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騎士団長の息子と宰相の息子③
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「アインス……貴様! 不敬だぞ!!」
「そうだね、僕の発言はとても不敬なものだ。でもね、おかしくなった殿下が国政を担うことは誰も望まないと思うよ」
「は? おかしくなった、だと? 殿下の何処がおかしいって言うんだ!」
「おかしいだろう。婚約者よりもルルナを優先しているのだから」
「アインス……お前は一体何を言っているんだ? 殿下がルルナを優先するのは当たり前じゃないか? ルルナは殿下の真実の愛なのだから」
「当たり前……ねえ。あのさ、ケビン、それって何処の世界の当たり前なの?」
「え…………?」
質問の意図が分からずケビンは首を傾げた。
その瞬間手の力が緩んだので、アインスはケビンの手を振り払い、掴まれて乱れた襟元を正す。
「ケビン、自分に置き換えてもう一度よく考えてご覧。もし君の元にファニイ嬢が見知らぬ男を連れてきて、その男を愛していると言ったらどう思う?」
「は? いきなり何だ?」
「いいから想像してみてくれ。そしてファニイ嬢がその男と人目もはばからずベタベタとはしたなく触れ合っていたら……どう思う?」
「そんなの怒るに決まっているだろう!? その男のことだって殴るに決まっている!」
「うん、だよね。それで君の周囲の人間が『真実の愛を邪魔するな』と文句を言って来たらどう思う?」
「そんなの……そいつらも殴るに決まっているだろう? 婚約者がいるのに他の男と目の前でイチャつくなんて頭がおかしいと思うし、それを擁護する人間もおかしい!」
「うん……あのさ、それが殿下とルルナ、そして僕と君の状況だったんだよ。婚約者の目の前でイチャつく殿下とルルナも、それを擁護していた僕達も、その頭のおかしな人間だった。……そうだろう?」
「え……? あ……!」
ケビンはそこで初めて自分達がその“殴りたいほど頭のおかしな奴”だということに気づいてハッとなった。
「え……いや、だって……殿下とルルナはあんなに愛し合って……」
「仮にファニイ嬢が君以外の男と本気で愛し合っていたとしたら、君は許せるのかい? “真実の愛”なら仕方ないね、と言えるのかい?」
アインスにそう問われ、ケビンは何も言えなかった。
もしファニイにそんなことを言われたら激高して相手の男を再起不能になるまで殴ってしまう自信がある。
つまり……それくらい嫌なことなのだ。
それに周囲がその不貞を“真実の愛”などと持て囃していたらそちらにも怒りを向けてしまうだろう。
不貞を正当化するなど頭がおかしい、と。
「……じゃあ、俺達はずっと、単なる不貞を“真実の愛”だと持て囃していたのか?」
「そうなるね……。殿下が本当にルルナを大切に想い、添い遂げたいと願うなら、まず王太子の座から降りなければならない。それ以外で二人が結ばれる道はないよ。なのに、それをせず、婚約者がいる状態でルルナを侍らすのはおかしいことなんだ」
「……俺で例えるなら、ファニイが俺以外の男を侍らせた状態で婚約も続けているということか……」
「そうだね。そして結婚しても変わらずに関係を続けていて、夫である君を蔑ろにし続けるんだ。そんなこと耐えられるかい?」
「……耐えられるわけない。ファニイのことは愛していないが、それでも蔑ろにされるのは我慢できない。侮辱を受けているも同然だ」
「だよね。僕もパメラにそんなことをされたら耐えられない……。でもさ、僕も君も婚約者を放置してルルナばかりを追いかけていたんだ。つまり僕達は婚約者を蔑ろにして侮辱し続けていたということだ」
そんな激高しそうになるほどの想いをファニイにさせていたのかと、ケビンはそこで初めて気づいた。
それと同時にどうしようもない罪悪感に襲われ眩暈がする。
「そうだね、僕の発言はとても不敬なものだ。でもね、おかしくなった殿下が国政を担うことは誰も望まないと思うよ」
「は? おかしくなった、だと? 殿下の何処がおかしいって言うんだ!」
「おかしいだろう。婚約者よりもルルナを優先しているのだから」
「アインス……お前は一体何を言っているんだ? 殿下がルルナを優先するのは当たり前じゃないか? ルルナは殿下の真実の愛なのだから」
「当たり前……ねえ。あのさ、ケビン、それって何処の世界の当たり前なの?」
「え…………?」
質問の意図が分からずケビンは首を傾げた。
その瞬間手の力が緩んだので、アインスはケビンの手を振り払い、掴まれて乱れた襟元を正す。
「ケビン、自分に置き換えてもう一度よく考えてご覧。もし君の元にファニイ嬢が見知らぬ男を連れてきて、その男を愛していると言ったらどう思う?」
「は? いきなり何だ?」
「いいから想像してみてくれ。そしてファニイ嬢がその男と人目もはばからずベタベタとはしたなく触れ合っていたら……どう思う?」
「そんなの怒るに決まっているだろう!? その男のことだって殴るに決まっている!」
「うん、だよね。それで君の周囲の人間が『真実の愛を邪魔するな』と文句を言って来たらどう思う?」
「そんなの……そいつらも殴るに決まっているだろう? 婚約者がいるのに他の男と目の前でイチャつくなんて頭がおかしいと思うし、それを擁護する人間もおかしい!」
「うん……あのさ、それが殿下とルルナ、そして僕と君の状況だったんだよ。婚約者の目の前でイチャつく殿下とルルナも、それを擁護していた僕達も、その頭のおかしな人間だった。……そうだろう?」
「え……? あ……!」
ケビンはそこで初めて自分達がその“殴りたいほど頭のおかしな奴”だということに気づいてハッとなった。
「え……いや、だって……殿下とルルナはあんなに愛し合って……」
「仮にファニイ嬢が君以外の男と本気で愛し合っていたとしたら、君は許せるのかい? “真実の愛”なら仕方ないね、と言えるのかい?」
アインスにそう問われ、ケビンは何も言えなかった。
もしファニイにそんなことを言われたら激高して相手の男を再起不能になるまで殴ってしまう自信がある。
つまり……それくらい嫌なことなのだ。
それに周囲がその不貞を“真実の愛”などと持て囃していたらそちらにも怒りを向けてしまうだろう。
不貞を正当化するなど頭がおかしい、と。
「……じゃあ、俺達はずっと、単なる不貞を“真実の愛”だと持て囃していたのか?」
「そうなるね……。殿下が本当にルルナを大切に想い、添い遂げたいと願うなら、まず王太子の座から降りなければならない。それ以外で二人が結ばれる道はないよ。なのに、それをせず、婚約者がいる状態でルルナを侍らすのはおかしいことなんだ」
「……俺で例えるなら、ファニイが俺以外の男を侍らせた状態で婚約も続けているということか……」
「そうだね。そして結婚しても変わらずに関係を続けていて、夫である君を蔑ろにし続けるんだ。そんなこと耐えられるかい?」
「……耐えられるわけない。ファニイのことは愛していないが、それでも蔑ろにされるのは我慢できない。侮辱を受けているも同然だ」
「だよね。僕もパメラにそんなことをされたら耐えられない……。でもさ、僕も君も婚約者を放置してルルナばかりを追いかけていたんだ。つまり僕達は婚約者を蔑ろにして侮辱し続けていたということだ」
そんな激高しそうになるほどの想いをファニイにさせていたのかと、ケビンはそこで初めて気づいた。
それと同時にどうしようもない罪悪感に襲われ眩暈がする。
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