娼婦だった。
この国の貴族令息の中には婚前に欲の解消相手として娼婦を愛人として囲う者もいた。一般人をその相手として選ぶと何かと面倒だが、娼婦だと仕事として割り切ってくれる。ルルナの母と男爵の関係性もこれだったのだが、一つ誤算だったのは子を孕んでしまったことだ。
庶子がいると後継者を決める際に問題が生じる。仮に正妻が産んだ子が女児で、愛人が産んだ子が男児だった場合は後者が跡継ぎとなる可能性だって出てくる。そうなると妻の生家との関係性も悪くなるので、愛人の子が始末されることもあった。だが、愛人が産んだ子は女児だったので、男爵は金だけ渡して放置していたのだ。
だが、思い込みの激しいルルナは何故か自分の母と男爵は愛し合っていたと考え、夫人によってその仲を引き裂かれたと疑わない。ルルナの母は決して娘にそんなことは言っていない。男爵のことは愛人稼業をしていた頃の客としか見ていなかったし、男爵もルルナの母のことを欲の発散相手としか思っていなかった。
「あの子はずっと妄想の中で生きているようだわ……。それで巻き込まれるこちらはいい迷惑よ」
頭を抱える夫人に侍女は冷たい果実水を給仕した。
「ありがとう」
口に含むと爽やかな柑橘の風味とベリーの甘味が広がり、自然と顔が綻んだ。
「美味だわ……。ばあやが作る果実水の味は変わらないわね」
「奥様は幼い頃よりこちらがお好きでしたものね」
老齢の侍女は夫人が嬉しそうに果実水を飲む姿を微笑ましく見つめた。
彼女は夫人が生家より連れてきた侍女だ。夫人が産まれたからずっと傍で仕えている。
「ごめんなさいね……ばあやにあんなとんでもない子の面倒を押し付けてしまって」
「いえ、とんでもない。奥様の頼みでしたら何なりと。それに……どうせあと少しですから」
この侍女は全ての事情を知ったうえでここにいる。
ルルナの腹に王太子の子が宿っていることも。
その子を取り上げて夫人が自分の子として育てることも。
出産後、ルルナが用無しになることも。
「あのお嬢様には驚きました……現実というものを全く見ていません。何故、このまま無事でいられると思うのでしょうか?」
侍女は貴族家出身なので、貴族の在り方もよく理解している。
ルルナが王命で王太子に対して接近禁止を言い渡されていたにも関わらず逢瀬を重ね、子まで孕んだと聞いて血の気が引いた。
どう考えても腹の子ごと始末されるどころか、ビット男爵家のお取り潰しと連座で当主夫妻まで処刑されるかもしれない。そんな状況なのに、何故呑気に妊娠を喜べるのかが信じられなかった。
「平民だから……というよりも、元から物事を自分に都合のいいように解釈する性格だからでしょうね。王命が下されていようが、孫が出来れば陛下も許してくださるなどと甘い事を考えているのよ」
「それは王命を甘く見過ぎですね……」
「王命どころか王侯貴族を甘く見過ぎているわ。少しでも対応を間違えれば命取りだと理解していない。だから文字通り命がとられるような事態になるのよ……」
ルルナは王命を口約束程度にしか認識していない。
王が自分の名のもとに発令するものは絶対だ。破れば自分にも一族にも家にも累を及ぼす。しかし彼女の目出度い頭ではそれを理解できない。
「真面目に令嬢教育を受けていれば理解したでしょうに……馬鹿な子」
貴族や淑女の在り方さえ学んでいればルルナは命を落とすことにはならなかった。
婚約者のいる男性と懇意になることや、格上相手に喧嘩を売る行為がどれだけ危険か理解し、自重したことだろう。
「どれもご自分で選んだ道でしょう。貴族として生きるのであれば、貴族の在り方を知らなければならない。あのお嬢様はすべきことをせず、ご自分の思うままに好き放題生きた結果なのでしょう」
妊娠が発覚してすぐにビット男爵はルルナを海辺の別荘へと押し込んだ。
海辺の別荘、と聞くと響きだけはいいが実際は辺鄙な場所にある一軒家だ。そこに世話と監視目的の夫人と侍女が出産までいることとなった。
金で買収した医師には付近にある宿に常駐してもらい、出産の際に立ち会ってもらい、産まれた子を夫人が産んだ子として証明書を作成してもらう手筈となっている。
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