38 / 87
爆弾発言
しおりを挟む
それからも「入れろ」「入れない」の攻防戦が続いたが、王妃付きの女官と護衛が目で「一度言ったら聞かないのでお願いします」と懇願してくるので致し方なく折れてやった。
応接室へと案内し、侍女にお茶の準備を頼む。
一応は病人……病人? 毒を盛られた人の事を病人と言っていいのかは分からないが、気を利かせて体に優しいハーブティーを用意させた。優しすぎるだろう、私。
「それで? 本日は何の御用でしょうか?」
冷たい声音でそう問いかけると、王妃はベール越しにこちらをキッと睨んできた。
よくよく見ると目尻に大分皺が出来ている。これも毒のせいか、はたまたいつもこうやって人を睨んでいるから皺が出来たのか、多分後者だと思う。
「……アレクセイと婚約破棄をしたいそうね?」
「そうですが、何か?」
あっけらかんとした私の態度が気に入らなかったのか、王妃は手の平でテーブルをバンと叩く。
「臣下如きが王太子相手に婚約破棄を申し出るなど何様なの!? お前は自分の立場を分かっていないようね?」
「立場? 立場って何です? おっしゃっている意味が一から十まで分かりません。わたくしに婚約破棄をされて困るのはアレクセイ殿下ですし、己の立場も立ち位置も分かっていないのはそちらでは?」
「な……なんですって!?」
うーん……、この正論を言うと顔を真っ赤にして怒る姿はあの王子そっくりだわ。
ミシェルは王妃の言うことに逆らったりしなかったし、怒らせたこともないから分からなかった。だけどそのせいで図に乗らせてしまったのよね。
ハッキリ言って今の王家に力などない。戦になれば間違いなく我が家が勝つ。
王妃の生家が助力したとしても結果は同じだ。それにあちらはお母様に弱みを握られているのでこちらに敵対するとも思えない。
目の前の老婆のような外見になってしまった哀れな女はそんなことも分からないのだろう。己の立ち位置も状況も弁えられないところさえ親子そっくりだ。
「王太子の婚約者になることがどれだけ名誉なことか理解できないの!? これだから世間知らずの小娘は嫌なのよ!」
「ふん、世間知らずはどちらですか? その王太子は廃嫡が確定しておりますし、王妃になることを名誉だとは思いません。それにもう大公殿下が新たな王太子となりますし、諸侯もそれを推しております。今更騒いだところでもうどうにもなりませんよ」
「…………っ!! お前が! お前が婚約破棄を申し込まなければアレクセイは王太子のままでいられたのよ! 全てはお前の我儘のせいなのよ!!」
「あら、だったら婚約破棄を申し出て正解ですね。アレクセイ王子はとてもじゃありませんが国を統べる君主の器ではありませんもの。どう育てたらあんなキーキー煩いうえに政治も分からない山猿が出来上がるんですか?」
分かり易く煽ると王妃は目を吊り上げてキーッと声を上げて怒り出した。
やだ、こんな猿みたいな部分もそっくり!
「なんて無礼な小娘なの!! アレクセイを馬鹿にするなど許せないわ!」
「いやですね、馬鹿になどしておりませんわ」
「どこがよ! ふざけるのも大概におし!!」
「ふざけてなどおりません。馬鹿にしているのではなく、馬鹿だと思っております。あそこまで立ち回りが下手な王子に王太子位を授けたこと自体が間違いですよ」
「なんですって!」と立ち上がり扇子でこちらを叩こうとした王妃だが、頭に血が上りすぎたせいか貧血を起こしてへたり込んだ。
「いけませんよ、病身で無理をしては。まあ、ハーブティーでも飲んで気持ちを落ち着かせてください」
私も喉が渇いたのでハーブティーに口をつけた。うん、美味しい。
「誰が無理をさせていると思っているのよ! ふざけないで頂戴!!」
「御自分が勝手に無理をしているだけでは? もう覆ることのないアレクセイ王子の廃嫡をどうにかしたいのでしょうけど……手遅れですよ」
「お前などが分かった口を利かないで! あの子は王になる為に産まれてきたのよ!」
「いや~……それはないですね。あそこまで王として適性のない王子は中々に珍しいですよ」
「適性がないですって!? 分かった口をきかないで!」
「わたくしだけでなく、誰だって分かりますよ。他人の話は聞かない、時と場合に応じた振る舞いも出来ない、婚約者を大切にも出来ない、平民の女を傍に置く。どれか一つだけでも致命的なのに、全て揃っているのですもの。ここまで駄目な方向で揃っている王子が王となれば国の未来は真っ暗です。貴女も国の母であるのなら、我が子よりも国の事を考えてはいかがです?」
「わたくしが王妃としてなっていないとでも言いたいの!? それに平民の女とはヘレンのこと!? あの子を馬鹿にするのは許さないわよ!」
「まあ……そこまで怒るだなんて、ヘレンは王妃様にとって余程大切な子なのですね?」
わざと含みのある言い方をして王妃の出方を伺う。
まあ、この場でヘレンの出生に関わることを口にするとは思えないが……さて、どう出るかしら?
「当然よ! あの子は……ヘレンは、わたくしと最愛の人……イアンとの子供なのだから!!」
えええ!? 言った! 言っちゃった!!
よりにもよって自分の子だと断言しちゃった!!
ちょっと、貴女の女官や護衛がこれでもかと目を見開いて驚いているよ?
誰よ“イアン”って……陛下の名じゃないよね? 陛下の名前は確かジェームズだったし……まさかハスリー子爵の名前かしら?
というか、あんた……今自分が堂々と“不貞宣言”したって理解している?
絶対にしていないよね!!
