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番外編
彼女の幸せと母の幸せ①
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「あら? お客さんかしら。ちょっと待っててね、見てくるわ」
そう言って母が玄関まで向かい、扉に向かって「はい、どちら様ですか?」と尋ねる。
するとノック音と同じくらい大きな声が返ってきた。
「こんにちは、チェルシーさん! 俺です、ジョーです!」
「え? あ、ジョー君? えっと……どうしたのかしら?」
「今日も貴女を口説きにきました! お願いです! 結婚してください!」
扉越しにすごい台詞が返ってきたので、ジュリエッタは驚いて母の方を見た。
母の表情に困惑は浮かんでいるものの、驚いてはいない。
先ほど「今日も」と聞こえたことから、もしかしてこれは日常茶飯事なのだろうか。
「あ、あの……ジョー君、今、娘が帰ってきてるから、後にしてもらえるかしら……?」
「え? 娘って、ジュリエッタちゃんが?」
「そうなのよ。だから申し訳ないんだけど今日は帰ってもらえるかしら?」
「そういうことなら分かりました! また改めて会いにきます! あ、花束はここに置いておきますね!」
ドタドタと大きな足音が聞こえ、扉の向こうにいた人物の気配が消える。
静かになった部屋で不意にジュリエッタが口を開いた。
「お母さん……今の人ってもしかしてジョー兄さん?」
近所にある花屋の息子が確かそういう名前だったはず。
年はジュリエッタの5つほど上で、たまに遊んでもらった記憶がある。
「え、ええ……そうなのよ。そういえば子供の頃、ジュリエッタはたまに彼に遊んでもらっていたわね」
「うん、まあ、たまにね。……えっと、なんかジョー兄さん、さっき結婚がどうのこうの言ってなかった? もしかしなくてもお母さん……ジョー兄さんに結婚を迫られてるの……?」
「え、ええ……実はそうなのよ。子供の頃からずっと好きだったって言われてね……」
「子供の頃から!? ジョー兄さんったら、お母さんをそういう目で見ていたってこと?」
確かに母は美人だ。
しかもこんなに大きな娘がいるとは思えないほど若々しい。
だがジョーはジュリエッタとそう年が変わらない。
それに母とは年齢が十以上離れている。
「ええ~! お母さんすごぉい! え、もしかしてもう付き合っているとか?」
「やだ、からかわないでちょうだい。あんな若い子とこんなオバサンが付き合うわけないでしょう」
「オバサンって……お母さんまだ30前半じゃない? 見た目だって若くて綺麗よ。ねえシロ?」
ジュリエッタが隣にいるシロに同意を求めると、彼も大きく頷いた。
「そうですよ。お義母様はお綺麗です。ジュリエッタと似ていてとても美人です」
「え、やだもうシロったら……!」
急にイチャつきだす娘達を微笑ましい目で見つめ、チェルシーはこう告げた。
「何にせよ、貴女の花嫁姿を見るまでは私は結婚も恋人も持たないと決めているの。だから求婚はお断りしているわ。だけど中々諦めてくれないのよね……」
そう言ってチェルシーは玄関の扉を開け、そこに置いてあった花束を抱える。
花束は彼女の好きな白い花を可愛らしくまとめたものだ。
1本1本、品のよい物を選んだであろうそれはどれも瑞々しく美しい。
見ただけでジョーの彼女に対する愛情が、どれほどのものかよく分かる。
「なら、私が結婚すればお母さんはジョー兄さんの気持ちに応えられるってこと?」
「え、ええ? それは……でも、こんな年上の女とあんな若い子が付き合うなんてそんな……」
「愛があれば年の差なんて関係ないじゃない? それにジョー兄さんは中々いい男よ? 優しいし面倒見のいい包容力のある人だわ」
「そうね、ジョー君はいい男だと思うわ。だからこそ自分と年の合った素敵なお嫁さんを見つけてほしいのよ。私が断り続けていればそのうち諦めるでしょうし」
それはどうだろうか、と思ったがジュリエッタはそれを口には出さなかった。
色々言ってしまったが、誰と結婚するかは母が決めることで、自分が強要するものではない。
だが、初めてをあんな傲慢な男に捧げ、その男との子供を女手一つで育ててくれた母には幸せになってほしいと思う。
母を愛し、大切にし、尊重してくれるような相手と幸せになってほしい。
そう願わずにはいられないのだ。
「さあさあ、この話は終わりにしましょう。それよりもジュリエッタとシロ君の馴れ初めとかをもっと聞きたいわ。それに結婚式の話もね。ろくでもない男との結婚式なんか好きな男で上書きしちゃいましょう!」
