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元凶
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「どうした、エルリアン嬢?」
「あ、いえ……その、ヘレンはどうやってあの場に入ることが出来たのかと……。あの周辺は朝から警備兵が巡回していたのでとても侵入できるような空気ではなかったはずです」
「ああ……うん。それを私も聞いたのだが……信じられんことにその警備兵が女の侵入を許してしまったそうだ」
「え……? 警備兵が侵入を許したのですか!?」
まさかの原因に私ははしたなくも口をポカンと開けたまま固まってしまった。
警備兵が不審者の侵入を許した? それでは警備の意味がないじゃないの!?
「信じられんよな……。王宮を警備する兵士としてあり得ない行いだ。王宮の兵士がここまでポンコツだとは……」
額を押さえて項垂れる大公殿下からは悲壮感が漂っている。
無理もない。選りすぐりのはずの王宮兵士達の中に不審者の侵入を簡単に許してしまうポンコツがいたなんて信じたくもないはずだ。
「女の侵入を許したのは若い兵士二人だった。なんでも普段からその女とは交流する仲だったそうで、何も変に思わず通してしまったそうだ……」
それって知人だから通しちゃったということ?
有り得ない……嘘でしょう? 自分の知人だからという理由でホイホイ通していたら警備の意味ないんだけど……!?
「当然その二人には処罰を受けてもらった。鞭打ち20回の後、王都からの永久追放だ。焼き鏝で罪人の紋を体に刻んだうえでな」
罰がエグい…………。
鞭打ちって体に傷が残るらしいし、焼き鏝で罪人の証をつけてしまえばもう今後はマトモな職にも就けないし、結婚だって難しくなるのに……。いや、もしかして結婚していた? だとしたら家族崩壊だってあり得る。しかも王都追放まで……。
「……済まない、女性を相手にする話ではなかったな」
「いえ、お気になさらず。それにしても信じられませんね。兵士がそんな易々と侵入を許すだなんて……」
これでは王宮の警備に期待出来ない。もともとあまり期待も信用もしていなかったが、ここにきてゼロとなった。
こんな有様じゃ皇太子殿下の安全も守れるかどうかが分からない。
父親に頼んで公爵家から応援を呼んだほうがいいかな……。ああ、こんな事態になると分かっていたら我が家の騎士を一個師団分連れてくるんだった!
「私も王宮の警備に信用が置けなくなった。とりあえず今は大公家の家臣を皇太子殿下の宮の警備にあたらせることにした。殿下の周辺は君の家の騎士が護衛に就いてくれたことだし、ひとまずこれで帰国するまでもたせようと思う」
確かに……新たに兵士を雇う時間も無ければその者が信用できるかも分からない。
だったらお互いに信用できる者を皇太子殿下の守りに就かせるしかない。
しかし、そうなると私や大公殿下の守りは薄くなってしまうというデメリットがある。
「左様でございますか……。しかし、それでは大公殿下をお守りする者が少なくなってしまいます。生家より護衛騎士を追加で派遣してもらいますので、よろしければ殿下のお傍にも数名置くことをお許しください」
「すまない……助かる。王家は君と君の家にどこまでも迷惑をかけて情けない限りだ……。心から礼を言わせてほしい」
それは当然だ。だってもしこの方の御身に何かあれば、またあの馬鹿が次代の王として返り咲くことになる。そんなのは絶対に駄目だ。
「いえ、礼には及びません。それよりも可能であればヘレンをどこかに閉じ込めておいて頂けませんか? 彼女は今後も何かをやらかす気がして仕方ないのです」
「ああ、安心してくれ。貴族ではないが王妃殿下が寵愛する侍女への最大の譲歩として貴族牢に入れてある。本音を言えば地下牢に入れてしまいたかったがババアが煩くて……失敬、王妃殿下が煩くてそれは出来なかったからな……」
大公殿下、今王妃の事“ババア”って言った!?
いや……うん、分かるよ。ムカつくよね、あの我儘自己中おばさん。
あいつ本当に嫌い! 婚約中ミシェルに何度も嫌味を言ってくるんだもの!
要約すると「息子ちゃんにはアンタみたいな澄ました女よりも可愛くて素直なヘレンの方が相応しい」みたいなことをいっつも言ってきやがって……思い出したらムカついてきたわ。
というか、あの自己中ババアが全ての元凶じゃない?
あいつがヘレンを拾って傍に置いているせいで可愛い息子ちゃんは婚約破棄されて廃嫡されるんだけど……息子の人生潰して満足か? とんだ毒親だよ!
王太子も可哀想に……毒母のせいで人生潰されて。まあ、同情はしてやらないけど。
今更ながら思うのだけどあのババアは結局何がしたかったのだろう?
可愛い息子ちゃんに可愛いヘレンを宛がいたかったようだけど、それをしたらどうなるか想像がつかなかったのかしら? だとした物凄い馬鹿なんだけど。
王妃になるにはそれなりも身分と家柄じゃないと、本人もキツいし周囲も納得しないって分からないのかしら? 貴族なんてプライドの塊だもの、自分達より身分が低い家の出の王妃に傅くなんて我慢できるわけないじゃない。しかもヘレンは元子爵令嬢だから今は平民。誰が平民の王妃に頭を下げるというのよ。
いけない……ついババア憎さに話が脱線してしまった。
ババアのことは一旦置いておきましょう。どうせ陛下に盛られた毒のせいで長くはないんだし。
それよりもヘレンだけど……貴族牢に入れたってどうせ抜け出すんだろうなー……。
ヒロインは脱獄するって相場が決まっているもの……。
あれ? それはもうヒロインじゃなくて脱獄犯じゃない?
