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さようなら①
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「貴方先ほどわたくしが生意気だから躾の為に冷たくしたとおっしゃっていましたよね? それが舌の根の乾かぬ内から性癖を満たす為だと意見を変えてどういうおつもりですか?」
「何故お前は理由がひとつだけだと思うんだ? どちらの理由も私の本心だ」
つまり、躾にもなるし自分の欲も満たせて一石二鳥だと?
度し難い程の屑で変態だな。こいつが長年ミシェルで欲を満たしていたのかと思うと吐き気がする。
「王妃様は貴方のそういった嗜好をご存じだったからヘレンを同席させたのですか……?」
「いや、母上はただお前に嫌がらせをしたかっただけだろう。私がそれで愉悦を感じているとは知らない。最も……そう感じるようになったのはそれなりに成長してからだ。初めの内はこんなことをしていいのかという葛藤があった」
つまり最初はママの命令で渋々やっていたけど、段々と快感に目覚めてきたってこと?
あの阿婆擦れ王妃が……思いっきり子育て失敗しているよ。
どうすんのさ、あんたのせいで息子がやばい性癖に目覚めていますけど?
それにこいつさっきまでママに命令されたことを恥じていたくせに、今では開き直って堂々としてやがる。腹立たしいわー……。
「……どちらにしても貴方がたは性格が歪んでおりますわ。貴方の嗜好はヘレンも知っていますの?」
「……ヘレンは知らない。清らかで無垢な彼女にはこんなことは知られたくない」
「あらまあ……ご寵愛が深いことで。成程、つまりヘレンのことは真綿で包むように大切に扱い、わたくしは貴方の醜い欲をぶつける対象ということですか……」
「ああ、王太子である私の寵愛を受けられることを感謝するといい」
するわけないでしょう、このド変態屑モラハラ野郎が。
それに、もう王太子でもないくせに何を言っているんだか。
「あらあら……以前、ご自分の妃はヘレン一人だけだとおっしゃったのを忘れましたの? 王家の色のドレスを贈る相手はヘレンだけだと……陛下の御前で断言しましたよね?」
あのサイズの合っていないドレスを贈りつけた挙句に盗人扱いされたムカつく事件でこいつはハッキリと自分が迎えるのはヘレンだけだと言った。忘れたというのなら空っぽの頭をフルスイングで叩いてでも思い出させてやろう。
「ああ……あれはお前を傷つける為に言ったことだ。王家の色である紫のドレスをヘレンのサイズに仕立て、それを贈りつけたらさぞかし傷つくだろうと……」
その陶酔した気持ち悪い目を向けないでくれる? 不愉快なんだけど。
それにしても、あのドレスってやっぱりヘレンのサイズで作られていたんだ。
どうりで胸元が貧相だと……
「そして皆の前で泥棒呼ばわりをしてやり、ヘレンだけを愛すると宣言すればどれだけ悲痛な顔をするのかと……楽しみにしていた。だが、お前は顔色ひとつ変えなかったな……?……どうしてだっ!?」
「まあ……いきなり大声を出さないでくださいます? うるさいですよ」
「いいから答えろ! あんな辱めを受けておいてどうして平然としていられた!? どうしてだ!!」
「いや……辱めを受けたのは貴方の方では? 馬鹿みたいに一人で茶番を繰り広げていただけですよ?」
「なに……!? 茶番だと!」
「茶番でしょう? 勝手にサイズの違うドレス贈りつけて、勝手に王宮で意味不明なことを騒いでいただけですもの。正直な話『何やっているのだろう』としか思えませんでしたよ。それにあれは国王陛下が貴方にわたくしへ向けて贈れと命じたものでしょう? それを己の性癖を満たす為の道具として使おうとするとは……人として終わっていますね」
あのドレスはそんなくだらない目的で仕立てられたものだったのか。
ドレスの制作に携わったデザイナーさんやお針子さんたちが可哀想だ……。
そして完全なる税金の無駄遣い。もったいないからヘレンに着せてやりなよ。
「陛下がお可哀そうですわ……。それはもう嬉しそうにわたくしに『息子が贈ったドレスは気に入ったか』と尋ねていらしたのよ? それをあんな形で裏切られて……ああ、なんて可哀想な御方……」
わざとらしく「可哀想」と連呼してやると変態王子は少しだけ怯んだ。
屑でも一応は父親への罪悪感というものはあるのね。
「元々わたくしは貴方が嫌いでしたけど、あの一件でますます嫌いになりましたね。よかったですね~? わたくしから嫌悪の目で見られて嬉しいでしょう?」
「なっ…………!? 嫌い、だと?」
「何故驚いているのです? 罵倒され、蔑ろにされ、気色の悪い欲をぶつけてくる男を嫌いにならない方が難しいでしょう?」
「わ、私は……王太子だぞ!?」
「え? だから何です? 王太子だろうとなかろうと、貴方のことは大嫌いです」
ひどくショックを受けた顔をしている王子が滑稽で仕方ない。
嫌なことばかりしておいて、どうして嫌われないと思うのか謎だ。
ああ……でも、少しだけ彼の性癖に共感できるかもしれない。
この男が傷ついた顔をする度に私も愉悦を感じて仕方がない。
ミシェルを傷つけた分、いや、それ以上を返してやりたいという気持ちが湧き上がる。
「何故お前は理由がひとつだけだと思うんだ? どちらの理由も私の本心だ」
つまり、躾にもなるし自分の欲も満たせて一石二鳥だと?
