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ハウンド伯爵家では①

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 ハウンド伯爵家では当主が今後の事について頭を悩ませていた。。

「なんでまたあの家が関わってくるんだ……。もう二度と関わりたくないと思っていたのに……!」
 
 今から遡ること数時間前、突然娘が上等な二頭立ての馬車に送られてきた。
 驚くことにそれにはグリフォン公爵家の家紋が施されており、それを見た瞬間卒倒しそうになった。

『主人の命令により、こちらのお嬢様をお送りさせていただきました』

 豪奢な馬車から降りてきたのはお仕着せを身に纏った侍女だった。
 
 その無表情な顔は伯爵がこの世で最も苦手とするを彷彿させ、背筋がゾワリと粟立つ。

 無表情な侍女に手を引かれて降りてきた娘はこれまた一目で高価だと分かるドレスを纏っており、何が何だか分からない状況に伯爵は声も出なかった。

『こちらのお嬢様が、やむを得ず制圧させて頂きましたところ服が破れてしまいました。ですので、それを哀れに思った主人がお嬢様にご自分の着替えを差し上げましたの。これは返さなくてもよろしいと申しておりました』

 凶器を持って暴れていた、と聞いた瞬間伯爵の喉がヒュッと鳴った。
 
 他家で凶器を持って暴れるなどもってのほかだ。しかもこちらよりも格上の公爵家。いくら元婚約者の家とはいえ、とうに縁は切れているのだ。切れていなくとも不味い状況ではあるが。

 しかも、娘が着ているドレスはどう見ても若い女性向けのもの。となると、侍女の言う“主人”とはグリフォン公爵家の令嬢を指す。

 伯爵が最も苦手としている人物、グリフォン公爵令嬢アンゼリカまでもが関わっていると知り、気を失いそうになった。

 慌てて侍女に深く礼を言い、後で正式にグリフォン公爵家へ伺わせて頂くと主人への言伝を頼んだ。

 のに、どうしてこうなるんだと気が遠くなる。だが現実逃避している場合ではない。どうしてサラマンドラ家でそんな真似をしたのか娘を問いただすと「あの女が悪いのよ!」と顔面蒼白で涙を零しながら喚いた。

 どうやら娘はサラマンドラ公子との婚約解消に納得がいかなかったので、このような騒動を起こしたようだ。

 伯爵は娘の余りにも愚かで短絡的な思考に頭痛を覚え、衝動のまま頬に平手打ちをかました。父親に殴られてショックを受けた娘は「ひどい、お父様……!」と子供のように泣きじゃくった。泣きたいのはこちらの方である。

『この愚か者が……! サラマンドラ家に凶器を持ち込んだ挙句に暴れただと!? お前はこの家を潰したいのか!!』

『家を潰す!? どうしてそんな話になるのよ! 私はただ、レイモンド様との仲を邪魔するミラージュを排除しようとしただけよ!』

『サラマンドラ嬢を排除だと!? お前は自分が何を言っているか分かっているのか!!』

 娘がいささか我欲の強い性質を持っていることは知っていた。
 だが、意味の分からない思考で元婚約者の妹に危害を加えようとするほどだとは理解していなかった。

 知っていたのなら、初めから公爵家と婚約などさせなかったのに……。
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