茶番には付き合っていられません

わらびもち

文字の大きさ
5 / 87

今更何よ

しおりを挟む
「お嬢様……王太子殿下より手紙が届いております……」

 嫌そうな顔で手紙を持ってきた我が家の侍女キャシー。

 キャシーは王宮でミシェルが王太子に冷たくあしらわれている所を何度も見てきたから王太子を蛇蝎の如く嫌っている。キャシー、主人想いのイイ子……!

「まあ……今まで手紙一つ寄こしたことないくせに今更何かしら?」

 反省文でも書いたのかしら、と手紙を開封し中を読む。

「お嬢様、馬鹿殿下……いえ、王太子殿下は今更なんと?」

「キャシーったら本音が漏れているわよ。ええと……要約すると『許してやるから戻ってこい』だそうよ」

「殺しましょう、お嬢様。ソイツはこの世から駆逐すべき存在です」

 キャシーったら過激! でもそういう過激な女(以下略)。

 にしてもこの男は素直に謝ることもできないのか? 謝ったら死ぬ体質ってやつか?

 手紙には『ヘレンは俺の一番大切で守るべき女性だ』だの『お前さえ大人しく婚約者に戻れば全て丸く収まる』だの『ヘレンは泣いているんだぞ。お前は何とも思わないのか?』だの戯言がびっしりと書いてあって謝罪も反省も一つも書かれていない。

「面白いから屋敷中に回覧した後王宮に返しましょうか」

「ナイスアイデアですお嬢様! これでますますエルリアン公爵家内で馬鹿殿下に対する反逆精神が高まりますね!」

「そうよ、そして共通の敵を置くことで皆の絆が深まるものよ」

「ええ、それはもう。使用人の間では休憩時間に馬鹿殿下への悪口ばかり言って盛り上がっておりますからね!」

「ふふ、キャシーったら不敬になるから外で言っちゃ駄目よ?」

「ご安心を。最近では他所の家の使用人もこぞって馬鹿殿下の悪口で持ち切りですから!」

 あらやだ。王太子ったら他所に敵作りすぎじゃない?
 王家大丈夫かしら?



 王太子からのムカツク手紙を屋敷中で回覧し、全員見終わったあたりで国王宛てにそっくりそのまま返した。すると今度は本人が直接我が家にやってきたのだ。

「お嬢様、馬鹿殿下が先触れなしでやって来ています!」

「まあ……馬鹿は猪突猛進で困っちゃうわね。追い返してちょうだい」

 優しいミシェルならばきっと『せっかく殿下が足を運んでくれたのだから会わなくちゃ』と言って会うのだろう。だが優しくない私は否だ。会えばイラつくだけなのに会うわけない。

というか、アイツがこの家に来たのは婚約して初めてだな? 婚約者のご機嫌伺いも出来ない馬鹿とかほんと嫌い!

「お嬢様~、馬鹿がお嬢様に会うまでここを動かないって門の前で居座っちゃいました……」

「まあ、馬鹿は周囲に迷惑ばかりかけて本当にどうしようもないわね」

「王族だから門番が困っていまして……。このままだと根負けして中に入れてしまいそうですぅ~」

「ふむ……なら、門番にこう伝えてくれる?」

 キャシーに頼んだ伝言の内容はこうだ。
『王太子を中に入れないようにすれば一人につき金貨5枚を贈呈』と。

 やんごとない相手に断り続けるのは精神的にキツいもの。ならばそれに見合った対価を渡せば彼等は喜んで引き受けてくれるはず。

「お嬢様~! 先ほどの内容を門番に伝えたところ、彼等喜んで承諾してくれました~!! 命に代えてもここは通さないと張り切っていましたよ。流石はお嬢様です!」

 やはり金の力は凄い。世の中やっぱりお金だわ。
 金貨1枚だけでも門番の1か月に値するからね。それが1日で5枚、つまりは給料5か月分が手に入るわけだからそれは張り切っちゃうわね。

 門番が張り切って止めていてくれたおかげで王太子を邸内に入れるのは阻止できた。
 キャシーの話によれば金貨で目の色が変わった門番の『死んでもここは通さぬ』という弁慶も真っ青な気迫に驚いてすぐに帰ったそうだ。根性ないな。

「また来られても迷惑だから、一応『もう来んな』という内容の手紙を送っておきましょうか」

 婚約は絶対に解消するし謝罪も絶対に受け取らない。
 ミシェルが味わってきた苦渋はこんなものじゃないのだから。

 私だから分かる。優しいミシェルはあの王太子を愛していた。愛していたからこそヘレンの存在が許せなくて、でも王太子に嫌われたくなくて何も言えないでいた。

 でもミシェル、アイツはすでに貴女を嫌っていたよ。それも『親が勝手に決めた婚約者だから』というくっだらない理由で!
 
 当時からヘレンを愛していた王太子は政略で決められた相手の貴女に憤りを全てぶつけていた。ミシェルは何も悪くないのに。
 
 そんなにヘレンがいいなら身分を捨てて一緒になればいいのにそれもしない。王太子という身分は捨てたくないし、ヘレンも失いたくない。なんて我儘で身勝手なのかしら。

 あの身勝手で自己中心的で身分以外何も取り柄のない空っぽ男が優しいミシェルを傷つけたことが許せない。
 貴女が受けた苦しみ全てを倍にしてアイツに返してやるわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...