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自白剤②

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 その時、アンゼリカ専属の侍女がスッと何かをテーブルの上へと置いた。
 それは無色透明の液体の入った美しい小瓶で、精緻な細工が施されている様は一見すると香水の瓶のよう。

「この“自白剤”は無味無臭なのだけど、口に含むと。だからこれを使用する際は対象者に気づかれないよう、刺激のある食べ物や飲み物に混入させるのよ。辛い物とか……とかにね」

 話の流れから察するに、この美しい小瓶の中身が自白剤なのだろう。
 女性が好みそうなデザインのそれに似つかわしくない劇薬。

 ファニイは婚約者のケビンから昔自白剤について聞いたことがある。犯罪者の自白に使われるそれは真実を喋らせる代わりに対象の体を害してしまうという。

 そんな恐ろしい代物を飲ませたのか、とファニイは信じられないものを見るような目をアンゼリカへと向けた。

「炭酸……? まさか、先ほどのスパークリングワインに自白剤を……?」

「ええ、そうよ。炭酸は口内を刺激するから分かりにくいでしょう?」

「な、なんで……? どうしてそんな物を私達に……!?」

「それは貴女方がを話さないからよ。大人しくあの件の真実を話してくれていたのなら……わたくしもここまでしなかったわ」

「あの件……? いったい何のことですか……!?」

「まあ、先ほど話していた内容をもう忘れてしまったの? ミラージュ様が男爵令嬢への嫌がらせを主導していたことについてよ。わたくしね、どうも想像できないの。ミラージュ様が誰かに嫌がらせをするなんて……」

「へ? え……? まさか、それだけの為にこんなことを……!?」

 二人はアンゼリカから知らされた事実に愕然とした。
 なんでミラージュの家族でもないアンゼリカが彼女の件についてそこまで知りたがるのか。しかもこんなことまでして。

……と仰るのでしたら、さっさと真相を話せばよかったのではなくて? それでは改めて聞くわよ、ミラージュ様は男爵令嬢に嫌がらせをするよう貴女方に指示を下したのかしら?」

 それを言えば終わる、と分かっている二人は口を閉ざし更にその上から手で塞いだ。いくら真実しか話せなくなる自白剤といえど、言葉さえ話さなければ問題はないだろうと。

 しかし、それくらいのことをアンゼリカが予想していないはずがなかった。

「あ……ち、ちがいます……。私達が自らの意志であの尻軽女に嫌がらせをしました……」

「あの尻軽女が大嫌いで、痛い目を見ればいいと思って、それで……その罪をミラージュ様に擦り付けました……」

 まるで体の中の空気を出すかのように、自然と言葉が口を衝いて出た。
 口を塞いでいたはずの手もあっさりと外れ、頭では“話してはダメ”だと分かっているのに何故か話したくて仕方がない。

 呼吸をするかのように“真実”が口からどんどん出てくる。

「あの尻軽女もムカつきますけど……いい子ぶっているミラージュ様にもムカつきました。甘いことを言っていないでさっさと始末しろよとイライラしました……」

「あの甘ちゃんミラージュが、尻軽女を殿下の愛妾にするなんて言わなければ……私達もあそこまでしなかったんです。あの人……頭もいいし、美人だし、機転が利きそうだったからしていたのに……とんだハズレだわ」

「期待? 貴女はミラージュ様にどのような期待をしていたの?」

 黙って聞いていたアンゼリカだが、ふとその言葉が気になってしまった。
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