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元王太子の転落①
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「どうして私が廃嫡されねばならない! しかも王宮を出て行けだと……ふざけるな!」
ギャンギャン喚くエドワードを前に宰相はうんざりした。
予想通りの反応とはいえ、それを目の当たりにすると頭が痛くなる。
「……先程ご説明した通り、貴方は正式に王太子の座を剥奪されました。加えてもう王族ではないのでこの城に住むことは許されません」
「だから! どうして私が王太子の座を剥奪されなければならないんだ! しかも王族ではなくなるだと!? 私は国王の子だぞ? 何を馬鹿な事を言っている!」
「それはこちらの台詞ですよ……。どうしてあれだけ好き勝手な事をしておいて、王太子のままでいられると思うのです? 貴方様は二公爵家を敵に回した自覚がお有りですか?」
「敵に回したなどと大袈裟な……。ちょっと婚約破棄をしたくらいでそんな……」
「いえ、全然“ちょっと”ではありません。その時点でもう駄目です。詰んでおります」
この元王子と話していると頭が痛くなってくる。
そういえば国王も前に同じようなことを言っていたな、と思い出した。
「もう一度説明しますけど、貴方様はすでに王太子ではない。籍も抜かれておりますので、もう王族でもない。なので、この城に住む権利はございません。早急に城を出て告げられた場所へと向かってもらいます」
「私はそんなの認めない! 私は王の唯一の子だ! 父上が病に倒れた今、私が代わりに国王となり国を治める必要がある!」
「は? 陛下は病ではなく、心労で臥せっていらっしゃるだけです。見舞いにも来なかったくせによくそのような戯言をほざきますね……」
宰相の声音に怒気が混じるのを察し、エドワードは体をびくりと震わせた。
「そ、それは……ほら、私は王太子だし、病が移っては不味いだろう?」
呆れるほどこの男は自分だけが大切なのだ。
それを痛いほど理解し、宰相は軽蔑の眼差しを向けた。
「薄情者が……。陛下はなあ……お前が見舞いにすら来ないことを悲しんでいたんだぞ!? あんなに大切にしてもらって、愛情をかけてもらっておいてそれか? 結局お前は自分だけが可愛い屑だよ! お前みたいな屑を息子に持った陛下が可哀想だ!!」
病だと知るや父親を簡単に見捨てるエドワードに怒り、口調が乱れる。
その荒々しい口ぶりにエドワードは「ひっ!?」と小さく叫んだ。
「さ、宰相……不敬だぞ!」
「はっ! なーにが“不敬”だ! お前はもう王太子でもなければ王族でもないんだよ! 王家から籍を抜かれた平民だ! 貴族の私が平民のお前を敬う必要性はどこにもない!」
「平民だと!? 誰に向かって言っている!」
「だーかーら! お前だって言ってんだろ!? 本当に頭が悪いな! もういい! さっさと例の場所に連れていけ!」
待機をしていた王宮の騎士達に命じると、彼等は頷いて元王太子の両腕をそれぞれ乱暴に掴んだ。
「痛っ!? な、何をする! やめろ! 離せ!」
エドワードが喚こうとも騎士達は顔色一つ変えない。
もう王族ではなくなった平民がそれだけ騒ごうとも彼等を止める権利は持ち合わせていない。
「宰相様、行先は例の砦でよろしいですか? 荷物などはいかがしましょう?」
「必要な物は全てあちらに準備してある。着の身着のまま連れて行ってしまって構わない」
「畏まりました。ではこのまま出発いたします」
宰相に最終確認をとった隊長格の騎士は恭しく頷き、エドワードの両腕を掴んでいる部下へ「元王太子を馬車に乗せろ」と命じる。
「待て! 離せ! こんなこと父上が許すと思っているのか!?」
「その“父上”のご判断だよ。もう決まったことを今更騒ぐな」
「父上が!? そんな馬鹿な! 父上がこんな暴挙を許すはずがない!」
