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どうして貴方がここに……?

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 出入り口を通過し会場の外に出ると、冷えた夜の風が肌を撫でる。
 室内は熱気に包まれていたがここは少し肌寒い。

(外は冷えるわね……。ストールでも羽織ってくればよかったわ)

 むき出しの腕を擦り、少しでも暖をとろうとするもあまり効果は得られない。
 震えながら馬車まで歩を進めていると、急にふわりと温かな物が肩に触れた。

「えっ……? あ、コンラッド侯爵閣下……!?」

 何だろうと振り向くと、そこにはエーミールの父親のコンラッド侯爵がいた。

「ベロニカ嬢、外は冷える。これを羽織っていなさい」

 侯爵はそう言ってベロニカの肩に毛皮のストールをかける。
 柔らかな肌触りと温もりが冷えた体に心地よい。

「あ、ありがとうございます……。あの、閣下はどうしてここに?」

 今宵の夜会は若年者向けに開催されたもので、親世代は参加していない。
 なのになぜ、侯爵はここにいるのだろう?

「理由は二つある。一つはエーミールがやらかさないか心配だったからだ。まあ……君がここに一人でいるということは、すでにやらかしてしまったようだが。それともう一つはこれだ」

 これ、と指したのは今ベロニカが羽織っているストールだ。
 柔らかで質のいい毛皮で出来た上質なこれは女性が羽織る物。

 何故男性の侯爵が女物を? そしてこれが理由とはどういうことだろう?

「最近は肌寒くなってきたからな。特に夜は冷えるだろうから、夜会でベロニカ嬢が必要とあらば羽織らせた方がいいと思って用意した。なのに愚息は忘れていったものだから……」

「え? 閣下はわたくしの為にこれを? しかもそれをわざわざ届けてくださったのですか?」

 侯爵自ら息子の忘れ物を届けにくるなど信じられない。
 しかもわざわざ自分の為に用意してくれたなんて……。

 その瞬間、ドクンと心臓が跳ね、急激に体温が上昇した。

(え? え……? な、何、これ……)

 胸がうるさいくらい鼓動を刻み、激しい運動をしたかのようの呼吸が苦しい。
 まるで熱に浮かされたように体が熱い。先ほどまで寒さに震えていたというのに。

「これが最後になると思ったからな、父親として君にきちんと謝罪せねばと。……ベロニカ嬢、愚息が本当に申し訳なかった。察するに、どうせあいつがまた他所の女を優先し、君を放置したのだろう?」

 申し訳なさそうに頭を下げる侯爵にベロニカは慌てた。

「お止め下さい閣下! わたくしに頭を下げるなど……」

「何を言う、君に無礼を働いたのは私の息子だ。なら親として謝罪するのは当然だろう。本当に済まない……君の大切な時間を、あんな愚息のために浪費させてしまって」

 身分も年齢も下の自分に、侯爵が頭を下げるなど本来ならば有り得ないこと。
 だが目の前のこの人にはそんなこと関係ないのかもしれない。

 非があれば当たり前のように謝罪してくれる。
 それだけ相手に対して誠実で、思いやりのある人なのだ。

 どうしよう……顔を見るだけで胸が苦しい。
 苦しいのに、何故かこれまで感じたことがないほどの幸福感が満ちる。

 こんな気持ちは生まれて初めてだ。
 甘くて、苦しくて、幸せで……叫び出したくなるような、そんな気持ち。

 これって……もしかして……。
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