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国王と宰相
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アンゼリカは毎日のように王宮へと足を運び王妃教育に勤しんでいた。
その際に王太子に挨拶に行くこともしなければ、何らかの交流を図ろうともしない。
妃になる為の努力はするが王太子と仲を深める必要は一切ないという態度に国王は苦言を呈するも、アンゼリカは逆にそれを言いくるめた。
『何故わたくしの方から交流を図らねばなりませんの? わたくしの言動に一切の不敬を問わないと約束なさったのは陛下です。なのに、その約束を守らず今こうして不敬を問おうとするとは何事ですか。約束を守ってくださらないのであれば婚約は破棄しますがよろしいですか?』
婚約を“解消”ではなく“破棄”と告げるアンゼリカに国王はひどく慌てて発言を撤回した。
破棄などされたらグリフォン公爵家からの資金援助が経たれるだけでなく、それまでかかった資金も返還しなければならないからだ。
抜け目のないグリフォン公爵は婚約にかかる契約書にきちんとその旨も記載している。
支払えないのであれば国宝を売ってでも金を用意しろという内容をかなりオブラートに包んだ文言がしっかりと。
「グリフォン公爵家の娘を王太子の婚約者にするのは間違っていただろうか……」
国王は頭を抱えたまま執務室で苦々しく呟いた。
彼の前に決裁が必要な書類を積んでいた宰相はその呟きを耳にし、呆れた顔を向ける。
「間違っているも何も、他に方法はありません……。現在、公爵の位を賜っている家の中で殿下と年の近い年齢の令嬢がいるのはサラマンドラ家とグリフォン家だけです。サラマンドラ家のミラージュ様を殿下が再起不能になさったのですから、残るはグリフォン公爵家のアンゼリカ様だけ。何の不満があると言うのです?」
「いや……それはそうだが、流石に国王相手にあのような不敬を働く娘を王太子の妃にするのはどうかと……」
「一切の不敬を問わない、そう約束なさったのは陛下ですよ? それと教師の話ではアンゼリカ様はかなり賢くて物覚えが早いそうです。身分・能力共に妃となるにこれ以上相応しい令嬢はいらっしゃらないかと」
「それも確かにそうだが……こんなことならばミラージュ嬢の方がよかった。彼女ならばアンゼリカ嬢のように傲慢な態度など決してとらなかっただろうし……」
「今更ですよ……。その理想的なミラージュ様を鬱状態にまで追い込んだのは王太子殿下なのですから」
宰相の責める物言いに国王は口を噤んだ。
自分の息子が婚約者を鬱状態にまで追い込んだというのに国王はどこか他人事だ。
その反省すらしていない様子に宰相は内心呆れてしまう。
どうせ国王はミラージュ様が駄目なら別の令嬢を婚約者に宛がえばそれで済むと軽く考えていたのだろう。
だが、その軽い考えで宛がった新しい令嬢は完全に規格外の性格をしていた。
国王を相手にしても怯まず引かず、耐えることもしない。これだけだとただ単に我儘な令嬢かと思われるが実際はまるで違う。
我儘などという可愛らしい型になど収まらない。もっと、根本からして人とは違う何かが彼女にはある。
それこそ国王ですら気圧されてしまう何かが。
「……私としましては、ミラージュ様よりもアンゼリカ様の方が妃に相応しいかと思います」
「なんだって……?」
あの傲岸不遜な少女のどこが、とでも言いたげな顔で国王は宰相を見た。
「アンゼリカ様はどのような理不尽にも冷静に対処できる器をお持ちです。おそらく彼女がミラージュ様と同じ目に遭ったとしても、悩むことすらしないのではないかと」
「同じ目とは……ミラージュ嬢が王太子に責められたことを言っているのか?」
「……はい。ですが殿下だけではありません。私の馬鹿息子も騎士団長の子息も、それらの婚約者も、皆自分勝手にミラージュ様を責めました。多方面から責められミラージュ様は精神を病まれてしまわれた。当然です、誰かに責められて心に傷を負うことは当たり前のこと。ですが……おそらくアンゼリカ様は誰に責められようが全く気にも留めないと、そう思えてならない」
「そんなことは……いや、確かにそうかもしれない」
