茶番には付き合っていられません

わらびもち

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皇后陛下

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「降りかかる火の粉を全力で振り払うその姿勢、見事だわ。貴女のように強く賢い貴婦人こそこの帝国の国母となるに相応しくてよ」

「恐れ入ります」

 義理の母となった皇后陛下から称賛の言葉を貰い、私は深く頭を下げた。
 この御方は流石帝国の国母なだけあって威厳や気迫が並みの女性のそれとは比べ物にならない。少なくとも母国の阿婆擦れ王妃とは雲泥の差がある。アレには気迫も威厳も皆無ではあったが……。

「異国の地より皇太子の花嫁となった貴女をよく思わない者は沢山います。ですが貴女ならばそのような不敬な者達をその冴えた頭で蹴散らすことが可能でしょう。良い事だわ。帝国の母となる女であればことが出来なければ務まりませんから」

 この含みのある言い方は暗に亡くなったジュリアス殿下の婚約者のことを指しているのだろう。以前、皇后陛下に招かれた茶会で遠回しにそんなことを言っていたのを覚えている。

 あの事件はジュリアス殿下の愚行によって起こった事だ。度重なる彼の不貞紛いの言動によって精神をすり減らした婚約者の我慢が限界を迎えた末に引き起こされた惨劇。婚約者の令嬢は加害者にして被害者といえるので、皇太子殺しの犯人といえども皇家は彼女を非難するような真似を一切しなかった。

 これが母国の王族ならみっともなく騒ぎ立てるだろうに、婚約者の家との関係を考えて皇帝陛下自ら頭を下げて謝罪した姿勢は流石だと思う。もう王者としての器が段違いだ。

 皇帝陛下がそういう姿勢をとるのであれば皇后陛下も否を唱えることはしない。
 ただ、母親としての部分では納得で出来ていないようだ。
 やたらと私が精神的に強い事を褒めるのは、ジュリアス殿下の婚約者がそうではなかったからなのだろう。自分の力で己を守る、とは精神面のことも含めているのだと思う。
 
 とはいえ、我慢が美徳のように考える貴婦人は少なくないと思う。
 ミシェルもそうだったように、家の為にと限界まで我慢を重ねる女性は大貴族に多い。
 それにジュリアス殿下のように自分勝手な俺様に振り回されて続けていたら私だってどうしていたか分からない。あの人小説の中でヘレンを気に入って攫うほどのトラブルを自ら作成する気質だもの。

「わたくしは貴女に期待しておりますよ。これからも精進なさい」

「はい、ありがとうございます。ご期待に沿えるよう精進して参ります」

 それだけ告げると皇后陛下は配下の者を引き連れて去って行った。
 
 期待しているわけではないけれど……「何かあればいつでも相談してね」と言ってくれないあたりに冷たさを感じる。

(多分、ジュリアス殿下の婚約者にもそうだったんだろうな……)

 皇后陛下には何かあればいつでも相談に乗るという優しさや甘さがない。
 何があっても己で対処しなさい、と突き放した態度だ。
 今も私を助ける為に来たのではなく、私がどう対処するか見定める為に来たのだろう。
 助けもせずに見ていたのがその証拠だ。

 おそらく皇后陛下が婚約者だった時もそうだったのだろう。おそらく歴代の皇后も皆そうだったのかもしれない。帝国の国母たる者ならば己に降りかかる火の粉は己で対処すべきだと、そう教えられてきたのかもしれない。だから息子の伴侶の相談に乗るという発想が無いのだろう。

 確かにその考えは正しいと思う。帝国の皇后になるのであれば精神が強くなくては成り立たない。だが……そうは言っても、ジュリアス殿下の婚約者にもう少し寄り添っていたのなら結果は違っていたのではないかと思ってしまう。

 きっとこれから先、私が困難に立ちふさがったとしてもこの方は助けてくれないと分かる。困っていようが手を差し伸べるような真似をなさらないだろう。むしろ助けなど求めたら失望されてしまいそうだ。

(まあ、それが為政者の一族というものかしら……)

 母国の王族のようにべったりと過干渉だったことの方が特殊だったのだろう。
 冷たい感じはするがこういうものだと割り切れば楽かもしれない。

 それに……折角己の身は己で守れと言ってくださったのだから、その通りにしてやろうじゃないの。
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