国際テロに脱獄と……私の中でヘレンのイメージがどんどん犯罪者へと向かっていくわ……。
「あ、いえ……その、ヘレンはどうやってあの場に入ることが出来たのかと……。あの周辺は朝から警備兵が巡回していたのでとても侵入できるような空気ではなかったはずです」
「ああ……うん。それを私も聞いたのだが……信じられんことにその警備兵が女の侵入を許してしまったそうだ」
「え……? 警備兵が侵入を許したのですか!?」
まさかの原因に私ははしたなくも口をポカンと開けたまま固まってしまった。
警備兵が不審者の侵入を許した? それでは警備の意味がないじゃないの!?
「信じられんよな……。王宮を警備する兵士としてあり得ない行いだ。王宮の兵士がここまでポンコツだとは……」
額を押さえて項垂れる大公殿下からは悲壮感が漂っている。
無理もない。選りすぐりのはずの王宮兵士達の中に不審者の侵入を簡単に許してしまうポンコツがいたなんて信じたくもないはずだ。
「女の侵入を許したのは若い兵士二人だった。なんでも普段からその女とは交流する仲だったそうで、何も変に思わず通してしまったそうだ……」
それって知人だから通しちゃったということ?
有り得ない……嘘でしょう? 自分の知人だからという理由でホイホイ通していたら警備の意味ないんだけど……!?
「当然その二人には処罰を受けてもらった。鞭打ち20回の後、王都からの永久追放だ。焼き鏝で罪人の紋を体に刻んだうえでな」
罰がエグい…………。
鞭打ちって体に傷が残るらしいし、焼き鏝で罪人の証をつけてしまえばもう今後はマトモな職にも就けないし、結婚だって難しくなるのに……。いや、もしかして結婚していた? だとしたら家族崩壊だってあり得る。しかも王都追放まで……。
「……済まない、女性を相手にする話ではなかったな」
「いえ、お気になさらず。それにしても信じられませんね。兵士がそんな易々と侵入を許すだなんて……」
これでは王宮の警備に期待出来ない。もともとあまり期待も信用もしていなかったが、ここにきてゼロとなった。
こんな有様じゃ皇太子殿下の安全も守れるかどうかが分からない。
父親に頼んで公爵家から応援を呼んだほうがいいかな……。ああ、こんな事態になると分かっていたら我が家の騎士を一個師団分連れてくるんだった!
「私も王宮の警備に信用が置けなくなった。とりあえず今は大公家の家臣を皇太子殿下の宮の警備にあたらせることにした。殿下の周辺は君の家の騎士が護衛に就いてくれたことだし、ひとまずこれで帰国するまでもたせようと思う」
確かに……新たに兵士を雇う時間も無ければその者が信用できるかも分からない。
だったらお互いに信用できる者を皇太子殿下の守りに就かせるしかない。
しかし、そうなると私や大公殿下の守りは薄くなってしまうというデメリットがある。
「左様でございますか……。しかし、それでは大公殿下をお守りする者が少なくなってしまいます。生家より護衛騎士を追加で派遣してもらいますので、よろしければ殿下のお傍にも数名置くことをお許しください」
「すまない……助かる。王家は君と君の家にどこまでも迷惑をかけて情けない限りだ……。心から礼を言わせてほしい」
それは当然だ。だってもしこの方の御身に何かあれば、またあの馬鹿が次代の王として返り咲くことになる。そんなのは絶対に駄目だ。
「いえ、礼には及びません。それよりも可能であればヘレンをどこかに閉じ込めておいて頂けませんか? 彼女は今後も何かをやらかす気がして仕方ないのです」
「ああ、安心してくれ。貴族ではないが王妃殿下が寵愛する侍女への最大の譲歩として貴族牢に入れてある。本音を言えば地下牢に入れてしまいたかったがババアが煩くて……失敬、王妃殿下が煩くてそれは出来なかったからな……」
大公殿下、今王妃の事“ババア”って言った!?
いや……うん、分かるよ。ムカつくよね、あの我儘自己中おばさん。
あいつ本当に嫌い! 婚約中ミシェルに何度も嫌味を言ってくるんだもの!
要約すると「息子ちゃんにはアンタみたいな澄ました女よりも可愛くて素直なヘレンの方が相応しい」みたいなことをいっつも言ってきやがって……思い出したらムカついてきたわ。
というか、あの自己中ババアが全ての元凶じゃない?
あいつがヘレンを拾って傍に置いているせいで可愛い息子ちゃんは婚約破棄されて廃嫡されるんだけど……息子の人生潰して満足か? とんだ毒親だよ!
王太子も可哀想に……毒母のせいで人生潰されて。まあ、同情はしてやらないけど。
今更ながら思うのだけどあのババアは結局何がしたかったのだろう?
可愛い息子ちゃんに可愛いヘレンを宛がいたかったようだけど、それをしたらどうなるか想像がつかなかったのかしら? だとした物凄い馬鹿なんだけど。
王妃になるにはそれなりも身分と家柄じゃないと、本人もキツいし周囲も納得しないって分からないのかしら? 貴族なんてプライドの塊だもの、自分達より身分が低い家の出の王妃に傅くなんて我慢できるわけないじゃない。しかもヘレンは元子爵令嬢だから今は平民。誰が平民の王妃に頭を下げるというのよ。
いけない……ついババア憎さに話が脱線してしまった。
ババアのことは一旦置いておきましょう。どうせ陛下に盛られた毒のせいで長くはないんだし。
それよりもヘレンだけど……貴族牢に入れたってどうせ抜け出すんだろうなー……。
ヒロインは脱獄するって相場が決まっているもの……。
あれ? それはもうヒロインじゃなくて脱獄犯じゃない?
国際テロに脱獄と……私の中でヘレンのイメージがどんどん犯罪者へと向かっていくわ……。
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