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彼女と求婚の言葉
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「お嬢様、ただいま戻りました!」
「ご苦労様。丁度お茶の用意が出来たところよ」
満面の笑みでシロが別邸へと戻ってきた。
それをテーブルにお茶とお菓子を並べていたジュリエッタが出迎える。
「あ、今日のお茶請けはベリーパイですか!? やった! 俺、これ大好きなんですよね!」
知ってる、とジュリエッタは心の中で呟いた。
初めてこれを出した日、彼が夢中でペロリと平らげたことうを今でも覚えている。
「これ、焼き立てはもっと美味しいのよ」
「へえ、そうなんですか? あ、もしかしてお嬢様、これ作れるんですか?」
「うん、まあね。母の得意料理だから」
母と暮らしていた頃はよく二人で森に木苺を摘み、それでパイを焼いたものだ。
あの焼き立て特有のサクッとした食感、熱々のベリーの蕩ける甘さ、それは今も忘れない。
「自分で料理したんだけど、ここじゃ無理だしね」
「まあ、旦那様が怒りますからね。貴族令嬢は料理をしたらダメだって」
ジュリエッタは公爵から料理を禁じられている。
なぜなら貴族に取って料理とはしてもらうものであって、自らするものではないからだ。
名門ハルバード公爵家の令嬢が使用人の真似事をするものではない、というのが公爵の考えらしい。
「それは分かってるわ。こうやって食事を運んでもらえるのもありがたいけど……無性に料理をしたくなる時があるのよ」
母はよくジュリエッタに『いつか好きな人が出来たら、沢山美味しいものを作ってあげるといいわ』と言っていた。男は胃袋を掴めとも。
それでジュリエッタは思った。目の前の愛しい男の胃袋を掴みたいと。
「俺もお嬢様の手料理食べてみたいですね~。ここを出て、一緒に暮らすようになったら作ってください」
「は?」
サラリと爆弾発言をかますシロ。
それを聞いたジュリエッタは目を丸くして驚いた。
「ええええ!? 一緒に暮らすって何? どういうこと!?」
「ん? 結婚して夫婦になるって意味ですけど?」
「いやいやいや!? 何で結婚? 何で夫婦?」
「何でって……お嬢様、俺のこと好きですよね?」
「えっ!? あ、そ、それは……」
何故か好きな人に自分の想いが知られていることにジュリエッタは驚愕した。
この想いを口にしたことはない。それなのにどうして。
「だってお嬢様、ずっと俺のこと目で追ってますもの。俺もお嬢様を見てますから自然と分かっちゃいましたよ」
「え、あ、そ、それは……あの……」
予想外の展開に頭が追い付かない。
男女の想いが通じる時とは、もっとそれらしい甘いムードが漂うものじゃないのか。
なのにこんな世間話のついでのようなタイミングで自分の恋心が知られてしまった。
驚きと困惑で泣きそうだ。
「あ……すみませんでした。いきなり言うものじゃないですよね? 俺ってどうもこう……情緒がないというか、デリカシーがないところがあって……。リサさんにもよくそれで叱られてます」
「うん……そうね。デリカシーは皆無よね。反省して頂戴……」
「はい……すみません。それでその、結婚はしてくれますか? 俺、お嬢様を初めて見た時から欲情してました」
「私は反省しろと言ったわよね!? 求婚の台詞が最悪過ぎるんだけど!??」
自分が好きになった男性の予想を超えたデリカシーのなさに驚き、ジュリエッタは淑女らしさを忘れ大声をあげてしまった。
「お嬢様、淑女が大声をあげるなんてはしたないですよ! 旦那様に知られたら叱られますよ?」
「誰のせいだと思ってんの!? その淑女に向かって破廉恥な台詞を吐いたのは誰!?」
「うーん、俺ですね。駄目でした?」
「駄目というか最低よ! なんでそれでいいと思ったの?」
「素直な気持ちを伝えれば告白は上手くいくと聞きまして……」
「気持ちというか、下心は伝えたらダメではなくて?」
「大丈夫です! お嬢様がここを出るまで手を出さないと誓いますから! むしろ手出ししたらリサさんにぶっ殺されますんで!」
「そんなことは聞いてないわよ!? さっきから会話になってないんだけど!?」
「え……お嬢様、もしかして今すぐ俺に抱いてほしいんですか?」
「そんなこと一言もいってないわよ!? どういう思考回路してんのよアンタ!!」
「俺もお嬢様にスケベなことをしたくてたまりませんが、ここを出るまで待ってください。今手出ししたら多分絶対に俺は始末されます」
「アンタは下半身に脳みそがついてるわけ!?」
我慢できずジュリエッタはシロの頬を思い切りひっぱたいた。
こんな時に淑女がどうのこうのなんて言ってられない。
「くっ……。お嬢様のビンタは中々威力がありますね。悪くありません……」
「アンタ……そんな変態趣味まで……」
まさかの被虐思考があったとは。とんでもない奴に初恋を捧げてしまったとジュリエッタは天を仰いだ。
しかし、それでも嫌いになんてなれない。
恋した相手がデリカシーのない変態だとしても、好きだという気持ちは消えない。
