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馬車の中

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 結婚式も無事終わり、ベロニカは侯爵と共に馬車でコンラッド邸へと向かった。

「素敵なお式でしたわね……」

「ああ、そうだな。それにとても綺麗だったぞ、ベロニカ……」

 晴れて夫婦となった二人は寄り添い、口づけを交わす。
 新妻は夫の首に腕を回し艶やかな視線を向け、もっと深くと強請った。

「ん……ディミトリ様……」

「ベロニカ……愛している」
 
 愛しい新妻の唇を堪能しつつ、両手を彼女の腰に回す。
 そしてそのままいやらしく撫でさするとベロニカの体がビクンと跳ねた。

「もう……馬車の中ですのよ? 邸に着くまで待ってくださいまし」

 まんざらでもない表情でベロニカは夫を諫めた。
 
 好きでたまらない人に触れられるのは嬉しいがここでは嫌、と言わんばかりの新妻の顔に侯爵はひどく煽られる。

「んっ……。もう、駄目ですってば……」

 こんなに可愛い妻を前にしては我慢がきかない。

 侯爵は弱弱しい抵抗をするベロニカの腕を優しく制し、その白い首筋から胸元にかけて口づけを落とした。

「あっ、ディミトリ様……もうっ!」

「大丈夫だ、口づけしかしない。それ以上は邸まで我慢するから……」

 懇願する夫が何だか可愛く思える。
 ベロニカは仕方ないわねと笑い、そのまま彼の好きにさせた。

 嬉しそうに口づける夫を微笑ましく眺めていたベロニカだが、ふと思い出したことを彼に尋ねた。

「ディミトリ様、そういえば式の最中にお父様や陛下と中座することがありましが……何かよろしくないことが起きたのですか?」

「ああ……あれか。あれは式場内に不審者がいたようでな……」

「不審者ですって!? それは……まさか陛下を狙ってですか?」

「うん、まあ……そんなとこだ。安心してくれ、すでに。後の処遇は陛下が下してくださる」

「まあ……そんなことがあったのですね。わたくしったら何も知らず……」

「いや、このような荒事に君を巻き込みたくなどない。終わったことなのでベロニカは気にしなくていい」

 困ったように「でも……」と口にするベロニカの唇を侯爵は己ので塞ぎ、それ以上何も言えないようにした。

 その何かを誤魔化すような行動にベロニカは訝しんだものの、彼が隠したいのであれば無理に聞くことは止めようと思い直す。

 再び彼の逞しい首に両腕を回し、邸に着くまで口づけを堪能し続けた。
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