あの淡々とした令嬢ならば誰に責められようが悠然と微笑んでいるだろう。
その姿を想像した国王は背筋が寒くなった。
その際に王太子に挨拶に行くこともしなければ、何らかの交流を図ろうともしない。
妃になる為の努力はするが王太子と仲を深める必要は一切ないという態度に国王は苦言を呈するも、アンゼリカは逆にそれを言いくるめた。
『何故わたくしの方から交流を図らねばなりませんの? わたくしの言動に一切の不敬を問わないと約束なさったのは陛下です。なのに、その約束を守らず今こうして不敬を問おうとするとは何事ですか。約束を守ってくださらないのであれば婚約は破棄しますがよろしいですか?』
婚約を“解消”ではなく“破棄”と告げるアンゼリカに国王はひどく慌てて発言を撤回した。
破棄などされたらグリフォン公爵家からの資金援助が経たれるだけでなく、それまでかかった資金も返還しなければならないからだ。
抜け目のないグリフォン公爵は婚約にかかる契約書にきちんとその旨も記載している。
支払えないのであれば国宝を売ってでも金を用意しろという内容をかなりオブラートに包んだ文言がしっかりと。
「グリフォン公爵家の娘を王太子の婚約者にするのは間違っていただろうか……」
国王は頭を抱えたまま執務室で苦々しく呟いた。
彼の前に決裁が必要な書類を積んでいた宰相はその呟きを耳にし、呆れた顔を向ける。
「間違っているも何も、他に方法はありません……。現在、公爵の位を賜っている家の中で殿下と年の近い年齢の令嬢がいるのはサラマンドラ家とグリフォン家だけです。サラマンドラ家のミラージュ様を殿下が再起不能になさったのですから、残るはグリフォン公爵家のアンゼリカ様だけ。何の不満があると言うのです?」
「いや……それはそうだが、流石に国王相手にあのような不敬を働く娘を王太子の妃にするのはどうかと……」
「一切の不敬を問わない、そう約束なさったのは陛下ですよ? それと教師の話ではアンゼリカ様はかなり賢くて物覚えが早いそうです。身分・能力共に妃となるにこれ以上相応しい令嬢はいらっしゃらないかと」
「それも確かにそうだが……こんなことならばミラージュ嬢の方がよかった。彼女ならばアンゼリカ嬢のように傲慢な態度など決してとらなかっただろうし……」
「今更ですよ……。その理想的なミラージュ様を鬱状態にまで追い込んだのは王太子殿下なのですから」
宰相の責める物言いに国王は口を噤んだ。
自分の息子が婚約者を鬱状態にまで追い込んだというのに国王はどこか他人事だ。
その反省すらしていない様子に宰相は内心呆れてしまう。
どうせ国王はミラージュ様が駄目なら別の令嬢を婚約者に宛がえばそれで済むと軽く考えていたのだろう。
だが、その軽い考えで宛がった新しい令嬢は完全に規格外の性格をしていた。
国王を相手にしても怯まず引かず、耐えることもしない。これだけだとただ単に我儘な令嬢かと思われるが実際はまるで違う。
我儘などという可愛らしい型になど収まらない。もっと、根本からして人とは違う何かが彼女にはある。
それこそ国王ですら気圧されてしまう何かが。
「……私としましては、ミラージュ様よりもアンゼリカ様の方が妃に相応しいかと思います」
「なんだって……?」
あの傲岸不遜な少女のどこが、とでも言いたげな顔で国王は宰相を見た。
「アンゼリカ様はどのような理不尽にも冷静に対処できる器をお持ちです。おそらく彼女がミラージュ様と同じ目に遭ったとしても、悩むことすらしないのではないかと」
「同じ目とは……ミラージュ嬢が王太子に責められたことを言っているのか?」
「……はい。ですが殿下だけではありません。私の馬鹿息子も騎士団長の子息も、それらの婚約者も、皆自分勝手にミラージュ様を責めました。多方面から責められミラージュ様は精神を病まれてしまわれた。当然です、誰かに責められて心に傷を負うことは当たり前のこと。ですが……おそらくアンゼリカ様は誰に責められようが全く気にも留めないと、そう思えてならない」
「そんなことは……いや、確かにそうかもしれない」
あの淡々とした令嬢ならば誰に責められようが悠然と微笑んでいるだろう。
その姿を想像した国王は背筋が寒くなった。
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