「これが一番マシな結果だ。喚いていないで大人しく受け入れろ」
「父上に会わせてくれ! 直接話をすればきっと……」
「陛下はお前に会いたくないと仰っている。いいからさっさと行け」
「嘘だ! そんな……あ、おい、やめろ! 引きずるな!」
まだ何か言い募るエドワードを騎士達が引きずるようにして連行していく。
その情けない姿を眺め、宰相は吐き捨てるように呟いた。
「お前の顔を見たら決心が鈍るからだよ……」
国王が最後にエドワードに会うことを拒んだのは、その顔を見ると決心が鈍ると判断したからだ。
育て方を間違えた息子は数々の所業の罰として国境の砦に行くことが決まった。
本来であれば処刑ものだが、せめて命だけは助けてほしいという国王の必死の嘆願により砦で生涯身を尽くすこととなった。
権限を越えた婚約破棄の罪、王命を無視してルルナと逢瀬を重ねた罪、そして婚約者の家の金で勝手にルルナに貢いだ罪。数え上げただけでもきりがない。
処刑をされるでもなく、着の身着のまま放り出されるわけでもなく、働く場所と住む場所を提供してもらえるだけでもありがたいことだが、散々贅沢をしてきたエドワードがそれを理解するわけはなかった。
今まで乗っていたような二頭立ての豪奢な馬車ではなく、乗り心地の悪い粗末な馬車に押し込められた彼はそこでもギャンギャン喚いた。
「貴様等……この私にこんなことをしてただで済むと思うなよ?」
自分を粗末に扱う騎士達を睨みつけ、脅しめいた言葉をかけるも彼等はそれを笑い飛ばした。
「もう何の権力も無いくせに馬鹿を言うなよ。アンタに何が出来るんだ? 浮気者の元王太子様よお?」
「なっ……なんだと!?」
侮辱されたエドワードが騎士達を怒鳴りつけようとしたその時だった。
「もう出発しますので、馬車から身を乗り出すと危ないですよ。大人しく座っていてください、エドワード様」
「はあ? この私になんだその口の利き方は……ん? あ、お前は……!?」
既に馬車に乗っていたのであろう青年が呆れた声でエドワードを窘める。
それに怒ったエドワードが声のする方へと顔を向けると、そこには廃嫡と同時に自分のもとから離れた元従者がいた。
ギャンギャン喚くエドワードを前に宰相はうんざりした。
予想通りの反応とはいえ、それを目の当たりにすると頭が痛くなる。
「……先程ご説明した通り、貴方は正式に王太子の座を剥奪されました。加えてもう王族ではないのでこの城に住むことは許されません」
「だから! どうして私が王太子の座を剥奪されなければならないんだ! しかも王族ではなくなるだと!? 私は国王の子だぞ? 何を馬鹿な事を言っている!」
「それはこちらの台詞ですよ……。どうしてあれだけ好き勝手な事をしておいて、王太子のままでいられると思うのです? 貴方様は二公爵家を敵に回した自覚がお有りですか?」
「敵に回したなどと大袈裟な……。ちょっと婚約破棄をしたくらいでそんな……」
「いえ、全然“ちょっと”ではありません。その時点でもう駄目です。詰んでおります」
この元王子と話していると頭が痛くなってくる。
そういえば国王も前に同じようなことを言っていたな、と思い出した。
「もう一度説明しますけど、貴方様はすでに王太子ではない。籍も抜かれておりますので、もう王族でもない。なので、この城に住む権利はございません。早急に城を出て告げられた場所へと向かってもらいます」
「私はそんなの認めない! 私は王の唯一の子だ! 父上が病に倒れた今、私が代わりに国王となり国を治める必要がある!」
「は? 陛下は病ではなく、心労で臥せっていらっしゃるだけです。見舞いにも来なかったくせによくそのような戯言をほざきますね……」
宰相の声音に怒気が混じるのを察し、エドワードは体をびくりと震わせた。
「そ、それは……ほら、私は王太子だし、病が移っては不味いだろう?」
呆れるほどこの男は自分だけが大切なのだ。
それを痛いほど理解し、宰相は軽蔑の眼差しを向けた。
