67 / 84
罠①
しおりを挟む
「やっぱり、来たわね……」
新居の寝室に設置した水晶の置物に録画されていた映像。
そこには床の隠し扉から現れたセレスタンと若い女の姿がハッキリと映っていた。
「この女性の顔……公爵邸で会ったあの無礼な侍女だわ」
彼女がセレスタンの協力者であることはルイから聞いたが、こんな場所にまでついてくるなんて趣味が悪い。
同じ女性の身でありながら、私が手籠めにされている場面に立ち会うなんて何とも思わないのだろうか。
それにしても、分かっていたとはいえ大嫌いな男が私を手籠めにする為に潜んでいる様子を見ると気分が悪い。
「さて、嫌な事はさっさと済ませましょうか」
時間はすでに日暮れ時、景色が橙色に染まっている。
この時間に馬車を新居まで走らせれば到着するのは夜になるだろう。
丁度いい。その時間ならば床下に潜む二匹のネズミが出てくる頃だ。
害獣駆除へと向かうため、私は部屋を出て馬車へと急いだ。
「姫様、外は冷えますのでこれを」
馬車に乗ると、ローゼが毛皮の毛布を私の膝へかけてくれた。
「ありがとう、温かいわ」
「それはようございました。昼間の気温は暖かくなってきたとはいえ、夜はまだまだ冷えますもの。このような時間に姫様を外出させることに陛下も妃殿下も難色を示しておいででしたわ……」
「まあ、お父様もお母様も心配性ね。こんな時間というけれど、他家で催される夜会の時だってそうじゃない? その時もこんな時間に外に出るわ」
「いえ、全然違いますよ。他家の夜会は王都の邸で催されますので移動に時間はそれほどかかりません。おまけに季節も春から夏にかけてです。今は冬ですよ?」
夜会の時と今の状況では距離も気温も全然違う。
誰よりも安全と体調に配慮すべき王族が冬の夜に長時間外へ出るということに、周囲が難色を示すのは当然かもしれない。
「それは分かっているけど……今でなければいけないの。今でなければ害獣が巣穴から出てこないから」
この日の為に準備を進めてきた。
今夜、私という餌に喰らうために巣穴から出てきた害獣を仕留めねば意味がない。
もう二度と自分の人生を脅かされないためにも……。
「……畏まりました、全て姫様のよきように。御身は必ずわたくし共がお守り致しますので」
「ありがとう、ローゼ。貴女達もこんな時間に同行させてごめんね」
「何を仰いますか、わたくし共は皆姫様に忠誠を誓った身。貴女様の望みに応え、動くことこそ喜びにございます」
自分でも無茶をしていることは自覚している。
己の身を囮にして対象を罠にかけるという真似は王族がすべきことではない。
深窓の姫君である王女がすべきことは、配下に命を下し座して待つこと。
(だけどそれでは決定打にならないのよね……)
私がいない状態で彼等を捕らえたとしても、不法侵入という罪でしか罰を受けないだろう。
危害を加えるために床下に潜んでいたとしてもそう。
未だ公爵子息という身分を持つ彼を重く罰する為には現行犯でなくてはならない。
ふと、馬車の窓から外を見ると辺りはすでに暗く染まっていた。
新居の寝室に設置した水晶の置物に録画されていた映像。
そこには床の隠し扉から現れたセレスタンと若い女の姿がハッキリと映っていた。
「この女性の顔……公爵邸で会ったあの無礼な侍女だわ」
彼女がセレスタンの協力者であることはルイから聞いたが、こんな場所にまでついてくるなんて趣味が悪い。
同じ女性の身でありながら、私が手籠めにされている場面に立ち会うなんて何とも思わないのだろうか。
それにしても、分かっていたとはいえ大嫌いな男が私を手籠めにする為に潜んでいる様子を見ると気分が悪い。
「さて、嫌な事はさっさと済ませましょうか」
時間はすでに日暮れ時、景色が橙色に染まっている。
この時間に馬車を新居まで走らせれば到着するのは夜になるだろう。
丁度いい。その時間ならば床下に潜む二匹のネズミが出てくる頃だ。
害獣駆除へと向かうため、私は部屋を出て馬車へと急いだ。
「姫様、外は冷えますのでこれを」
馬車に乗ると、ローゼが毛皮の毛布を私の膝へかけてくれた。
「ありがとう、温かいわ」
「それはようございました。昼間の気温は暖かくなってきたとはいえ、夜はまだまだ冷えますもの。このような時間に姫様を外出させることに陛下も妃殿下も難色を示しておいででしたわ……」
「まあ、お父様もお母様も心配性ね。こんな時間というけれど、他家で催される夜会の時だってそうじゃない? その時もこんな時間に外に出るわ」
「いえ、全然違いますよ。他家の夜会は王都の邸で催されますので移動に時間はそれほどかかりません。おまけに季節も春から夏にかけてです。今は冬ですよ?」
夜会の時と今の状況では距離も気温も全然違う。
誰よりも安全と体調に配慮すべき王族が冬の夜に長時間外へ出るということに、周囲が難色を示すのは当然かもしれない。
「それは分かっているけど……今でなければいけないの。今でなければ害獣が巣穴から出てこないから」
この日の為に準備を進めてきた。
今夜、私という餌に喰らうために巣穴から出てきた害獣を仕留めねば意味がない。
もう二度と自分の人生を脅かされないためにも……。
「……畏まりました、全て姫様のよきように。御身は必ずわたくし共がお守り致しますので」
「ありがとう、ローゼ。貴女達もこんな時間に同行させてごめんね」
「何を仰いますか、わたくし共は皆姫様に忠誠を誓った身。貴女様の望みに応え、動くことこそ喜びにございます」
自分でも無茶をしていることは自覚している。
己の身を囮にして対象を罠にかけるという真似は王族がすべきことではない。
深窓の姫君である王女がすべきことは、配下に命を下し座して待つこと。
(だけどそれでは決定打にならないのよね……)
私がいない状態で彼等を捕らえたとしても、不法侵入という罪でしか罰を受けないだろう。
危害を加えるために床下に潜んでいたとしてもそう。
未だ公爵子息という身分を持つ彼を重く罰する為には現行犯でなくてはならない。
ふと、馬車の窓から外を見ると辺りはすでに暗く染まっていた。
334
お気に入りに追加
5,562
あなたにおすすめの小説
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる