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彼女と元夫③
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ジュリエッタの指摘にダニエルは目を泳がせる。
それを冷めた目で一瞥し、嘲笑うかのように口角を上げた。
「本当にどうしようもない人ですね、貴方は。嫌われるようなことをしておいて、嫌われたくないからと嘘をつく。矛盾してますよ。どこがマリアナの為なんです? 全部自分の為じゃないですか」
「う……うるさい! 私は……私は本当にマリアナを愛して……マリアナのために……!」
「あーはいはい、そうですか。マリアナの為に大切な母親を死なせかけて、マリアナの為に訳の分からない嘘をついて、マリアナの為に正妻である私を虐げたんですね? それが愛だと仰るなら、そんな愛などゴミ入れに捨てておしまいなさい。腐って見るも無残な状態になってますんで」
ジュリエッタの辛辣な返しにダニエルは言葉が出ないのか、ただ口をはくはくと動かした。
「私から言わせてもらえばちっともそれはマリアナの為になっていませんよ。母親のことも、嘘をついて約束を守らなかったこともそうですが、何より私を虐げたことはマリアナの身を危険に晒すことに繋がりますから」
「なに……? それはどういうことだ?」
ダニエルの問いかけにジュリエッタはこれみよがしにため息をついた。
貴族家当主のくせに何故こんな簡単なことも分からないのかと。
「はあ……。いいですか? マリアナの身分は平民です。平民が貴族家の本邸で女主人扱いされ、本妻の私物を奪うことはこの国の法に照らせば極刑に値します。兵士が来る前にマリアナが出て行き、私に奪った物を全て返してくれたことでそれを免れたんですよ?」
「なんだと!? マリアナは何も悪くないだろう?」
「いや、悪いですよ。本妻の立場を奪うのも、私物を奪うのもどちらも悪いです。まあそれを実行したのは貴方ですから、貴方のせいですね。貴方のせいでマリアナは処刑されるかもしれなかったんですよ」
「そんな……。私はただマリアナを愛していただけなのに……。共に幸せになりたかっただけなのに……」
「被害者ぶらないでください、気持ち悪い。私を蔑ろにして、マリアナの母親を死なせかけて、マリアナを危険な目に合わせかけて、それで被害者ぶるとか気持ち悪いです。純然たる加害者のくせに被害者ぶるとかほんっとに気持ち悪い!」
元夫の身勝手な所業に改めて怒りがこみ上げてくる。
ここまでしておいて被害者ぶるなど許せない。
己の行いを悔いて謝罪をするくらいできないのか。
「貴方、マリアナを愛していたと仰いましたが、それなら何故私に手をだそうとしたのですか? マリアナがいない隙を狙って度々別邸を訪れておりましたよね……?」
本当にマリアナを愛していたと言うのなら、例え妻でも他の女性に手出しするのはおかしいのではないか。一般的に言えばそれは浮気になるのだから。
「べ、別にいいだろう? お前は妻なんだし……。夫が妻に手を出すのは何もおかしくないだろう!」
「そういうのはきちんと妻として扱ってから言ってください。散々人を蔑ろにして虐げてきたのに、性欲処理の相手をしろと? ハッ! 愛する人に操も捧げられないとは情けない! 大方、せっかく妻にしたのだし、味見の一つもしないのは勿体ないと思ったんでしょう? 果てしなく気持ち悪いですわ!」
図星なのか、ダニエルは顔を赤くして俯いた。
その様子を見てジュリエッタは侮蔑の表情を浮かべる。
「さてと、用件は済んだことですし私はそろそろお暇します。もう会うこともありませんので永遠にさようなら。何処へ連れて行かれるか分かりませんが、どうぞお元気で」
「まっ……待て! 待ってくれ! 私はどうなるんだ!?」
「さあ……興味ないので知りません」
「何だと!? お前には人の心というものがないのか! 仮にも夫婦だったというのに何て冷たい女なんだ!!」
「どうぞ、何とでも仰ってください。貴方は私を虐げたのに、どうして私が貴方を気にしなければなりませんの? 人の心がないのはそちらではなくて?」
「だからそれは仕方ないと言っただろう! マリアナがいるのにお前を妻扱いなど出来ないと! それにマリアナが出ていった後はお前を本邸に戻そうとしたじゃないか!? そうだ、それを拒否したのはお前だろう?」
「あ、それ不思議に思ったんですよね。マリアナがいなくなったからって私で心の穴を埋めようとするその行動。結局女性なら誰でもいいんですか?」
「い……いや、それは……マリアナを探したが見つからないし……。おまえは妻なんだし……」
「キモッ……。無理、気持ち悪い……」
道端に落ちた生ゴミを見るような目をダニエルに向け、そのままジュリエッタは部屋の扉の方へ向かう。
聞きたいことは聞けたので、もうここに用はない。
「では御機嫌よう、ダニエル卿」
最後なのでジュリエッタは公爵家で得た淑女教育の賜物である見事なカーテシーを披露した。結婚初日から挨拶する暇すら与えられなかったので、見せるのはこれが最初で最後である。
「待て! やり直そう! 今度こそお前を大切にすると誓うから……!」
まだ追いすがろうとするしつこい元夫にウンザリし、最後にジュリエッタはこう尋ねた。
「貴方、私の名前を知っていますか?」
「え? あ、え、えっと……」
この元夫は結婚してからずっと妻を名前で呼んだことがない。
いつも“お前”呼びなので、もしかしたら名前を知らないのではないかと思ったら案の定だ。
「妻の名前も知らないでやり直そうなど、なんて恥知らずなのかしら」
先ほどマリアナの母を恥知らず呼ばわりしたが、一番の恥知らずはこいつだろうとジュリエッタは元夫を蔑んだ目で一瞥し、そのまま部屋を後にする。
背後から喚く声が聞こえるが、振り向くことはなかった。
それを冷めた目で一瞥し、嘲笑うかのように口角を上げた。
「本当にどうしようもない人ですね、貴方は。嫌われるようなことをしておいて、嫌われたくないからと嘘をつく。矛盾してますよ。どこがマリアナの為なんです? 全部自分の為じゃないですか」
「う……うるさい! 私は……私は本当にマリアナを愛して……マリアナのために……!」
「あーはいはい、そうですか。マリアナの為に大切な母親を死なせかけて、マリアナの為に訳の分からない嘘をついて、マリアナの為に正妻である私を虐げたんですね? それが愛だと仰るなら、そんな愛などゴミ入れに捨てておしまいなさい。腐って見るも無残な状態になってますんで」
ジュリエッタの辛辣な返しにダニエルは言葉が出ないのか、ただ口をはくはくと動かした。
「私から言わせてもらえばちっともそれはマリアナの為になっていませんよ。母親のことも、嘘をついて約束を守らなかったこともそうですが、何より私を虐げたことはマリアナの身を危険に晒すことに繋がりますから」
「なに……? それはどういうことだ?」
ダニエルの問いかけにジュリエッタはこれみよがしにため息をついた。
貴族家当主のくせに何故こんな簡単なことも分からないのかと。
「はあ……。いいですか? マリアナの身分は平民です。平民が貴族家の本邸で女主人扱いされ、本妻の私物を奪うことはこの国の法に照らせば極刑に値します。兵士が来る前にマリアナが出て行き、私に奪った物を全て返してくれたことでそれを免れたんですよ?」
「なんだと!? マリアナは何も悪くないだろう?」
「いや、悪いですよ。本妻の立場を奪うのも、私物を奪うのもどちらも悪いです。まあそれを実行したのは貴方ですから、貴方のせいですね。貴方のせいでマリアナは処刑されるかもしれなかったんですよ」
「そんな……。私はただマリアナを愛していただけなのに……。共に幸せになりたかっただけなのに……」
「被害者ぶらないでください、気持ち悪い。私を蔑ろにして、マリアナの母親を死なせかけて、マリアナを危険な目に合わせかけて、それで被害者ぶるとか気持ち悪いです。純然たる加害者のくせに被害者ぶるとかほんっとに気持ち悪い!」
元夫の身勝手な所業に改めて怒りがこみ上げてくる。
ここまでしておいて被害者ぶるなど許せない。
己の行いを悔いて謝罪をするくらいできないのか。
「貴方、マリアナを愛していたと仰いましたが、それなら何故私に手をだそうとしたのですか? マリアナがいない隙を狙って度々別邸を訪れておりましたよね……?」
本当にマリアナを愛していたと言うのなら、例え妻でも他の女性に手出しするのはおかしいのではないか。一般的に言えばそれは浮気になるのだから。
「べ、別にいいだろう? お前は妻なんだし……。夫が妻に手を出すのは何もおかしくないだろう!」
「そういうのはきちんと妻として扱ってから言ってください。散々人を蔑ろにして虐げてきたのに、性欲処理の相手をしろと? ハッ! 愛する人に操も捧げられないとは情けない! 大方、せっかく妻にしたのだし、味見の一つもしないのは勿体ないと思ったんでしょう? 果てしなく気持ち悪いですわ!」
図星なのか、ダニエルは顔を赤くして俯いた。
その様子を見てジュリエッタは侮蔑の表情を浮かべる。
「さてと、用件は済んだことですし私はそろそろお暇します。もう会うこともありませんので永遠にさようなら。何処へ連れて行かれるか分かりませんが、どうぞお元気で」
「まっ……待て! 待ってくれ! 私はどうなるんだ!?」
「さあ……興味ないので知りません」
「何だと!? お前には人の心というものがないのか! 仮にも夫婦だったというのに何て冷たい女なんだ!!」
「どうぞ、何とでも仰ってください。貴方は私を虐げたのに、どうして私が貴方を気にしなければなりませんの? 人の心がないのはそちらではなくて?」
「だからそれは仕方ないと言っただろう! マリアナがいるのにお前を妻扱いなど出来ないと! それにマリアナが出ていった後はお前を本邸に戻そうとしたじゃないか!? そうだ、それを拒否したのはお前だろう?」
「あ、それ不思議に思ったんですよね。マリアナがいなくなったからって私で心の穴を埋めようとするその行動。結局女性なら誰でもいいんですか?」
「い……いや、それは……マリアナを探したが見つからないし……。おまえは妻なんだし……」
「キモッ……。無理、気持ち悪い……」
道端に落ちた生ゴミを見るような目をダニエルに向け、そのままジュリエッタは部屋の扉の方へ向かう。
聞きたいことは聞けたので、もうここに用はない。
「では御機嫌よう、ダニエル卿」
最後なのでジュリエッタは公爵家で得た淑女教育の賜物である見事なカーテシーを披露した。結婚初日から挨拶する暇すら与えられなかったので、見せるのはこれが最初で最後である。
「待て! やり直そう! 今度こそお前を大切にすると誓うから……!」
まだ追いすがろうとするしつこい元夫にウンザリし、最後にジュリエッタはこう尋ねた。
「貴方、私の名前を知っていますか?」
「え? あ、え、えっと……」
この元夫は結婚してからずっと妻を名前で呼んだことがない。
いつも“お前”呼びなので、もしかしたら名前を知らないのではないかと思ったら案の定だ。
「妻の名前も知らないでやり直そうなど、なんて恥知らずなのかしら」
先ほどマリアナの母を恥知らず呼ばわりしたが、一番の恥知らずはこいつだろうとジュリエッタは元夫を蔑んだ目で一瞥し、そのまま部屋を後にする。
背後から喚く声が聞こえるが、振り向くことはなかった。
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