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彼女と決行日①
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早朝、まだ辺りは薄暗く霧が立ち込める中、数台の馬車と大勢の衛兵がデューン伯爵家の門前に並んでいた。
「ダニエル・フォン・デューン伯爵、夫人への虐待容疑で御身を拘束させてもらう! 速やかに出て参れ!」
「はあ!? な、なんだ貴様等は……!!」
厳つい兵士が周囲に響き渡るほどの野太い大声で叫ぶ。
するとその声に驚いた使用人や伯爵が寝間着のまま玄関から現れた。
「我々は国王陛下の命令でここに来ておる。これが命令書だ。デューン伯爵の拘束ならびに邸宅の調査が記されている。抵抗するのであれば陛下への反逆とみなし、この場で切り捨てることへの許可も出ておるゆえ、大人しく従うことを薦める」
「は? 国王陛下の命令? なんで陛下がそんな……」
「デューン伯爵夫人はハルバード公爵の息女だぞ? 王家の血を引く尊い公爵家の令嬢が婚家で虐待を受けているとあれば、国王陛下が動かぬはずがないだろう?」
「あ……。い、いや、違う! 私は妻を虐待などしていない!!」
「ほお? 奥方様はとても伯爵夫人とは思えぬほどのみすぼらしい姿をさせられているとの証言が多数寄せられているが? それに貴殿は一度も夫人を夜会に同伴しなかったそうじゃないか。いつも見知らぬ女をパートナーにして、しかもその女はハルバード公爵家の家紋入りのドレスを着ていたそうだが?」
「違う! 妻は好きで地味な格好をしているんだ! それに妻の物は夫の物だ! 私が妻のドレスをマリアナに着させて何が悪い!?」
「悪いことしかないんだが? 何だその『妻の物は夫の物』ってのは……。そんな暴論は初めて聞いたぞ? 俺も妻帯者だが、もし嫁の物を勝手に奪ったらしばき倒されるのは間違いないな」
衛兵の言葉に何名かの既婚男性はうんうんと頷いた。
妻の物は妻の物だ。もし手出しなどしようものなら……考えただけでも恐ろしい。
「それは平民の考えだ! 貴族は違う! 夫は妻に何をしてもいいんだ!」
「……だそうですが、それは本当でしょうか? ハルバード公爵閣下」
ダニエルの暴論に眉をしかめた衛兵が、背後にある馬車へと声をかける。
伯爵家所有のものとは比べ物にならぬほどの豪華な装飾、毛並みのいい馬。
そんな一目で貴人が乗っていると分かる馬車から姿を現した男は悠然と佇んだ。
「いや、知らぬな。どうやら娘の夫は貴族の常識すら知らぬ愚か者らしい。……ああ、そういえば何十年も前にそんな常識が横行していた気がするな。これはこれは、デューン伯爵は生まれる年代を間違えたのではないか?」
思い切り馬鹿にした発言を受け、ダニエルは頭に血が上り、公爵を睨みつける。
だが彼と目が合った瞬間、上昇した血が一気に冷えた。
こんなに冷え冷えとした爬虫類のような眼は見たことがない。
ダニエルはまるで蛇に睨まれたカエルのように固まり、身動き一つとれなかった。
「伯爵、私の娘はどこだ?」
そう問われてもダニエルは答えられない。
全身から血の気が引き、息さえ上手く出来ない心地に襲われ、何か話そうとしても声が出ない。
「やれやれ、だんまりか。仕方ないな……。おい、そこの使用人、この家の女主人である我が娘はどこにいる?」
「は、はい! ええっと……、奥様は……その……」
公爵に問われた使用人は、初日にジュリエッタを別邸へと押し込んだ者であった。
それについてもリサから報告を受けていた公爵はわざと彼を指名したのだ。
使用人も伯爵同様、ジュリエッタを虐げていたと衛兵たちに知らしめるために。
「ダニエル・フォン・デューン伯爵、夫人への虐待容疑で御身を拘束させてもらう! 速やかに出て参れ!」
「はあ!? な、なんだ貴様等は……!!」
厳つい兵士が周囲に響き渡るほどの野太い大声で叫ぶ。
するとその声に驚いた使用人や伯爵が寝間着のまま玄関から現れた。
「我々は国王陛下の命令でここに来ておる。これが命令書だ。デューン伯爵の拘束ならびに邸宅の調査が記されている。抵抗するのであれば陛下への反逆とみなし、この場で切り捨てることへの許可も出ておるゆえ、大人しく従うことを薦める」
「は? 国王陛下の命令? なんで陛下がそんな……」
「デューン伯爵夫人はハルバード公爵の息女だぞ? 王家の血を引く尊い公爵家の令嬢が婚家で虐待を受けているとあれば、国王陛下が動かぬはずがないだろう?」
「あ……。い、いや、違う! 私は妻を虐待などしていない!!」
「ほお? 奥方様はとても伯爵夫人とは思えぬほどのみすぼらしい姿をさせられているとの証言が多数寄せられているが? それに貴殿は一度も夫人を夜会に同伴しなかったそうじゃないか。いつも見知らぬ女をパートナーにして、しかもその女はハルバード公爵家の家紋入りのドレスを着ていたそうだが?」
「違う! 妻は好きで地味な格好をしているんだ! それに妻の物は夫の物だ! 私が妻のドレスをマリアナに着させて何が悪い!?」
「悪いことしかないんだが? 何だその『妻の物は夫の物』ってのは……。そんな暴論は初めて聞いたぞ? 俺も妻帯者だが、もし嫁の物を勝手に奪ったらしばき倒されるのは間違いないな」
衛兵の言葉に何名かの既婚男性はうんうんと頷いた。
妻の物は妻の物だ。もし手出しなどしようものなら……考えただけでも恐ろしい。
「それは平民の考えだ! 貴族は違う! 夫は妻に何をしてもいいんだ!」
「……だそうですが、それは本当でしょうか? ハルバード公爵閣下」
ダニエルの暴論に眉をしかめた衛兵が、背後にある馬車へと声をかける。
伯爵家所有のものとは比べ物にならぬほどの豪華な装飾、毛並みのいい馬。
そんな一目で貴人が乗っていると分かる馬車から姿を現した男は悠然と佇んだ。
「いや、知らぬな。どうやら娘の夫は貴族の常識すら知らぬ愚か者らしい。……ああ、そういえば何十年も前にそんな常識が横行していた気がするな。これはこれは、デューン伯爵は生まれる年代を間違えたのではないか?」
思い切り馬鹿にした発言を受け、ダニエルは頭に血が上り、公爵を睨みつける。
だが彼と目が合った瞬間、上昇した血が一気に冷えた。
こんなに冷え冷えとした爬虫類のような眼は見たことがない。
ダニエルはまるで蛇に睨まれたカエルのように固まり、身動き一つとれなかった。
「伯爵、私の娘はどこだ?」
そう問われてもダニエルは答えられない。
全身から血の気が引き、息さえ上手く出来ない心地に襲われ、何か話そうとしても声が出ない。
「やれやれ、だんまりか。仕方ないな……。おい、そこの使用人、この家の女主人である我が娘はどこにいる?」
「は、はい! ええっと……、奥様は……その……」
公爵に問われた使用人は、初日にジュリエッタを別邸へと押し込んだ者であった。
それについてもリサから報告を受けていた公爵はわざと彼を指名したのだ。
使用人も伯爵同様、ジュリエッタを虐げていたと衛兵たちに知らしめるために。
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