恋は盲目というが、まさしくその通りだ。
だって、まだこんなにも胸が甘く疼くのだから……。
「ご苦労様。丁度お茶の用意が出来たところよ」
満面の笑みでシロが別邸へと戻ってきた。
それをテーブルにお茶とお菓子を並べていたジュリエッタが出迎える。
「あ、今日のお茶請けはベリーパイですか!? やった! 俺、これ大好きなんですよね!」
知ってる、とジュリエッタは心の中で呟いた。
初めてこれを出した日、彼が夢中でペロリと平らげたことうを今でも覚えている。
「これ、焼き立てはもっと美味しいのよ」
「へえ、そうなんですか? あ、もしかしてお嬢様、これ作れるんですか?」
「うん、まあね。母の得意料理だから」
母と暮らしていた頃はよく二人で森に木苺を摘み、それでパイを焼いたものだ。
あの焼き立て特有のサクッとした食感、熱々のベリーの蕩ける甘さ、それは今も忘れない。
「自分で料理したんだけど、ここじゃ無理だしね」
「まあ、旦那様が怒りますからね。貴族令嬢は料理をしたらダメだって」
ジュリエッタは公爵から料理を禁じられている。
なぜなら貴族に取って料理とはしてもらうものであって、自らするものではないからだ。
名門ハルバード公爵家の令嬢が使用人の真似事をするものではない、というのが公爵の考えらしい。
「それは分かってるわ。こうやって食事を運んでもらえるのもありがたいけど……無性に料理をしたくなる時があるのよ」
母はよくジュリエッタに『いつか好きな人が出来たら、沢山美味しいものを作ってあげるといいわ』と言っていた。男は胃袋を掴めとも。
それでジュリエッタは思った。目の前の愛しい男の胃袋を掴みたいと。
「俺もお嬢様の手料理食べてみたいですね~。ここを出て、一緒に暮らすようになったら作ってください」
「は?」
サラリと爆弾発言をかますシロ。
それを聞いたジュリエッタは目を丸くして驚いた。
「ええええ!? 一緒に暮らすって何? どういうこと!?」
「ん? 結婚して夫婦になるって意味ですけど?」
「いやいやいや!? 何で結婚? 何で夫婦?」
「何でって……お嬢様、俺のこと好きですよね?」
「えっ!? あ、そ、それは……」
何故か好きな人に自分の想いが知られていることにジュリエッタは驚愕した。
この想いを口にしたことはない。それなのにどうして。
「だってお嬢様、ずっと俺のこと目で追ってますもの。俺もお嬢様を見てますから自然と分かっちゃいましたよ」
「え、あ、そ、それは……あの……」
予想外の展開に頭が追い付かない。
男女の想いが通じる時とは、もっとそれらしい甘いムードが漂うものじゃないのか。
なのにこんな世間話のついでのようなタイミングで自分の恋心が知られてしまった。
驚きと困惑で泣きそうだ。
「あ……すみませんでした。いきなり言うものじゃないですよね? 俺ってどうもこう……情緒がないというか、デリカシーがないところがあって……。リサさんにもよくそれで叱られてます」
「うん……そうね。デリカシーは皆無よね。反省して頂戴……」
「はい……すみません。それでその、結婚はしてくれますか? 俺、お嬢様を初めて見た時から欲情してました」
「私は反省しろと言ったわよね!? 求婚の台詞が最悪過ぎるんだけど!??」
自分が好きになった男性の予想を超えたデリカシーのなさに驚き、ジュリエッタは淑女らしさを忘れ大声をあげてしまった。
「お嬢様、淑女が大声をあげるなんてはしたないですよ! 旦那様に知られたら叱られますよ?」
「誰のせいだと思ってんの!? その淑女に向かって破廉恥な台詞を吐いたのは誰!?」
「うーん、俺ですね。駄目でした?」
「駄目というか最低よ! なんでそれでいいと思ったの?」
「素直な気持ちを伝えれば告白は上手くいくと聞きまして……」
「気持ちというか、下心は伝えたらダメではなくて?」
「大丈夫です! お嬢様がここを出るまで手を出さないと誓いますから! むしろ手出ししたらリサさんにぶっ殺されますんで!」
「そんなことは聞いてないわよ!? さっきから会話になってないんだけど!?」
「え……お嬢様、もしかして今すぐ俺に抱いてほしいんですか?」
「そんなこと一言もいってないわよ!? どういう思考回路してんのよアンタ!!」
「俺もお嬢様にスケベなことをしたくてたまりませんが、ここを出るまで待ってください。今手出ししたら多分絶対に俺は始末されます」
「アンタは下半身に脳みそがついてるわけ!?」
我慢できずジュリエッタはシロの頬を思い切りひっぱたいた。
こんな時に淑女がどうのこうのなんて言ってられない。
「くっ……。お嬢様のビンタは中々威力がありますね。悪くありません……」
「アンタ……そんな変態趣味まで……」
まさかの被虐思考があったとは。とんでもない奴に初恋を捧げてしまったとジュリエッタは天を仰いだ。
しかし、それでも嫌いになんてなれない。
恋した相手がデリカシーのない変態だとしても、好きだという気持ちは消えない。
恋は盲目というが、まさしくその通りだ。
だって、まだこんなにも胸が甘く疼くのだから……。
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