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迷惑な客人がまた来た
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いまだ婚約破棄を了承してくれない国王にモヤモヤしていたある日のこと。
「お嬢様~……、ま~た先触れなしで客人が見えました~……」
「また? 今度はいったい誰なの?」
いつもお父様もお母様も不在の時に限って先触れなしで客がくる。
両親のスケジュールが外部に漏れているのかしら?
「それが……イアン公爵家のカール様です……」
「カール……? ああ、王太子殿下の側近ね……」
カール・イアンは王太子の幼馴染で側近の公爵家嫡男だ。
そしてヘレンに恋する当て馬ポジションでもある。
「どいつもこいつも先触れなしで筆頭公爵家に訪ねてくるなんて何様かしら? 話すことなんかないから追い出してちょうだい!」
「畏まりました、お嬢様! とっとと追い出してきます!」
意気揚々と向かっていったキャシーを見送り、私はカール・イアンに対する記憶を辿った。
「ふむ……カールは物語ではお調子者のキザ男だけど、現実でもそう変わりないわね。私と王太子のお茶会に乱入したり、主人である王太子に人前で馴れ馴れしく接したり……」
ヘレン目線であれば『ああ、王太子と仲がいいんだな』で済むが、ミシェル目線では『無礼で礼儀を知らない男』でしかない。
王太子とヒロインのお茶会に割って入っていくシーンも、物語には書かれていなかったがそこにミシェルも同席していたのだ。そもそもそのお茶会は王太子とミシェル二人の交流のためのものだった。つまりカール・イアンは主人とその婚約者と同じ席に着いたことになる。
この世界の常識として、側近が主人とその婚約者と同席し、あまつさえ共にお茶を飲むなんて真似は許されない。
不敬だと罰せられてもおかしくない。
それにカール・イアンは公爵令息といえども、公爵家の中でも末端の家系。何代か前に王女が降嫁しただけの何の功績もあげていない発言力の弱い家の子息。王族と筆頭公爵家の令嬢と同席するなんて無礼にもほどがある。それはヘレンにも言えることだが。
おまけに、カール・イアンはヘレンに恋慕の情を抱いていた。
私としては側近が主人の愛する人に横恋慕することもあり得ないと思う。主人に対して忠誠心があればそんな畏れ多いこと出来ない。カール・イアンが王太子に何の忠誠も抱いていない証だろう。
「可哀想な王太子……あなたの周囲には何の役にも立たない人間しかいないのね」
忠誠心がないうえに好きな人に横恋慕する側近。
身分も後ろ盾もない、何の力ももたない愛する人。
彼の手元に残ったのは使えない人間ばかり。一番の切り札である資産も身分も教養も人望も全てを兼ね備えていたミシェルを自らの行いで失くしたのだから。
しばらく感傷的な気分に浸っていると、屋敷の門の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「いいから! ミシェル嬢に会わせろっ! 私は彼女と話があるんだ!」
うるさっ! え、この声はカール・イアンよね?
私に話しがあるって、私はアンタと話したいことなんか何もないわよ!
いったい何事だと思う私に門から戻ってきたであろうキャシーが駆け寄る。
「お嬢様、騒がしくして申し訳ございません!」
「それはいいけど、カール・イアンは何を騒いでいるの?」
「先触れなしの無礼な輩にお嬢様は会うつもりない、と返しましたところいきなり激昂しました。まったく、短気でろくでもねえ奴ですね!さすがは馬鹿殿下の側近です。今は家令のセバスさんが対応しています」
類は友を呼ぶってやつね。短気で無礼な王太子の元には同族が集まるんだわ。
「セバスが対応しているなら大丈夫そうね。それにしてもカール・イアンとはろくに話したこともないけど、いまさらわたくしに何の話があるのかしら……?」
「あ、ならコッソリ会話を聞いてみますか? 玄関近くの小部屋なら門の前の会話も聞こえますよ?」
気になった私はキャシーの提案に乗ることにした。
玄関近くにある小部屋は普段は物置として使われているらしく、所狭しと箱が積んであった。
「お嬢様、この箱は頑丈ですからよければこちらにお座りください。そしてここの隙間から外が覗けますから」
キャシーに言われた壁の隙間を除くと、そこから門の前で押し問答を繰り広げる家令のセバスとカール・イアンの姿が見えた。
「お嬢様~……、ま~た先触れなしで客人が見えました~……」
「また? 今度はいったい誰なの?」
いつもお父様もお母様も不在の時に限って先触れなしで客がくる。
両親のスケジュールが外部に漏れているのかしら?
