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謁見①
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「は……? アンゼリカ嬢、今……何と言ったか?」
アンゼリカより謁見を求められた国王は謁見の間でとんでもない発言をかまされる。
「エドワード殿下は為政者に向いていない故、速やかに王太子を替えるべきだと申しました」
サラリととんでもない事を言ってのけたアンゼリカに国王は言葉を失った。
王太子を替えるだと? 自分が何を言っているのか理解しているのか!?
目の前の少女にそう怒鳴りつけてやりたいのに声が出ない。
こんな、自分の息子よりも年下の令嬢に王家の後継者について口を出されて不快なはずなのに。
有り得ない事を言われて驚いたというのもあるが、彼女の真剣な目や堂々とした態度に何故か圧倒される。
国王が臣下の娘に気圧されるなど、あってはならないというのに。
「婚約者以外の女の尻ばかり追いかけ、その女を傍に置かないと王太子の責務を果たせないなど論外です。そんな軟弱な器では、とても国を統べる王になどなれません」
迷いのない表情で真っ直ぐ国王を見据え、正論を述べるアンゼリカにその場にいた国王以外の者は「おお……」と感動の声をあげた。
それこそ皆言いたくても言えなかったこと。
婚約者を蔑ろにして他所の女の尻を追いかけるみっともない王太子に次代の王なぞ務まらない。
皆、心からそう思っていたが流石に国王相手にそんなことを、しかも王太子を悪く言うなど出来なかった。
それを自分達より年若い少女がこんなにはっきりと、恐れることなく奏上したことに驚きと感激を隠せない。
だが、国王だけは自分の息子を貶されたことに遅ればせながら立腹し、怒りの声をあげる。
「たかが臣下の娘風情が不敬な! 其方に王の後継者を決める権利などない! 弁えよ!」
国王の言葉も正論といえば正論だ。
次代の王を決める権利は現王にあり、臣下の娘に口出しする権利はない。
しかしその次代の王となる王太子は控えめに言っても屑だ。
王命で決められた婚約者を蔑ろにし、筆頭公爵を敵に回したとんでもない屑だ。
そんな屑を次代の王に据えるなど冗談じゃない。まともな臣下ならそう思うのは何もおかしくない。
その場にいる宰相を含めた文官や騎士達は皆アンゼリカの進言に心の中で同意した。
あんな屑男に次代の王は務まらないと。
「わたくしは陛下の後継者を決めようとしているわけではございませんよ? エドワード殿下が王太子として相応しくないと申し上げただけです。殿下に変わる王太子をどなたにするかは陛下がお決めになることだと理解していますわ」
違う、そうじゃない。
その場にいた者達は思わずそう突っ込みそうになった。
国王が憤慨しつつ告げた「お前に次代の王を決める権利などない」というのを、アンゼリカは言葉通りに捉えてしまっている。だから悪びれることなく「自分にそんな権利がないことなど知っている」と返せるのだ。そんな風にズレが生じている二人の会話を宰相達は固唾を飲んで聞いていた。
「そういうことを言っているのではない! 其方はどれだけ無礼な発言をしているか全く理解しておらぬ! 王太子はエドワード以外有り得ん!」
「? どうしてでしょうか? 王位継承権のある方は皆次代の王になる権利を有しておりますよね? なのにどうしてエドワード殿下だけが王太子になれるのでしょうか?」
「そんなのはエドワードが余の唯一の息子だからに決まっているだろうが!! 王家の正統なる血を継ぐ王子が王太子となることが当然だ!」
「そんな決まりも法もございません。王位継承権を有する方の中から最も王として相応しい才覚をお持ちの方が成るべきではございませんか? それなのに陛下の実の御子であるというだけで王太子に成れるなど、とても為政者の発言とは思えません。玉座に座る資格がある者は、為政者として最も相応しい者であると認識しておりますが……違うのですか?」
「…………っ!!? そ、それは…………」
アンゼリカの怖れを知らぬ鋭い指摘に国王は再び言葉に詰まった。
たかが年下の少女の戯言など怒鳴りつけてしまえばそれで終わり、と頭の中では分かっているのにうまい具合に口が動かない。畏怖すら感じさせる堂々としたアンゼリカの態度と、まるで人形のように温度を感じさせない冷めた瞳に気圧される。
「其方はまだ親になっていないから分からぬだろうが……己の子に己の座を継いでほしいと思うのは当然のことなのだ。余は玉座をエドワードに継いでほしいと願っている……」
「何故、親としての目線で語るのですか? ここは国王としての目線で語るべきでは? 国中の民を統べる王として……為政者としての目線で判断してもらわねば国の安寧は守れません。それに王とは全ての民の父でもあります。国父である陛下の御子はエドワード殿下だけではありません。この国の民は全て陛下の御子同然。ならば、子である民のことも考えて頂かなくては」
「………………っ!!? そ、それは……」
アンゼリカの正論中の正論に宰相達は思わず拍手を送るところだった。
その通りだ。全くその通りなのだ。
国の頂点に立つ者として”親”という私的な感情を出すべきではない。
子供に跡を継いでもらいたいのが親心なのは分かる。分かるが子供にその力量が無いのなら速やかに諦めるべきだ。
王太子は為政者としての責任感に著しく欠ける。
常に己の欲を優先させるような自分勝手な男が王位に就けば下の者達は不安でしかない。常に王のやらかしの尻拭いに奔走することになってしまう。
アンゼリカより謁見を求められた国王は謁見の間でとんでもない発言をかまされる。
「エドワード殿下は為政者に向いていない故、速やかに王太子を替えるべきだと申しました」
サラリととんでもない事を言ってのけたアンゼリカに国王は言葉を失った。
王太子を替えるだと? 自分が何を言っているのか理解しているのか!?