度し難い程の屑で変態だな。こいつが長年ミシェルで欲を満たしていたのかと思うと吐き気がする。
「王妃様は貴方のそういった嗜好をご存じだったからヘレンを同席させたのですか……?」
「いや、母上はただお前に嫌がらせをしたかっただけだろう。私がそれで愉悦を感じているとは知らない。最も……そう感じるようになったのはそれなりに成長してからだ。初めの内はこんなことをしていいのかという葛藤があった」
つまり最初はママの命令で渋々やっていたけど、段々と快感に目覚めてきたってこと?
あの阿婆擦れ王妃が……思いっきり子育て失敗しているよ。
どうすんのさ、あんたのせいで息子がやばい性癖に目覚めていますけど?
それにこいつさっきまでママに命令されたことを恥じていたくせに、今では開き直って堂々としてやがる。腹立たしいわー……。
「……どちらにしても貴方がたは性格が歪んでおりますわ。貴方の嗜好はヘレンも知っていますの?」
「……ヘレンは知らない。清らかで無垢な彼女にはこんなことは知られたくない」
「あらまあ……ご寵愛が深いことで。成程、つまりヘレンのことは真綿で包むように大切に扱い、わたくしは貴方の醜い欲をぶつける対象ということですか……」
「ああ、王太子である私の寵愛を受けられることを感謝するといい」
するわけないでしょう、このド変態屑モラハラ野郎が。
それに、もう王太子でもないくせに何を言っているんだか。
「あらあら……以前、ご自分の妃はヘレン一人だけだとおっしゃったのを忘れましたの? 王家の色のドレスを贈る相手はヘレンだけだと……陛下の御前で断言しましたよね?」
あのサイズの合っていないドレスを贈りつけた挙句に盗人扱いされたムカつく事件でこいつはハッキリと自分が迎えるのはヘレンだけだと言った。忘れたというのなら空っぽの頭をフルスイングで叩いてでも思い出させてやろう。
「ああ……あれはお前を傷つける為に言ったことだ。王家の色である紫のドレスをヘレンのサイズに仕立て、それを贈りつけたらさぞかし傷つくだろうと……」
その陶酔した気持ち悪い目を向けないでくれる? 不愉快なんだけど。
それにしても、あのドレスってやっぱりヘレンのサイズで作られていたんだ。
どうりで胸元が貧相だと……
「そして皆の前で泥棒呼ばわりをしてやり、ヘレンだけを愛すると宣言すればどれだけ悲痛な顔をするのかと……楽しみにしていた。だが、お前は顔色ひとつ変えなかったな……?……どうしてだっ!?」
「まあ……いきなり大声を出さないでくださいます? うるさいですよ」
「いいから答えろ! あんな辱めを受けておいてどうして平然としていられた!? どうしてだ!!」
「いや……辱めを受けたのは貴方の方では? 馬鹿みたいに一人で茶番を繰り広げていただけですよ?」
「なに……!? 茶番だと!」
「茶番でしょう? 勝手にサイズの違うドレス贈りつけて、勝手に王宮で意味不明なことを騒いでいただけですもの。正直な話『何やっているのだろう』としか思えませんでしたよ。それにあれは国王陛下が貴方にわたくしへ向けて贈れと命じたものでしょう? それを己の性癖を満たす為の道具として使おうとするとは……人として終わっていますね」
あのドレスはそんなくだらない目的で仕立てられたものだったのか。
ドレスの制作に携わったデザイナーさんやお針子さんたちが可哀想だ……。
そして完全なる税金の無駄遣い。もったいないからヘレンに着せてやりなよ。
「陛下がお可哀そうですわ……。それはもう嬉しそうにわたくしに『息子が贈ったドレスは気に入ったか』と尋ねていらしたのよ? それをあんな形で裏切られて……ああ、なんて可哀想な御方……」
わざとらしく「可哀想」と連呼してやると変態王子は少しだけ怯んだ。
屑でも一応は父親への罪悪感というものはあるのね。
「元々わたくしは貴方が嫌いでしたけど、あの一件でますます嫌いになりましたね。よかったですね~? わたくしから嫌悪の目で見られて嬉しいでしょう?」
「なっ…………!? 嫌い、だと?」
「何故驚いているのです? 罵倒され、蔑ろにされ、気色の悪い欲をぶつけてくる男を嫌いにならない方が難しいでしょう?」
「わ、私は……王太子だぞ!?」
「え? だから何です? 王太子だろうとなかろうと、貴方のことは大嫌いです」
ひどくショックを受けた顔をしている王子が滑稽で仕方ない。
嫌なことばかりしておいて、どうして嫌われないと思うのか謎だ。
ああ……でも、少しだけ彼の性癖に共感できるかもしれない。
この男が傷ついた顔をする度に私も愉悦を感じて仕方がない。
ミシェルを傷つけた分、いや、それ以上を返してやりたいという気持ちが湧き上がる。
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