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エーミールの末路②
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謁見の間から連れ出されたエーミールは、皇宮内にある自室に戻ることなく馬車へと押し込まれた。
「無礼者が! 僕は皇女の夫だぞ!?」
顔を真っ赤にして怒るエーミールに、兵士は嘲りの表情を見せた。
「さっき離縁したって言われたろ? もう忘れたのか? お前はこれから臣下に下げ渡されるんだよ」
「下げ渡すだって!? そんな真似が許されるものか!」
「寵愛の途絶えた者が下げ渡されるなんざ、よくあることじゃないか? それが嫌なら寵愛が途絶えぬよう必死に尽くせばよかったんだ。それをお前さんは平気で不貞を繰り返し、皇女様を裏切ったじゃねえか? よくぞそんな非常識なことができたものだと感心するよ。本当ならギロチンにかけられてもおかしくないんだぜ?」
「それは……男なら欲は溜まるし、発散は必要なんだ。仕方ないじゃないか」
「どういう理屈だよそれは……。お前さん、ここまできても皇女様に悪いと思っていないのか?」
「悪い? なんで悪いと思わなきゃいけないんだ?」
エーミールに相手を裏切ったという概念はない。
ベロニカの時もそうだったが、相手が傷つくとかよりも自分の欲を満たすことの方が重要だからだ。
それで相手が傷つこうとも、それは相手が傷つく方が悪いと本気で思っている。
「やべえな、お前さん……。こんなのを選んだばかりに傷つけられた皇女様がお可哀そうだ……」
兵士に蔑んだ視線を向けられ、エーミールは反射的に殴り掛かろうとした。
だが鍛えられた兵士に、軟弱なエーミールの攻撃が届くわけもなく、いとも簡単に避けられる。
「おいおい大人しくしてろよ。これから数日は馬車に揺られなきゃならないんだから、体力は温存しておけって」
「はあ!? 僕をいったい何処に連れていくつもりだ!」
「だから臣下に下げ渡されるって言ったろ? その臣下の家に連れていくんだよ」
「臣下の家だと!? なんでそんなところに連れていかれるんだ! 僕は皇女の夫だぞ!? 皇女は皇太子になるのだから、僕は皇太子の伴侶ということだ! お前、一介の兵士の分際で皇太子の伴侶に手出ししていいと思っているのか!」
「だから離縁されたって言ってんだろ? 皇女様は由緒正しき帝国貴族より新しい御夫君を迎えられる予定だ。お前のようなどこの馬の骨かも分からぬ輩はもう用済みなんだよ」
「嘘だ! セレスは僕を愛していると言ってくれたんだ! 僕だけが好きだと誓ってくれた!」
「いや、だったらお前さんも浮気すんなよ。皇女様だけを愛せばよかったじゃねえか」
「愛しているのはセレスだけだ! 他の女はただの欲のはけ口でしかない!」
「うわ……お前さん、清々しいほどの屑なんだな。長年兵士やってるけど、お前さんほど罪悪感のない奴は初めて見るわ。皇女様もろくでもない男に引っかかったものだな……」
兵士はもう話したくないとばかりに馬車の扉を閉め、外側から鍵をかけた。
中からドンドンと扉をたたく音が聞こえるも、それを無視して御者に声をかける。
「んじゃ、後はよろしく。かなりやべえ奴だけど頑張れよ」
御者は苦笑いをし、そのまま馬車を走らせた。
*
「着いたぞ。ここがお前の新しい家だ」
数日馬車を走らせて着いた先は辺鄙な田舎にポツンとある、小さな家だった。
「は……? なんだここは! こんな粗末な建物が家だって? こんなところに住めるわけないだろう!」
「何言ってんだ。一般的な庶民の家より豪華だぞ?」
「庶民の家だと!? 高貴な僕に庶民の家に住めというのか!」
「だからそうだって言ってんだろ? ほら、お前の新しい嫁さんが迎えに来てくれたようだぞ」
見ると家の中から一人の若い女性がこちらに向かってくる。
女性は若いのにひどく草臥れているといった印象で、エーミールを見るなり顔を歪めた。
「……どうも、お久しゅうございます。エーミール様……」
「は? 誰だ君は? 何故僕の名を知っている?」
訝し気なエーミールの態度に、女性は自嘲するような笑みを浮かべた。
「お忘れですか……。そうですよね、貴方はそういう薄情なお方ですもの。貴方のせいで、毒を賜ることになった女官の顔をもうお忘れですか?」
