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二つ目の理由
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「さて、貴方の今後についてですが、選択肢は二つあります」
愕然と項垂れるエーリックに構わずディアナは今後について説明した。
「あんな騒ぎを起こしたので、もう邸で雇うわけにはいきません。住み込みの労働所に行くか、貴方が真に愛する相手……ドリスさんの所に行くか、どちらか選んでいただきます」
「は? ドリスの所……? 何処にいるか分からないんだぞ?」
「何処に行ったかは把握しておりますので、ご安心ください。勿論そこまで送り届けて差し上げましてよ」
正直、エーリックの中でドリスへの愛情はもう枯れつつある。
だが……労働所に行くことと天秤にかけて、どちらがいいかなんて決まっているようなものだ。
「…………なら、ドリスの元に行く」
絞り出すような声でエーリックはそう答えた。
本当はディアナの所がいい。流石にそれを言えば牢番の槍で刺されかねない。
「左様でございますか。では、そのように。明日の朝一番で送りますので、今宵は一晩ここでお過ごしください」
それだけ言い終えるとディアナはエーリックに背を向けた。
「駆け落ちまでなさったんですもの……きちんと添い遂げてくださいましね。では、お元気で……」
去り際に放たれた言葉がエーリックの胸を締め付ける。
何が何でも添い遂げたとか、そんな強い気持ちがあって駆け落ちしたわけじゃない。
その時の雰囲気で、勢いで、そうしてしまっただけだ。
後で自分がどうなるか、家がどうなるかなんて考えもしなかった……。
今更悔やんだところでもう遅い。
もう全ては終わったことなのだから。
*
「あら、そういえば二つ目の理由について説明してなかったわ……」
色とりどりの花々に囲まれた美しい庭園。
その四阿でディアナは婚約者とお茶を楽しんでいた。
「うーん……それは、言わない方が正解だと思うよ?」
婚約者の大公は優美な仕草でお茶のカップをソーサーに戻す。
そして空いた手で優しくディアナの頬を撫でた。
愛しい、大切だ、という気持ちが伝わるような手つきで。
「そうですか? 知っておいた方がいいと思ったんですが……。元はご自分の家の持ち物なんですから」
「その持ち物が宝の山と知らず、要らぬ物扱いしていたような、見る目のない人間だ。知ってしまえば無駄な欲が出るだろうよ」
「まあ……確かに」
セレネ伯爵家を訪問した大公にエーリックが危害を加えようとした日から数日、あの時の詫びも兼ねてディアナは大公家へと足を運んでいた。
一日だけ夫婦だった元夫の顛末と、どのような会話を交わしたかを説明していると、ふと気づく。
自分がエーリックに、婚約を交わした二つの理由の内の一つを話していなかったと。
「それにしてもアルバン元子爵家は愚鈍な者の集まりだったんだな。ダイヤモンドが採れる鉱山を眠らせておくなんて……普通じゃ考えられないよ」
「あら、だって彼の家はあの鉱山から資源が枯渇したものだと思い違いをなさっていたんですもの。碌に調査もせずにね」
ディアナがエーリックと婚約をした二つ目の理由、それはアルバン子爵家が保有する鉱山だ。
平民の恋人がいるエーリックならば離婚が成立しやすい。
だがそれだけではディアナの父、セレネ伯爵を納得させることは出来ない。
ただ自分が大公を好きだから、既婚歴を付ける為だけに婚約をする。そんなことを父が許すはずもない。
貴族令嬢の婚約とは、家に利益をもたらすものでないと。
なので、何か利益になるものはないかとアルバン子爵家を調べていくうち、あることを発見した。
彼の家が所有する、閉鎖された鉱山からはダイヤモンドが採掘されることを―――。
愕然と項垂れるエーリックに構わずディアナは今後について説明した。
「あんな騒ぎを起こしたので、もう邸で雇うわけにはいきません。住み込みの労働所に行くか、貴方が真に愛する相手……ドリスさんの所に行くか、どちらか選んでいただきます」
「は? ドリスの所……? 何処にいるか分からないんだぞ?」
「何処に行ったかは把握しておりますので、ご安心ください。勿論そこまで送り届けて差し上げましてよ」
正直、エーリックの中でドリスへの愛情はもう枯れつつある。
だが……労働所に行くことと天秤にかけて、どちらがいいかなんて決まっているようなものだ。
「…………なら、ドリスの元に行く」
絞り出すような声でエーリックはそう答えた。
本当はディアナの所がいい。流石にそれを言えば牢番の槍で刺されかねない。
「左様でございますか。では、そのように。明日の朝一番で送りますので、今宵は一晩ここでお過ごしください」
それだけ言い終えるとディアナはエーリックに背を向けた。
「駆け落ちまでなさったんですもの……きちんと添い遂げてくださいましね。では、お元気で……」
去り際に放たれた言葉がエーリックの胸を締め付ける。
何が何でも添い遂げたとか、そんな強い気持ちがあって駆け落ちしたわけじゃない。
その時の雰囲気で、勢いで、そうしてしまっただけだ。
後で自分がどうなるか、家がどうなるかなんて考えもしなかった……。
今更悔やんだところでもう遅い。
もう全ては終わったことなのだから。
*
「あら、そういえば二つ目の理由について説明してなかったわ……」
色とりどりの花々に囲まれた美しい庭園。
その四阿でディアナは婚約者とお茶を楽しんでいた。
「うーん……それは、言わない方が正解だと思うよ?」
婚約者の大公は優美な仕草でお茶のカップをソーサーに戻す。
そして空いた手で優しくディアナの頬を撫でた。
愛しい、大切だ、という気持ちが伝わるような手つきで。
「そうですか? 知っておいた方がいいと思ったんですが……。元はご自分の家の持ち物なんですから」
「その持ち物が宝の山と知らず、要らぬ物扱いしていたような、見る目のない人間だ。知ってしまえば無駄な欲が出るだろうよ」
「まあ……確かに」
セレネ伯爵家を訪問した大公にエーリックが危害を加えようとした日から数日、あの時の詫びも兼ねてディアナは大公家へと足を運んでいた。
一日だけ夫婦だった元夫の顛末と、どのような会話を交わしたかを説明していると、ふと気づく。
自分がエーリックに、婚約を交わした二つの理由の内の一つを話していなかったと。
「それにしてもアルバン元子爵家は愚鈍な者の集まりだったんだな。ダイヤモンドが採れる鉱山を眠らせておくなんて……普通じゃ考えられないよ」
「あら、だって彼の家はあの鉱山から資源が枯渇したものだと思い違いをなさっていたんですもの。碌に調査もせずにね」
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ただ自分が大公を好きだから、既婚歴を付ける為だけに婚約をする。そんなことを父が許すはずもない。
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なので、何か利益になるものはないかとアルバン子爵家を調べていくうち、あることを発見した。
彼の家が所有する、閉鎖された鉱山からはダイヤモンドが採掘されることを―――。
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