目の前の少女にそう怒鳴りつけてやりたいのに声が出ない。
こんな、自分の息子よりも年下の令嬢に王家の後継者について口を出されて不快なはずなのに。
有り得ない事を言われて驚いたというのもあるが、彼女の真剣な目や堂々とした態度に何故か圧倒される。
国王が臣下の娘に気圧されるなど、あってはならないというのに。
「婚約者以外の女の尻ばかり追いかけ、その女を傍に置かないと王太子の責務を果たせないなど論外です。そんな軟弱な器では、とても国を統べる王になどなれません」
迷いのない表情で真っ直ぐ国王を見据え、正論を述べるアンゼリカにその場にいた国王以外の者は「おお……」と感動の声をあげた。
それこそ皆言いたくても言えなかったこと。
婚約者を蔑ろにして他所の女の尻を追いかけるみっともない王太子に次代の王なぞ務まらない。
皆、心からそう思っていたが流石に国王相手にそんなことを、しかも王太子を悪く言うなど出来なかった。
それを自分達より年若い少女がこんなにはっきりと、恐れることなく奏上したことに驚きと感激を隠せない。
だが、国王だけは自分の息子を貶されたことに遅ればせながら立腹し、怒りの声をあげる。
「たかが臣下の娘風情が不敬な! 其方に王の後継者を決める権利などない! 弁えよ!」
国王の言葉も正論といえば正論だ。
次代の王を決める権利は現王にあり、臣下の娘に口出しする権利はない。
しかしその次代の王となる王太子は控えめに言っても屑だ。
王命で決められた婚約者を蔑ろにし、筆頭公爵を敵に回したとんでもない屑だ。
そんな屑を次代の王に据えるなど冗談じゃない。まともな臣下ならそう思うのは何もおかしくない。
その場にいる宰相を含めた文官や騎士達は皆アンゼリカの進言に心の中で同意した。
あんな屑男に次代の王は務まらないと。
「わたくしは陛下の後継者を決めようとしているわけではございませんよ? エドワード殿下が王太子として相応しくないと申し上げただけです。殿下に変わる王太子をどなたにするかは陛下がお決めになることだと理解していますわ」
違う、そうじゃない。
その場にいた者達は思わずそう突っ込みそうになった。
国王が憤慨しつつ告げた「お前に次代の王を決める権利などない」というのを、アンゼリカは言葉通りに捉えてしまっている。だから悪びれることなく「自分にそんな権利がないことなど知っている」と返せるのだ。そんな風にズレが生じている二人の会話を宰相達は固唾を飲んで聞いていた。
「そういうことを言っているのではない! 其方はどれだけ無礼な発言をしているか全く理解しておらぬ! 王太子はエドワード以外有り得ん!」
「? どうしてでしょうか? 王位継承権のある方は皆次代の王になる権利を有しておりますよね? なのにどうしてエドワード殿下だけが王太子になれるのでしょうか?」
「そんなのはエドワードが余の唯一の息子だからに決まっているだろうが!! 王家の正統なる血を継ぐ王子が王太子となることが当然だ!」
「そんな決まりも法もございません。王位継承権を有する方の中から最も王として相応しい才覚をお持ちの方が成るべきではございませんか? それなのに陛下の実の御子であるというだけで王太子に成れるなど、とても為政者の発言とは思えません。玉座に座る資格がある者は、為政者として最も相応しい者であると認識しておりますが……違うのですか?」
「…………っ!!? そ、それは…………」
アンゼリカの怖れを知らぬ鋭い指摘に国王は再び言葉に詰まった。
たかが年下の少女の戯言など怒鳴りつけてしまえばそれで終わり、と頭の中では分かっているのにうまい具合に口が動かない。畏怖すら感じさせる堂々としたアンゼリカの態度と、まるで人形のように温度を感じさせない冷めた瞳に気圧される。
「其方はまだ親になっていないから分からぬだろうが……己の子に己の座を継いでほしいと思うのは当然のことなのだ。余は玉座をエドワードに継いでほしいと願っている……」
「何故、親としての目線で語るのですか? ここは国王としての目線で語るべきでは? 国中の民を統べる王として……為政者としての目線で判断してもらわねば国の安寧は守れません。それに王とは全ての民の父でもあります。国父である陛下の御子はエドワード殿下だけではありません。この国の民は全て陛下の御子同然。ならば、子である民のことも考えて頂かなくては」
「………………っ!!? そ、それは……」
アンゼリカの正論中の正論に宰相達は思わず拍手を送るところだった。
その通りだ。全くその通りなのだ。
国の頂点に立つ者として”親”という私的な感情を出すべきではない。
子供に跡を継いでもらいたいのが親心なのは分かる。分かるが子供にその力量が無いのなら速やかに諦めるべきだ。
王太子は為政者としての責任感に著しく欠ける。
常に己の欲を優先させるような自分勝手な男が王位に就けば下の者達は不安でしかない。常に王のやらかしの尻拭いに奔走することになってしまう。
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