吐き捨てるようにそう言った女官の顔をエーミールはまじまじと見た。
そういえば、こんな顔の女官を相手にしたような……。
「無礼者が! 僕は皇女の夫だぞ!?」
顔を真っ赤にして怒るエーミールに、兵士は嘲りの表情を見せた。
「さっき離縁したって言われたろ? もう忘れたのか? お前はこれから臣下に下げ渡されるんだよ」
「下げ渡すだって!? そんな真似が許されるものか!」
「寵愛の途絶えた者が下げ渡されるなんざ、よくあることじゃないか? それが嫌なら寵愛が途絶えぬよう必死に尽くせばよかったんだ。それをお前さんは平気で不貞を繰り返し、皇女様を裏切ったじゃねえか? よくぞそんな非常識なことができたものだと感心するよ。本当ならギロチンにかけられてもおかしくないんだぜ?」
「それは……男なら欲は溜まるし、発散は必要なんだ。仕方ないじゃないか」
「どういう理屈だよそれは……。お前さん、ここまできても皇女様に悪いと思っていないのか?」
「悪い? なんで悪いと思わなきゃいけないんだ?」
エーミールに相手を裏切ったという概念はない。
ベロニカの時もそうだったが、相手が傷つくとかよりも自分の欲を満たすことの方が重要だからだ。
それで相手が傷つこうとも、それは相手が傷つく方が悪いと本気で思っている。
「やべえな、お前さん……。こんなのを選んだばかりに傷つけられた皇女様がお可哀そうだ……」
兵士に蔑んだ視線を向けられ、エーミールは反射的に殴り掛かろうとした。
だが鍛えられた兵士に、軟弱なエーミールの攻撃が届くわけもなく、いとも簡単に避けられる。
「おいおい大人しくしてろよ。これから数日は馬車に揺られなきゃならないんだから、体力は温存しておけって」
「はあ!? 僕をいったい何処に連れていくつもりだ!」
「だから臣下に下げ渡されるって言ったろ? その臣下の家に連れていくんだよ」
「臣下の家だと!? なんでそんなところに連れていかれるんだ! 僕は皇女の夫だぞ!? 皇女は皇太子になるのだから、僕は皇太子の伴侶ということだ! お前、一介の兵士の分際で皇太子の伴侶に手出ししていいと思っているのか!」
「だから離縁されたって言ってんだろ? 皇女様は由緒正しき帝国貴族より新しい御夫君を迎えられる予定だ。お前のようなどこの馬の骨かも分からぬ輩はもう用済みなんだよ」
「嘘だ! セレスは僕を愛していると言ってくれたんだ! 僕だけが好きだと誓ってくれた!」
「いや、だったらお前さんも浮気すんなよ。皇女様だけを愛せばよかったじゃねえか」
「愛しているのはセレスだけだ! 他の女はただの欲のはけ口でしかない!」
「うわ……お前さん、清々しいほどの屑なんだな。長年兵士やってるけど、お前さんほど罪悪感のない奴は初めて見るわ。皇女様もろくでもない男に引っかかったものだな……」
兵士はもう話したくないとばかりに馬車の扉を閉め、外側から鍵をかけた。
中からドンドンと扉をたたく音が聞こえるも、それを無視して御者に声をかける。
「んじゃ、後はよろしく。かなりやべえ奴だけど頑張れよ」
御者は苦笑いをし、そのまま馬車を走らせた。
*
「着いたぞ。ここがお前の新しい家だ」
数日馬車を走らせて着いた先は辺鄙な田舎にポツンとある、小さな家だった。
「は……? なんだここは! こんな粗末な建物が家だって? こんなところに住めるわけないだろう!」
「何言ってんだ。一般的な庶民の家より豪華だぞ?」
「庶民の家だと!? 高貴な僕に庶民の家に住めというのか!」
「だからそうだって言ってんだろ? ほら、お前の新しい嫁さんが迎えに来てくれたようだぞ」
見ると家の中から一人の若い女性がこちらに向かってくる。
女性は若いのにひどく草臥れているといった印象で、エーミールを見るなり顔を歪めた。
「……どうも、お久しゅうございます。エーミール様……」
「は? 誰だ君は? 何故僕の名を知っている?」
訝し気なエーミールの態度に、女性は自嘲するような笑みを浮かべた。
「お忘れですか……。そうですよね、貴方はそういう薄情なお方ですもの。貴方のせいで、毒を賜ることになった女官の顔をもうお忘れですか?」
吐き捨てるようにそう言った女官の顔をエーミールはまじまじと見た。
そういえば、こんな顔の女官を相手にしたような……。
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