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罠①

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「やっぱり、来たわね……」

 新居の寝室に設置した水晶の置物カメラに録画されていた映像。
 そこには床の隠し扉から現れたセレスタンと若い女の姿がハッキリと映っていた。

「この女性の顔……公爵邸で会ったあの無礼な侍女だわ」

 彼女がセレスタンの協力者であることはルイから聞いたが、こんな場所にまでついてくるなんて趣味が悪い。
 同じ女性の身でありながら、私が手籠めにされている場面に立ち会うなんて何とも思わないのだろうか。

 それにしても、分かっていたとはいえ大嫌いな男が私を手籠めにする為に潜んでいる様子を見ると気分が悪い。
 
「さて、嫌な事はさっさと済ませましょうか」

 時間はすでに日暮れ時、景色が橙色に染まっている。
 この時間に馬車を新居まで走らせれば到着するのは夜になるだろう。

 丁度いい。その時間ならば床下に潜む二匹のネズミが出てくる頃だ。

 害獣駆除へと向かうため、私は部屋を出て馬車へと急いだ。

「姫様、外は冷えますのでこれを」

 馬車に乗ると、ローゼが毛皮の毛布を私の膝へかけてくれた。

「ありがとう、温かいわ」

「それはようございました。昼間の気温は暖かくなってきたとはいえ、夜はまだまだ冷えますもの。このような時間に姫様を外出させることに陛下も妃殿下も難色を示しておいででしたわ……」

「まあ、お父様もお母様も心配性ね。こんな時間というけれど、他家で催される夜会の時だってそうじゃない? その時もこんな時間に外に出るわ」

「いえ、全然違いますよ。他家の夜会は王都の邸で催されますので移動に時間はそれほどかかりません。おまけに季節も春から夏にかけてです。今は冬ですよ?」

 夜会の時と今の状況では距離も気温も全然違う。
 誰よりも安全と体調に配慮すべき王族が冬の夜に長時間外へ出るということに、周囲が難色を示すのは当然かもしれない。

「それは分かっているけど……今でなければいけないの。今でなければ

 この日の為に準備を進めてきた。
 
 今夜、私というに喰らうために巣穴から出てきた害獣を仕留めねば意味がない。
 もう二度と自分の人生を脅かされないためにも……。

「……畏まりました、全て姫様のよきように。御身は必ずわたくし共がお守り致しますので」

「ありがとう、ローゼ。貴女達もこんな時間に同行させてごめんね」

「何を仰いますか、わたくし共は皆姫様に忠誠を誓った身。貴女様の望みに応え、動くことこそ喜びにございます」

 自分でも無茶をしていることは自覚している。
 己の身を囮にして対象を罠にかけるという真似は王族がすべきことではない。

 深窓の姫君である王女がすべきことは、配下に命を下し座して待つこと。

(だけどそれでは決定打にならないのよね……)

 私がいない状態で彼等を捕らえたとしても、不法侵入という罪でしか罰を受けないだろう。
 危害を加えるために床下に潜んでいたとしてもそう。
 未だ公爵子息という身分を持つ彼を重く罰する為には現行犯でなくてはならない。

 ふと、馬車の窓から外を見ると辺りはすでに暗く染まっていた。
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