初恋が綺麗に終わらない

わらびもち

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初恋の成就

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「ディミトリ様、あんなに沢山の贈り物をありがとうございます」

 季節の花々が美しい庭園を歩きながらベロニカは侯爵に礼を言った。

「いや、気に入ってくれたなら嬉しいが……やはり少し量が多すぎたな……」

「ふふ、あんなに沢山の品を頂けるなんて嬉しいですわ」

「そうか、君が喜んでくれたなら嬉しい。……その髪飾り、よく似合っている」

 ベロニカの髪を彩る琥珀の飾りを見て侯爵は目を細めた。

「ええ……これは、貴方の瞳の色と同じですもの。貴方の色を身に纏えるなんて嬉しいです」

 相手の色を身に纏えるのは婚約者か妻だけ。
 自分がその資格を得たことが、ベロニカは嬉しくて仕方ない。

「私も……君が妻になってくれて、死ぬほど嬉しい。あの日、君に触れてからというもの、寝ても覚めても君のことばかりが浮かんでな……どうにも忘れられなかった」

 侯爵の突然の告白にベロニカは驚いて目を丸くした。
 自分だけだと思っていたのに、彼も同じ気持ちを抱いてくれていたのだ。
 それが泣きそうなほど嬉しい。

「改めて言わせてほしい、ベロニカ嬢。私は君が好きだ、愛している」

 その場で侯爵は跪きベロニカに愛を告げる。
 
忘れようとして忘れられず、諦めようとしても無理だった初恋の君。
そんな彼から、思いがけずかけられた愛の言葉はベロニカの胸を射抜く。

「嬉しい……ディミトリ様。わたくしも、わたくしもずっと……貴方のことが好きで、どうしても忘れられなくて……。初恋のまま綺麗に終わらせるつもりでしたのに、貴方への想いは募るばかりで……」

 ベロニカの翡翠の瞳から自然と涙が溢れて落ちる。
侯爵は跪いたままその涙を指で拭い、そっと囁いた。

「私もそうだ。君への想いは募るばかりだった……。それに君が綺麗に初恋を終わらせても、私は綺麗なまま終われなかったよ。誰かの者になった君に醜く執着したと思う……」

 流れるように立ちあがり、侯爵はベロニカを抱き寄せた。

「ベロニカ嬢……ベロニカ、またこうやって君を腕に抱くことができた。もう決して離したくない……」

「ディミトリ様……嬉しい」

 二人見つめ合い、どちらともなく唇を近づけ重ねる。
 きつく抱き合い、お互いだけをその目に映して。



「……人の家でやらないで欲しいな」

「ええ、そうですね……」

 想い合う二人の口づけは伯爵夫妻に目撃されていた。
 何故なら応接室の窓から庭にいる二人の姿は丸見えだったからだ。

「結婚……早めるか。婚前に子供が出来たら世間体がよろしくないし……」

 あまりにも仲の良い二人の様子に伯爵はベロニカの結婚を早めることを決めた。

 そのおかげでベロニカは貴族の最低婚約期間である一年を待たず、わずか数か月でコンラッド侯爵家へ嫁入りし、晴れて初恋の君の妻となったのである。
 
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