応接室へと案内し、侍女にお茶の準備を頼む。
一応は病人……病人? 毒を盛られた人の事を病人と言っていいのかは分からないが、気を利かせて体に優しいハーブティーを用意させた。優しすぎるだろう、私。
「それで? 本日は何の御用でしょうか?」
冷たい声音でそう問いかけると、王妃はベール越しにこちらをキッと睨んできた。
よくよく見ると目尻に大分皺が出来ている。これも毒のせいか、はたまたいつもこうやって人を睨んでいるから皺が出来たのか、多分後者だと思う。
「……アレクセイと婚約破棄をしたいそうね?」
「そうですが、何か?」
あっけらかんとした私の態度が気に入らなかったのか、王妃は手の平でテーブルをバンと叩く。
「臣下如きが王太子相手に婚約破棄を申し出るなど何様なの!? お前は自分の立場を分かっていないようね?」
「立場? 立場って何です? おっしゃっている意味が一から十まで分かりません。わたくしに婚約破棄をされて困るのはアレクセイ殿下ですし、己の立場も立ち位置も分かっていないのはそちらでは?」
「な……なんですって!?」
うーん……、この正論を言うと顔を真っ赤にして怒る姿はあの王子そっくりだわ。
ミシェルは王妃の言うことに逆らったりしなかったし、怒らせたこともないから分からなかった。だけどそのせいで図に乗らせてしまったのよね。
ハッキリ言って今の王家に力などない。戦になれば間違いなく我が家が勝つ。
王妃の生家が助力したとしても結果は同じだ。それにあちらはお母様に弱みを握られているのでこちらに敵対するとも思えない。
目の前の老婆のような外見になってしまった哀れな女はそんなことも分からないのだろう。己の立ち位置も状況も弁えられないところさえ親子そっくりだ。
「王太子の婚約者になることがどれだけ名誉なことか理解できないの!? これだから世間知らずの小娘は嫌なのよ!」
「ふん、世間知らずはどちらですか? その王太子は廃嫡が確定しておりますし、王妃になることを名誉だとは思いません。それにもう大公殿下が新たな王太子となりますし、諸侯もそれを推しております。今更騒いだところでもうどうにもなりませんよ」
「…………っ!! お前が! お前が婚約破棄を申し込まなければアレクセイは王太子のままでいられたのよ! 全てはお前の我儘のせいなのよ!!」
「あら、だったら婚約破棄を申し出て正解ですね。アレクセイ王子はとてもじゃありませんが国を統べる君主の器ではありませんもの。どう育てたらあんなキーキー煩いうえに政治も分からない山猿が出来上がるんですか?」
分かり易く煽ると王妃は目を吊り上げてキーッと声を上げて怒り出した。
やだ、こんな猿みたいな部分もそっくり!
「なんて無礼な小娘なの!! アレクセイを馬鹿にするなど許せないわ!」
「いやですね、馬鹿になどしておりませんわ」
「どこがよ! ふざけるのも大概におし!!」
「ふざけてなどおりません。馬鹿にしているのではなく、馬鹿だと思っております。あそこまで立ち回りが下手な王子に王太子位を授けたこと自体が間違いですよ」
「なんですって!」と立ち上がり扇子でこちらを叩こうとした王妃だが、頭に血が上りすぎたせいか貧血を起こしてへたり込んだ。
「いけませんよ、病身で無理をしては。まあ、ハーブティーでも飲んで気持ちを落ち着かせてください」
私も喉が渇いたのでハーブティーに口をつけた。うん、美味しい。
「誰が無理をさせていると思っているのよ! ふざけないで頂戴!!」
「御自分が勝手に無理をしているだけでは? もう覆ることのないアレクセイ王子の廃嫡をどうにかしたいのでしょうけど……手遅れですよ」
「お前などが分かった口を利かないで! あの子は王になる為に産まれてきたのよ!」
「いや~……それはないですね。あそこまで王として適性のない王子は中々に珍しいですよ」
「適性がないですって!? 分かった口をきかないで!」
「わたくしだけでなく、誰だって分かりますよ。他人の話は聞かない、時と場合に応じた振る舞いも出来ない、婚約者を大切にも出来ない、平民の女を傍に置く。どれか一つだけでも致命的なのに、全て揃っているのですもの。ここまで駄目な方向で揃っている王子が王となれば国の未来は真っ暗です。貴女も国の母であるのなら、我が子よりも国の事を考えてはいかがです?」
「わたくしが王妃としてなっていないとでも言いたいの!? それに平民の女とはヘレンのこと!? あの子を馬鹿にするのは許さないわよ!」
「まあ……そこまで怒るだなんて、ヘレンは王妃様にとって余程大切な子なのですね?」
わざと含みのある言い方をして王妃の出方を伺う。
まあ、この場でヘレンの出生に関わることを口にするとは思えないが……さて、どう出るかしら?
「当然よ! あの子は……ヘレンは、わたくしと最愛の人……イアンとの子供なのだから!!」
えええ!? 言った! 言っちゃった!!
よりにもよって自分の子だと断言しちゃった!!
ちょっと、貴女の女官や護衛がこれでもかと目を見開いて驚いているよ?
誰よ“イアン”って……陛下の名じゃないよね? 陛下の名前は確かジェームズだったし……まさかハスリー子爵の名前かしら?
というか、あんた……今自分が堂々と“不貞宣言”したって理解している?
絶対にしていないよね!!
7,037
あなたにおすすめの小説
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?
雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。
理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。
クラリスはただ微笑み、こう返す。
「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」
そうして物語は終わる……はずだった。
けれど、ここからすべてが狂い始める。
*完結まで予約投稿済みです。
*1日3回更新(7時・12時・18時)
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる