66 / 87
閑話 ある男の独り言
しおりを挟む
薄暗い室内に一人の男が酒を煽っていた。男はくすんだ金の髪を掻きむしり、しきりに何かを呟いている。
「嗚呼……ったく、あの馬鹿ボンボンが……。あそこまでお膳立てしてやったってのによぉ……しくじりやがって。……どこまでも使えない馬鹿だな」
テーブルに用意された葡萄酒の瓶を掴み、グラスに注がずそのまま口をつける。
音を立てて呑み下し、プハッと息を吐く様は豪快だが些か品性に欠ける。
「あ~……ワインも美味いっちゃ美味いが……やっぱりビールが飲みてぇよな。ツマミもな……こんなお上品な物じゃなくて、焼き鳥や枝豆が食いたいぜ……」
金髪の男は不満そうな顔でテーブルに酒のお供として置かれたチーズやナッツ、チョコレートをぽいぽい口に放り投げた。
「でもまあ……あの馬鹿ボンボンが始末されるのはいい気味だな。あいつ、よりにもよってミシェルに興味を示しやがって……お前はフワフワ頭の貧乳でも愛でてろっつの! ミシェルの豊満な体は俺のもんだ。誰にも渡さねぇ……」
再び酒瓶を口につけ、ごきゅごきゅと音を立てて中身を飲み干す。
「皇太子だか何だか知らねえけどよ……ポッと出のモブが俺のミシェルを奪おうなんざ冗談じゃねえ……! ったく……どいつもこいつも勝手な真似しやがって……たかが紙の上のキャラクター風情がよぉ……」
部屋の中には彼以外誰もいない。つまりこれは独り言なのだろうが……いきなり彼は自分以外の誰かと話す素振りをし始めた。
「あ? なんだよ、お前あの馬鹿に未練でもあんのか? お前の子かどうかも分かんないんだぞ? ……あん? あれは間違いなく王家の血を継いでいるって? じゃあなんであんな残念な奴になっちまったんだよ?」
男は自分の胸に手をあて何故かその部分に顔を向けて話しかけている。
まるで自分の中に誰かがいるかのように……。
「あれは完全に自業自得だろ。あの貧乳女に夢中になってミシェルを散々虐めまくった結果だろうが。そんでそれを止めなかったお前も同罪! あれほど匙加減に気を付けろって言ったのに、本当お前って不器用だよな? お前だって初恋の君に似たミシェルが欲しくてたまんなかったんだろう? だったらもっと上手くやれよ!」
空になった酒瓶を床にドンと音を立てて乱暴に置くと、辺りが静寂に包まれた。
「お前はもう引っ込んでろ。これからは俺(・)が動く。お育ちがいいせいか、お前のやり方は回りくどいからな。早くしねえとミシェルがあの皇太子のものになっちまうぞ?」
男は自分の胸に向かって「だよな?」と呟いた。
「長年狙ってきた女を奪われるのは屈辱だろう? 俺だってずっとミシェルを狙ってた。俺とお前は同じ目的を持った同士だ。どちらが想いを遂げたとしても同じこと、体は一緒だからな」
くくっ、と愉快そうに笑う男。彼は胸から手を離し、伸びた前髪を鬱陶しそうにかき上げた。
「安心しろ。この国の王はミシェルに産んでもらう。だからあの出来損ないのことはもう忘れろ。お前の血を継いでいるかどうかも分からんあの馬鹿のことはな……」
男の不穏な言葉を聞く者は誰もいない。
窓から覗く月だけが男の一人芝居を見つめていた。
「嗚呼……ったく、あの馬鹿ボンボンが……。あそこまでお膳立てしてやったってのによぉ……しくじりやがって。……どこまでも使えない馬鹿だな」
テーブルに用意された葡萄酒の瓶を掴み、グラスに注がずそのまま口をつける。
音を立てて呑み下し、プハッと息を吐く様は豪快だが些か品性に欠ける。
「あ~……ワインも美味いっちゃ美味いが……やっぱりビールが飲みてぇよな。ツマミもな……こんなお上品な物じゃなくて、焼き鳥や枝豆が食いたいぜ……」
金髪の男は不満そうな顔でテーブルに酒のお供として置かれたチーズやナッツ、チョコレートをぽいぽい口に放り投げた。
「でもまあ……あの馬鹿ボンボンが始末されるのはいい気味だな。あいつ、よりにもよってミシェルに興味を示しやがって……お前はフワフワ頭の貧乳でも愛でてろっつの! ミシェルの豊満な体は俺のもんだ。誰にも渡さねぇ……」
再び酒瓶を口につけ、ごきゅごきゅと音を立てて中身を飲み干す。
「皇太子だか何だか知らねえけどよ……ポッと出のモブが俺のミシェルを奪おうなんざ冗談じゃねえ……! ったく……どいつもこいつも勝手な真似しやがって……たかが紙の上のキャラクター風情がよぉ……」
部屋の中には彼以外誰もいない。つまりこれは独り言なのだろうが……いきなり彼は自分以外の誰かと話す素振りをし始めた。
「あ? なんだよ、お前あの馬鹿に未練でもあんのか? お前の子かどうかも分かんないんだぞ? ……あん? あれは間違いなく王家の血を継いでいるって? じゃあなんであんな残念な奴になっちまったんだよ?」
男は自分の胸に手をあて何故かその部分に顔を向けて話しかけている。
まるで自分の中に誰かがいるかのように……。
「あれは完全に自業自得だろ。あの貧乳女に夢中になってミシェルを散々虐めまくった結果だろうが。そんでそれを止めなかったお前も同罪! あれほど匙加減に気を付けろって言ったのに、本当お前って不器用だよな? お前だって初恋の君に似たミシェルが欲しくてたまんなかったんだろう? だったらもっと上手くやれよ!」
空になった酒瓶を床にドンと音を立てて乱暴に置くと、辺りが静寂に包まれた。
「お前はもう引っ込んでろ。これからは俺(・)が動く。お育ちがいいせいか、お前のやり方は回りくどいからな。早くしねえとミシェルがあの皇太子のものになっちまうぞ?」
男は自分の胸に向かって「だよな?」と呟いた。
「長年狙ってきた女を奪われるのは屈辱だろう? 俺だってずっとミシェルを狙ってた。俺とお前は同じ目的を持った同士だ。どちらが想いを遂げたとしても同じこと、体は一緒だからな」
くくっ、と愉快そうに笑う男。彼は胸から手を離し、伸びた前髪を鬱陶しそうにかき上げた。
「安心しろ。この国の王はミシェルに産んでもらう。だからあの出来損ないのことはもう忘れろ。お前の血を継いでいるかどうかも分からんあの馬鹿のことはな……」
男の不穏な言葉を聞く者は誰もいない。
窓から覗く月だけが男の一人芝居を見つめていた。
4,578
お気に入りに追加
9,917
あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】正妃に裏切られて、どんな気持ちですか?
かとるり
恋愛
両国の繁栄のために嫁ぐことになった王女スカーレット。
しかし彼女を待ち受けていたのは王太子ディランからの信じられない言葉だった。
「スカーレット、俺はシェイラを正妃にすることに決めた」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる