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元王太子の転落④
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「では、早速仕事にとりかかりましょう。外で並ぶ人々を順番に面談します。あちらの椅子に座ってください」
あちら、と指差された先には簡易的な壁で仕切りを造った空間がある。そこにはこの場に不釣り合いなほど上等な椅子と机が設置されていた。
「主にあの場所がエドワード様の仕事場となりますね。あそこにラウルさんと共に座ってもらい、陳情を述べる人々の言葉を通訳してください。ね? 簡単なお仕事でしょう?」
「は!? まさか……外に並んでいる者全員とか言わないよな?」
「そのまさかです。頑張ってください」
「あんな人数を相手にしろと!? 無理に決まっているだろう!」
「無理と言われましても……どちらの言語も習得しているのは貴方しかいないので頑張ってくださいとしか……」
「はあ!? いや、おかしいだろう! それなら今までどうしていたんだ!」
「今までそれぞれの部族の族長がその役目を担っていました。族長は国内共通語も話せますからね。それぞれの部族内の陳情を聞き、ラウルさんに共通語でそれを説明してくれていたのですが……この間疲労で二人共倒れてしまいましてね」
族長二人が倒れるほどの仕事量をさせるつもりか、とエドワードは憤ったが、ふと先ほどの光景を思い出した。
「いや、さっき外で兵士が列に並ぶ者に対して共通語で注意を促していたよな? ということは、外にいる奴らは共通語が分かるということだろう? だったら別に私だけがやらなくてもいいではないか!」
エドワードの言い分に元従者は一瞬キョトンとしたが、すぐに先ほどの光景を思い出した。
「兵士たちは共通語しか話せないから仕方ありません。まあ、話せずとも何となく雰囲気は伝わるからそれで構わないんです。兵士はね」
暗に「お前以外に適役はいないから諦めろ」と言われている気がする。
怒りでワナワナと震えるエドワードに元従者は小馬鹿にしたように告げた。
「まさか出来ないなんて言いませんよね? それくらい、アンゼリカお嬢様なら余裕でこなせましたよ?」
「は? どういうことだ? どうしてアンゼリカの名がここで出てくる?」
「どうもこうも、お嬢様もここに来たということです。お嬢様は王妃教育でこちらの言語も習得済みですし、これくらいの列なら難なくこなせましたよ? まさかエドワード様ともあろう御方が自分よりも年下の令嬢が出来ることを、出来ないなんて言いませんよね?」
分かり易く煽るとエドワードは「当たり前だろう!」と強がった。
その単純な姿に従者は呆れた。
「ところでエドワード様、私の名はご存じですか?」
「は? なんだいきなり?」
「いえ、単純に知りたかっただけです。で、どうなんですか?」
「はっ……! たかが従者の名などこの私が知るわけがないだろう?」
堂々と言ってのけたエドワードに従者は軽蔑の目を向けた。
今までもそんな眼差しを向けられたことはあるが、それよりももっと、心の底から蔑む視線にエドワードはビクッと体を震わせる。
「な、なんだ……お前、その目は……」
「いえ……やっぱり貴方は上に立つに相応しくないと再認識したまでです」
「なんだと!? どういう意味だ!」
「お嬢様でしたら仕えたその日に名を覚えてくださいます。そういうところが貴方とは違う」
「はあ!? お前の名前を憶えていないのが何だと言うのだ!」
「いえ、私の名前云々の話ではありません。自分に仕える者に全く興味が無いことを知られる貴方の迂闊さが、上に立つ者として向いてないと言っているのです。お嬢様でしたら相手にそういったことを悟らせません。だからこそ、あの御方は沢山の者から崇拝される。お嬢様の為に死んでもいいという人間は沢山いますけど、貴方にはそういう人間が一人でもいますか?」
元従者の指摘にエドワードは言葉に詰まった。
反論しようにも、彼の発言に胸が抉られたように痛む。
「……不愉快だ! お前のような不敬な者は二度とその姿を見せるな!」
エドワードの精一杯の強がりに対して元従者は「はいはい、そのつもりです」と軽く流す。
「ではラウルさん、後をよろしくお願いいたします」
「はい、お任せください!」
