いいえ、望んでいません

わらびもち

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番外編

彼女の母と公爵の関係①

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 数年ぶりに故郷へ帰り、最愛の母と再会したジュリエッタ。
 
 彼女は懐かしい我が家で母の温かい手料理に舌鼓を打っていた。

「んー、美味しい! やっぱりお母さんの料理は世界一ね!」

「ふふ、嬉しいわ。沢山食べなさい。シロ君もね」

「はい、ありがとうございます! どれも美味しいですけど、このベリーパイ最高ですね!」

 やっと再会できた娘が恋人を連れてきたことに驚いた母だが、幸せそうな二人の姿に喜びの気持ちの方が勝る。

 娘が幸せになってくれるなら、母親としてこれ以上嬉しいことはないのだから。

「気に入ってもらえてよかったわ。……それとジュリエッタ、食後に今まであったことをお母さんに教えてもらえるかしら?」

「うん……勿論よ。私もお母さんに聞きたいことがあるの」

 
 そうして、母が淹れてくれた食後のお茶を飲みながら、ジュリエッタは公爵邸に連れ去られてからのことを全て話した。

 公爵の命令で数年に渡り淑女教育を受けたこと、そしてデューン伯爵家に嫁いだこと、そしてその家が没落したこと。それを全て、包み隠さず。

「なんてこと……! じゃあ、貴女は公爵様の命令で勝手に結婚させられたってこと!? しかもそんなろくでもない男に……?」

「うん、でも大丈夫よ。もう離婚しているし、シロや公爵家の侍女のおかげでひどい目には合わなかったから」

「それでも十分ひどいわよ……! ああ、なんてこと……。あの男は私の娘の人生を何だと思ってるのかしら!」

 母は勝手に娘の人生を浪費されたことに怒り、涙を零した。
 悔しさや怒り、ごちゃまぜになった感情がとめどなく涙に変えて流れ落ちる。

「貴女が連れ去られたあの日、私は貴女を取り戻すためにハルバード公爵邸へ行ったのよ……。でも会わせてもらえなくてね……」

「え!? お母さん、邸に来たの?」

「ええそうよ。娘を誘拐されたんだもの、取り戻そうとするのは当然よ。でも門前で止められて、騒いでいるところを公爵夫人が取り成してくれたの」

「夫人が!? え! お母さん、公爵夫人と話したの?」

「そうなのよ。貴女に会わせてはもらえなかったけど、必ず無事に帰すと約束してくださったわ。……それで『はい、そうですか』と納得できるわけもないけど、下手に私が騒ぐと貴女に危害を加えられるかもしれないと言われて泣く泣く帰ったの。でも、そんなことさせられると分かっていたのなら、邸で暴れてでも連れて帰ればよかった……!」

「そんなことしたらお母さんが危ないわよ! 公爵様は人を人とも思わない冷血な爬虫類男なんだから!」

 公爵夫人が取り成してくれてよかった、とジュリエッタは心から安堵した。
 公爵がもしも母を手にかけたらと想像するだけでゾッとする。

「ねえ……お母さん。お母さんは公爵様とどういう関係だったの?」

「……そうよね、貴女は気になって当然よね。あまりいい話じゃないけど、それでも聞きたいかしら?」

「勿論よ! ねえ、お母さんは公爵様の愛人だったの?」

「いいえ、違うわ。私はね……

「え? え!? ど、どういうこと……?」

 一夜を買われたとは、まるで娼婦に使う言葉のよう。
 まさか母は……という目を向けると、ジュリエッタの母チェルシーは首を横に振った。

「誤解しないで。お母さんは娼婦ではないわ。むしろ、娼婦になるか、公爵と一晩閨を共にするかで後者を選んだのよ」

「ますます意味が分からないんだけど!?」

 母の過去に何があったのだろう。
 困惑する娘にチェルシーは己の過去をぽつりぽつりと語りだした。
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