「薄情者が……。陛下はなあ……お前が見舞いにすら来ないことを悲しんでいたんだぞ!? あんなに大切にしてもらって、愛情をかけてもらっておいてそれか? 結局お前は自分だけが可愛い屑だよ! お前みたいな屑を息子に持った陛下が可哀想だ!!」
病だと知るや父親を簡単に見捨てるエドワードに怒り、口調が乱れる。
その荒々しい口ぶりにエドワードは「ひっ!?」と小さく叫んだ。
「さ、宰相……不敬だぞ!」
「はっ! なーにが“不敬”だ! お前はもう王太子でもなければ王族でもないんだよ! 王家から籍を抜かれた平民だ! 貴族の私が平民のお前を敬う必要性はどこにもない!」
「平民だと!? 誰に向かって言っている!」
「だーかーら! お前だって言ってんだろ!? 本当に頭が悪いな! もういい! さっさと例の場所に連れていけ!」
待機をしていた王宮の騎士達に命じると、彼等は頷いて元王太子の両腕をそれぞれ乱暴に掴んだ。
「痛っ!? な、何をする! やめろ! 離せ!」
エドワードが喚こうとも騎士達は顔色一つ変えない。
もう王族ではなくなった平民がそれだけ騒ごうとも彼等を止める権利は持ち合わせていない。
「宰相様、行先は例の砦でよろしいですか? 荷物などはいかがしましょう?」
「必要な物は全てあちらに準備してある。着の身着のまま連れて行ってしまって構わない」
「畏まりました。ではこのまま出発いたします」
宰相に最終確認をとった隊長格の騎士は恭しく頷き、エドワードの両腕を掴んでいる部下へ「元王太子を馬車に乗せろ」と命じる。
「待て! 離せ! こんなこと父上が許すと思っているのか!?」
「その“父上”のご判断だよ。もう決まったことを今更騒ぐな」
「父上が!? そんな馬鹿な! 父上がこんな暴挙を許すはずがない!」
「これが一番マシな結果だ。喚いていないで大人しく受け入れろ」
「父上に会わせてくれ! 直接話をすればきっと……」
「陛下はお前に会いたくないと仰っている。いいからさっさと行け」
「嘘だ! そんな……あ、おい、やめろ! 引きずるな!」
まだ何か言い募るエドワードを騎士達が引きずるようにして連行していく。
その情けない姿を眺め、宰相は吐き捨てるように呟いた。
「お前の顔を見たら決心が鈍るからだよ……」
国王が最後にエドワードに会うことを拒んだのは、その顔を見ると決心が鈍ると判断したからだ。
育て方を間違えた息子は数々の所業の罰として国境の砦に行くことが決まった。
本来であれば処刑ものだが、せめて命だけは助けてほしいという国王の必死の嘆願により砦で生涯身を尽くすこととなった。
権限を越えた婚約破棄の罪、王命を無視してルルナと逢瀬を重ねた罪、そして婚約者の家の金で勝手にルルナに貢いだ罪。数え上げただけでもきりがない。
処刑をされるでもなく、着の身着のまま放り出されるわけでもなく、働く場所と住む場所を提供してもらえるだけでもありがたいことだが、散々贅沢をしてきたエドワードがそれを理解するわけはなかった。
今まで乗っていたような二頭立ての豪奢な馬車ではなく、乗り心地の悪い粗末な馬車に押し込められた彼はそこでもギャンギャン喚いた。
「貴様等……この私にこんなことをしてただで済むと思うなよ?」
自分を粗末に扱う騎士達を睨みつけ、脅しめいた言葉をかけるも彼等はそれを笑い飛ばした。
「もう何の権力も無いくせに馬鹿を言うなよ。アンタに何が出来るんだ? 浮気者の元王太子様よお?」
「なっ……なんだと!?」
侮辱されたエドワードが騎士達を怒鳴りつけようとしたその時だった。
「もう出発しますので、馬車から身を乗り出すと危ないですよ。大人しく座っていてください、エドワード様」
「はあ? この私になんだその口の利き方は……ん? あ、お前は……!?」
既に馬車に乗っていたのであろう青年が呆れた声でエドワードを窘める。
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