元従者は長身の男ラウルにエドワードを任せると、その場から去って行った。
もちろんエドワードに挨拶も何もなく。
あちら、と指差された先には簡易的な壁で仕切りを造った空間がある。そこにはこの場に不釣り合いなほど上等な椅子と机が設置されていた。
「主にあの場所がエドワード様の仕事場となりますね。あそこにラウルさんと共に座ってもらい、陳情を述べる人々の言葉を通訳してください。ね? 簡単なお仕事でしょう?」
「は!? まさか……外に並んでいる者全員とか言わないよな?」
「そのまさかです。頑張ってください」
「あんな人数を相手にしろと!? 無理に決まっているだろう!」
「無理と言われましても……どちらの言語も習得しているのは貴方しかいないので頑張ってくださいとしか……」
「はあ!? いや、おかしいだろう! それなら今までどうしていたんだ!」
「今までそれぞれの部族の族長がその役目を担っていました。族長は国内共通語も話せますからね。それぞれの部族内の陳情を聞き、ラウルさんに共通語でそれを説明してくれていたのですが……この間疲労で二人共倒れてしまいましてね」
族長二人が倒れるほどの仕事量をさせるつもりか、とエドワードは憤ったが、ふと先ほどの光景を思い出した。
「いや、さっき外で兵士が列に並ぶ者に対して共通語で注意を促していたよな? ということは、外にいる奴らは共通語が分かるということだろう? だったら別に私だけがやらなくてもいいではないか!」
エドワードの言い分に元従者は一瞬キョトンとしたが、すぐに先ほどの光景を思い出した。
「兵士たちは共通語しか話せないから仕方ありません。まあ、話せずとも何となく雰囲気は伝わるからそれで構わないんです。兵士はね」
暗に「お前以外に適役はいないから諦めろ」と言われている気がする。
怒りでワナワナと震えるエドワードに元従者は小馬鹿にしたように告げた。
「まさか出来ないなんて言いませんよね? それくらい、アンゼリカお嬢様なら余裕でこなせましたよ?」
「は? どういうことだ? どうしてアンゼリカの名がここで出てくる?」
「どうもこうも、お嬢様もここに来たということです。お嬢様は王妃教育でこちらの言語も習得済みですし、これくらいの列なら難なくこなせましたよ? まさかエドワード様ともあろう御方が自分よりも年下の令嬢が出来ることを、出来ないなんて言いませんよね?」
分かり易く煽るとエドワードは「当たり前だろう!」と強がった。
その単純な姿に従者は呆れた。
「ところでエドワード様、私の名はご存じですか?」
「は? なんだいきなり?」
「いえ、単純に知りたかっただけです。で、どうなんですか?」
「はっ……! たかが従者の名などこの私が知るわけがないだろう?」
堂々と言ってのけたエドワードに従者は軽蔑の目を向けた。
今までもそんな眼差しを向けられたことはあるが、それよりももっと、心の底から蔑む視線にエドワードはビクッと体を震わせる。
「な、なんだ……お前、その目は……」
「いえ……やっぱり貴方は上に立つに相応しくないと再認識したまでです」
「なんだと!? どういう意味だ!」
「お嬢様でしたら仕えたその日に名を覚えてくださいます。そういうところが貴方とは違う」
「はあ!? お前の名前を憶えていないのが何だと言うのだ!」
「いえ、私の名前云々の話ではありません。自分に仕える者に全く興味が無いことを知られる貴方の迂闊さが、上に立つ者として向いてないと言っているのです。お嬢様でしたら相手にそういったことを悟らせません。だからこそ、あの御方は沢山の者から崇拝される。お嬢様の為に死んでもいいという人間は沢山いますけど、貴方にはそういう人間が一人でもいますか?」
元従者の指摘にエドワードは言葉に詰まった。
反論しようにも、彼の発言に胸が抉られたように痛む。
「……不愉快だ! お前のような不敬な者は二度とその姿を見せるな!」
エドワードの精一杯の強がりに対して元従者は「はいはい、そのつもりです」と軽く流す。
「ではラウルさん、後をよろしくお願いいたします」
「はい、お任せください!」
元従者は長身の男ラウルにエドワードを任せると、その場から去って行った。
もちろんエドワードに挨拶も何もなく。
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