「それが……イアン公爵家のカール様です……」
「カール……? ああ、王太子殿下の側近ね……」
カール・イアンは王太子の幼馴染で側近の公爵家嫡男だ。
そしてヘレンに恋する当て馬ポジションでもある。
「どいつもこいつも先触れなしで筆頭公爵家に訪ねてくるなんて何様かしら? 話すことなんかないから追い出してちょうだい!」
「畏まりました、お嬢様! とっとと追い出してきます!」
意気揚々と向かっていったキャシーを見送り、私はカール・イアンに対する記憶を辿った。
「ふむ……カールは物語ではお調子者のキザ男だけど、現実でもそう変わりないわね。私と王太子のお茶会に乱入したり、主人である王太子に人前で馴れ馴れしく接したり……」
ヘレン目線であれば『ああ、王太子と仲がいいんだな』で済むが、ミシェル目線では『無礼で礼儀を知らない男』でしかない。
王太子とヒロインのお茶会に割って入っていくシーンも、物語には書かれていなかったがそこにミシェルも同席していたのだ。そもそもそのお茶会は王太子とミシェル二人の交流のためのものだった。つまりカール・イアンは主人とその婚約者と同じ席に着いたことになる。
この世界の常識として、側近が主人とその婚約者と同席し、あまつさえ共にお茶を飲むなんて真似は許されない。
不敬だと罰せられてもおかしくない。
それにカール・イアンは公爵令息といえども、公爵家の中でも末端の家系。何代か前に王女が降嫁しただけの何の功績もあげていない発言力の弱い家の子息。王族と筆頭公爵家の令嬢と同席するなんて無礼にもほどがある。それはヘレンにも言えることだが。
おまけに、カール・イアンはヘレンに恋慕の情を抱いていた。
私としては側近が主人の愛する人に横恋慕することもあり得ないと思う。主人に対して忠誠心があればそんな畏れ多いこと出来ない。カール・イアンが王太子に何の忠誠も抱いていない証だろう。
「可哀想な王太子……あなたの周囲には何の役にも立たない人間しかいないのね」
忠誠心がないうえに好きな人に横恋慕する側近。
身分も後ろ盾もない、何の力ももたない愛する人。
彼の手元に残ったのは使えない人間ばかり。一番の切り札である資産も身分も教養も人望も全てを兼ね備えていたミシェルを自らの行いで失くしたのだから。
しばらく感傷的な気分に浸っていると、屋敷の門の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「いいから! ミシェル嬢に会わせろっ! 私は彼女と話があるんだ!」
うるさっ! え、この声はカール・イアンよね?
私に話しがあるって、私はアンタと話したいことなんか何もないわよ!
いったい何事だと思う私に門から戻ってきたであろうキャシーが駆け寄る。
「お嬢様、騒がしくして申し訳ございません!」
「それはいいけど、カール・イアンは何を騒いでいるの?」
「先触れなしの無礼な輩にお嬢様は会うつもりない、と返しましたところいきなり激昂しました。まったく、短気でろくでもねえ奴ですね!さすがは馬鹿殿下の側近です。今は家令のセバスさんが対応しています」
類は友を呼ぶってやつね。短気で無礼な王太子の元には同族が集まるんだわ。
「セバスが対応しているなら大丈夫そうね。それにしてもカール・イアンとはろくに話したこともないけど、いまさらわたくしに何の話があるのかしら……?」
「あ、ならコッソリ会話を聞いてみますか? 玄関近くの小部屋なら門の前の会話も聞こえますよ?」
気になった私はキャシーの提案に乗ることにした。
玄関近くにある小部屋は普段は物置として使われているらしく、所狭しと箱が積んであった。
「お嬢様、この箱は頑丈ですからよければこちらにお座りください。そしてここの隙間から外が覗けますから」
キャシーに言われた壁の隙間を除くと、そこから門の前で押し問答を繰り広げる家令のセバスとカール・イアンの姿が見えた。
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