いいえ、望んでいません

わらびもち

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彼女にとって父親とは

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「……お嬢様、大丈夫ですか?」

 静かに涙を流すジュリエッタを天井から降りてきたシロが慰めた。

 彼女の影の護衛であるシロはマリアナが来た瞬間、天上に姿をひそめて成り行きを見守っていた。つまりは彼女達の会話を最初から最後まで聞いていたのだ。

「シロ……。貴方は知ってたの? マリアナが私の異母姉だって……」

 マリアナのサファイアのような青い瞳。
 あれはハルバード公爵家の色だ。
 しかも彼女の顔は公爵に生き写し、その表情さえも。

「え!? 異母姉ってことは……伯爵の愛人が旦那様の子ってことですか?」

「うん……だって、彼女の顔は公爵様そっくりだし、何よりあの瞳はハルバード公爵家の色でしょう? 私よりも鮮やかで綺麗な色をしてたわ」

「……いやー、いつもケバイ化粧してたから、顔立ちとか瞳とかちっとも分からなかったですね。ああでもそっか……だからリサさんが『愛人には危害を加えてはならない』って言ったんだ……」

「リサが? じゃあ彼女は分かっていたってこと……?」

「多分そうだと思います。うーん……それにしてもあの愛人が公爵様の息女ですか……。なら、この邸から出て行ってもらえたのは僥倖ですね。

 巻き込まれるという言葉でジュリエッタは我に返った。
 予想すらしていなかった異母姉との邂逅でうっかりしていたが、自分はとしてここにやってきたのだと思い直す。

「公爵様はマリアナまで巻き込むつもりだったのかしら……」

 マリアナが出て行ったのはダニエルが屑の極みだったことが原因だ。
 公爵が何かを画策し、マリアナが出て行ったわけではない。
 
 だが、あのまま彼女がこの邸に留まれば何かしらの処罰を受けていたことは間違いない。
 公爵はそれでも構わなかったのだろうか?
 
「お嬢様……。非常に言いにくいのですが、旦那様は御子を慈しむようなお方ではありません……」

 言いにくそうに、それでもハッキリと告げるシロを見てジュリエッタはハッとなった。

 公爵がそういう人間だってことは知っていたはずなのに、なぜか普通の父親のように考えてしまった。
 普通の父親が婚外子を駒にするはずもないのに。

「ごめん、シロ。言いにくいことを言わせちゃったわね」

「いえ、でも、お嬢様にとってはお父君ですし、その……」

「ああ、いいのよ。私は公爵様を父親だなんて思っていないから。愛されてなかろうがどうだっていいわ。だって他人にしか思えないんだもの」
 
 あんな目的のためなら自分以外を犠牲にしても構わないと思えるような人間、父親だなどと思いたくもない。

 ジュリエッタにとって公爵はだ。
 
 同じ血の繋がりがあるマリアナほどの親近感など露程も芽生えなかった。
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