母が喜々としてそう言うので、シロも喜んで自分達の馴れ初めを話しだした。
そう言って母が玄関まで向かい、扉に向かって「はい、どちら様ですか?」と尋ねる。
するとノック音と同じくらい大きな声が返ってきた。
「こんにちは、チェルシーさん! 俺です、ジョーです!」
「え? あ、ジョー君? えっと……どうしたのかしら?」
「今日も貴女を口説きにきました! お願いです! 結婚してください!」
扉越しにすごい台詞が返ってきたので、ジュリエッタは驚いて母の方を見た。
母の表情に困惑は浮かんでいるものの、驚いてはいない。
先ほど「今日も」と聞こえたことから、もしかしてこれは日常茶飯事なのだろうか。
「あ、あの……ジョー君、今、娘が帰ってきてるから、後にしてもらえるかしら……?」
「え? 娘って、ジュリエッタちゃんが?」
「そうなのよ。だから申し訳ないんだけど今日は帰ってもらえるかしら?」
「そういうことなら分かりました! また改めて会いにきます! あ、花束はここに置いておきますね!」
ドタドタと大きな足音が聞こえ、扉の向こうにいた人物の気配が消える。
静かになった部屋で不意にジュリエッタが口を開いた。
「お母さん……今の人ってもしかしてジョー兄さん?」
近所にある花屋の息子が確かそういう名前だったはず。
年はジュリエッタの5つほど上で、たまに遊んでもらった記憶がある。
「え、ええ……そうなのよ。そういえば子供の頃、ジュリエッタはたまに彼に遊んでもらっていたわね」
「うん、まあ、たまにね。……えっと、なんかジョー兄さん、さっき結婚がどうのこうの言ってなかった? もしかしなくてもお母さん……ジョー兄さんに結婚を迫られてるの……?」
「え、ええ……実はそうなのよ。子供の頃からずっと好きだったって言われてね……」
「子供の頃から!? ジョー兄さんったら、お母さんをそういう目で見ていたってこと?」
確かに母は美人だ。
しかもこんなに大きな娘がいるとは思えないほど若々しい。
だがジョーはジュリエッタとそう年が変わらない。
それに母とは年齢が十以上離れている。
「ええ~! お母さんすごぉい! え、もしかしてもう付き合っているとか?」
「やだ、からかわないでちょうだい。あんな若い子とこんなオバサンが付き合うわけないでしょう」
「オバサンって……お母さんまだ30前半じゃない? 見た目だって若くて綺麗よ。ねえシロ?」
ジュリエッタが隣にいるシロに同意を求めると、彼も大きく頷いた。
「そうですよ。お義母様はお綺麗です。ジュリエッタと似ていてとても美人です」
「え、やだもうシロったら……!」
急にイチャつきだす娘達を微笑ましい目で見つめ、チェルシーはこう告げた。
「何にせよ、貴女の花嫁姿を見るまでは私は結婚も恋人も持たないと決めているの。だから求婚はお断りしているわ。だけど中々諦めてくれないのよね……」
そう言ってチェルシーは玄関の扉を開け、そこに置いてあった花束を抱える。
花束は彼女の好きな白い花を可愛らしくまとめたものだ。
1本1本、品のよい物を選んだであろうそれはどれも瑞々しく美しい。
見ただけでジョーの彼女に対する愛情が、どれほどのものかよく分かる。
「なら、私が結婚すればお母さんはジョー兄さんの気持ちに応えられるってこと?」
「え、ええ? それは……でも、こんな年上の女とあんな若い子が付き合うなんてそんな……」
「愛があれば年の差なんて関係ないじゃない? それにジョー兄さんは中々いい男よ? 優しいし面倒見のいい包容力のある人だわ」
「そうね、ジョー君はいい男だと思うわ。だからこそ自分と年の合った素敵なお嫁さんを見つけてほしいのよ。私が断り続けていればそのうち諦めるでしょうし」
それはどうだろうか、と思ったがジュリエッタはそれを口には出さなかった。
色々言ってしまったが、誰と結婚するかは母が決めることで、自分が強要するものではない。
だが、初めてをあんな傲慢な男に捧げ、その男との子供を女手一つで育ててくれた母には幸せになってほしいと思う。
母を愛し、大切にし、尊重してくれるような相手と幸せになってほしい。
そう願わずにはいられないのだ。
「さあさあ、この話は終わりにしましょう。それよりもジュリエッタとシロ君の馴れ初めとかをもっと聞きたいわ。それに結婚式の話もね。ろくでもない男との結婚式なんか好きな男で上書きしちゃいましょう!」
母が喜々としてそう言うので、シロも喜んで自分達の馴れ初めを話しだした。
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