茶番には付き合っていられません

わらびもち

文字の大きさ
上 下
16 / 87

元凶

しおりを挟む
「どうした、エルリアン嬢?」

「あ、いえ……その、ヘレンはどうやってあの場に入ることが出来たのかと……。あの周辺は朝から警備兵が巡回していたのでとても侵入できるような空気ではなかったはずです」

「ああ……うん。それを私も聞いたのだが……信じられんことにその警備兵が女の侵入を許してしまったそうだ」

「え……? 警備兵が侵入を許したのですか!?」

 まさかの原因に私ははしたなくも口をポカンと開けたまま固まってしまった。
 
 警備兵が不審者ヘレンの侵入を許した? それでは警備の意味がないじゃないの!?

「信じられんよな……。王宮を警備する兵士としてあり得ない行いだ。王宮の兵士がここまでポンコツだとは……」

 額を押さえて項垂れる大公殿下からは悲壮感が漂っている。
 無理もない。選りすぐりのはずの王宮兵士達の中に不審者の侵入を簡単に許してしまうポンコツがいたなんて信じたくもないはずだ。

「女の侵入を許したのは若い兵士二人だった。なんでも普段からその女とは交流する仲だったそうで、何も変に思わず通してしまったそうだ……」

 それって知人だから通しちゃったということ?

 有り得ない……嘘でしょう? 自分の知人だからという理由でホイホイ通していたら警備の意味ないんだけど……!?

「当然その二人には処罰を受けてもらった。鞭打ち20回の後、王都からの永久追放だ。焼き鏝で罪人の紋を体に刻んだうえでな」

 罰がエグい…………。
 鞭打ちって体に傷が残るらしいし、焼き鏝で罪人の証をつけてしまえばもう今後はマトモな職にも就けないし、結婚だって難しくなるのに……。いや、もしかして結婚していた? だとしたら家族崩壊だってあり得る。しかも王都追放まで……。

「……済まない、女性を相手にする話ではなかったな」

「いえ、お気になさらず。それにしても信じられませんね。兵士がそんな易々と侵入を許すだなんて……」

 これでは王宮の警備に期待出来ない。もともとあまり期待も信用もしていなかったが、ここにきてゼロとなった。

 こんな有様じゃ皇太子殿下の安全も守れるかどうかが分からない。
 父親に頼んで公爵家から応援を呼んだほうがいいかな……。ああ、こんな事態になると分かっていたら我が家の騎士を一個師団分連れてくるんだった!

「私も王宮の警備に信用が置けなくなった。とりあえず今は大公家の家臣を皇太子殿下の宮の警備にあたらせることにした。殿下の周辺は君の家の騎士が護衛に就いてくれたことだし、ひとまずこれで帰国するまでもたせようと思う」

 確かに……新たに兵士を雇う時間も無ければその者が信用できるかも分からない。
 だったらお互いに信用できる者を皇太子殿下の守りに就かせるしかない。
 しかし、そうなると私や大公殿下の守りは薄くなってしまうというデメリットがある。

「左様でございますか……。しかし、それでは大公殿下をお守りする者が少なくなってしまいます。生家より護衛騎士を追加で派遣してもらいますので、よろしければ殿下のお傍にも数名置くことをお許しください」

「すまない……助かる。王家は君と君の家にどこまでも迷惑をかけて情けない限りだ……。心から礼を言わせてほしい」

 それは当然だ。だってもしこの方の御身に何かあれば、またあの馬鹿が次代の王として返り咲くことになる。そんなのは絶対に駄目だ。

「いえ、礼には及びません。それよりも可能であればヘレンをどこかに閉じ込めておいて頂けませんか? 彼女は今後も何かをやらかす気がして仕方ないのです」

「ああ、安心してくれ。貴族ではないが王妃殿下が寵愛する侍女への最大の譲歩として貴族牢に入れてある。本音を言えば地下牢に入れてしまいたかったがババアが煩くて……失敬、王妃殿下が煩くてそれは出来なかったからな……」

 大公殿下、今王妃の事“ババア”って言った!?

 いや……うん、分かるよ。ムカつくよね、あの我儘自己中おばさん。
 あいつ本当に嫌い! 婚約中ミシェルに何度も嫌味を言ってくるんだもの!
 要約すると「息子ちゃんにはアンタみたいな澄ました女よりも可愛くて素直なヘレンの方が相応しい」みたいなことをいっつも言ってきやがって……思い出したらムカついてきたわ。
 
 というか、あの自己中ババアが全ての元凶じゃない? 
 あいつがヘレンを拾って傍に置いているせいで可愛い息子ちゃんは婚約破棄されて廃嫡されるんだけど……息子の人生潰して満足か? とんだ毒親だよ!

 王太子も可哀想に……毒母のせいで人生潰されて。まあ、同情はしてやらないけど。

 今更ながら思うのだけどあのババアは結局何がしたかったのだろう?
 可愛い息子ちゃんに可愛いヘレンを宛がいたかったようだけど、それをしたらどうなるか想像がつかなかったのかしら? だとした物凄い馬鹿なんだけど。

 王妃になるにはそれなりも身分と家柄じゃないと、本人もキツいし周囲も納得しないって分からないのかしら? 貴族なんてプライドの塊だもの、自分達より身分が低い家の出の王妃に傅くなんて我慢できるわけないじゃない。しかもヘレンは元子爵令嬢だから今は平民。誰が平民の王妃に頭を下げるというのよ。

 いけない……ついババア憎さに話が脱線してしまった。

 ババアのことは一旦置いておきましょう。どうせ陛下に盛られた毒のせいで長くはないんだし。

 それよりもヘレンだけど……貴族牢に入れたってどうせ抜け出すんだろうなー……。
 ヒロインは脱獄するって相場が決まっているもの……。

 あれ? それはもうヒロインじゃなくて脱獄犯じゃない?
 国際テロに脱獄と……私の中でヘレンのイメージがどんどん犯罪者へと向かっていくわ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

【完結】正妃に裏切られて、どんな気持ちですか?

かとるり
恋愛
両国の繁栄のために嫁ぐことになった王女スカーレット。 しかし彼女を待ち受けていたのは王太子ディランからの信じられない言葉だった。 「スカーレット、俺はシェイラを正妃にすることに決めた」

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

処理中です...