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カサンドラの後悔⑤
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身一つでスピナー公爵家から追い出されたわたくし。
そのまま隣国の顔も知らない貴族の元に嫁入りした。
わたくしの夫になる男はなかなか綺麗な顔をしていて、身に着けているものも高級感がある。
ふうん、悪くないわね。
そういえば悪役令嬢が追い出された場所で美男子に溺愛される、という展開は鉄板よね?
ここからゲームの強制力が消え、悪役令嬢カサンドラの幸福な人生が始まる……。
うん、素敵だわ。
相手の男性が男爵ってのがイマイチ気に入らないけど……。
どうせなら隣国の王太子とか第二王子とか、王族がよかったわ。
まあでも贅沢は言ってられないわよね。男爵でも顔がイイから我慢してあげるわ。
そうやって折り合いをつけたわたくしに夫がかけた言葉は信じられないほど酷いものだった。
愛することはないですって……?
高貴なわたくしになんて無礼な!
「貴族と平民は結婚できないからね。私のように妻には出来ない恋人がいる男は君のような仮初の妻が必要だ。だからロバス公爵から君を金で買ったんだよ。公爵は君をどう扱っても構わないと、何があっても絶対に国元に帰さないでくれと私に頼んできた」
「何ですって……? お兄様がそんなことを……!? 嘘よ!」
「え? ……何で嘘だなんて言えるんだ? 散々やらかして家を傾けた張本人が……」
夫は信じられない者を見るような目をわたくしに向けた。
「王太子殿下の婚約者としての役割も果たさない、婚約者のいる令息に擦り寄って彼等の婚約を壊す、大商会を怒らせて取引停止を言い渡される……。いや、すごい悪行だね。君に比べたら私の『君を愛さない』という発言も可愛いものだ」
「違うわよ! それはわたくしが破滅しないために仕方なく……!」
「は? ……うーん、よく分からないけど、つまりは君は自分以外はどうでもいいということだよね?」
「………………え?」
男の発言に一瞬言葉を失った。
それと同時に心臓が鷲掴みにされるような心地に襲われる。
「な、何を言って……そんなわけ……」
「いや、だってそうでしょう? 君は自分がその……破滅? それをしたくないから、他の人間の人生を壊して回った。そしてそのことに対して罪悪感を覚えるどころから当然だと思っている。……いや、すごいね。流石の私でも妻を名ばかりの存在に置くことに罪悪感を覚えたのにさ」
「大袈裟なこと言わないで! わたくしのせいで婚約が壊れたからって……その人の人生までもが壊れたわけじゃないわ!」
そうだ……別に婚約が壊れたくらいで何だと言うのだ。
レオナなんてクリスとの婚約が壊れたおかげで王太子の婚約者になれたのだし、むしろ幸福になったではないか。
「本気で言ってる? 君に侍っていた令息は軒並み家を勘当されてるし、令嬢側にも婚約破棄なんて望んでいなかった者がいるんだよ。ねえ、パティ?」
夫が親しみを込めた愛称でメイドを“パティ”と呼んだ。
わたくしの腕を掴んでいるこの無礼なメイドを。
「仕方ありませんよ、旦那様。この女は自分以外なんてどうでもいいし、興味もないんですから。こんな女のせいで私は……私は……エドと……」
俯いてはらはらと涙を流すメイド。
そんなメイドの肩に夫は優しく手を添える。
「パティ、君はまだ元婚約者のことを……?」
「ええ、勿論です……。ずっと忘れられません……」
主人と使用人とは思えないほどの親しい距離感。
もしやこの無愛想なメイドが夫の恋人なのかと訝しんだ。
すると夫はメイドに向けていた心配そうな表情から一転、蔑むような視線をこちらに向けた。
「もしかして彼女が私の恋人だと思ってる? 違うよ、私とパティは従姉弟なんだ。というか、彼女の事誰だか分からないの?」
このメイドが誰かって? こんな無礼なメイドがわたくしの知り合いなわけないでしょう!?
夫の呆れた声にカッとなり睨みつける。
すると今度はメイドが侮蔑を含んだ目で睨み返してきた。
「……呆れた。自分の国の貴族令嬢の顔すら知らないとはね? 仮にも王太子殿下の婚約者だったのなら、国内の貴族の顔と名前くらい全部頭に叩き込んでおきなさいよ」
「はあ!? アンタいったい誰なの? 何でアンタにそんなこと言われなきゃならないのよ!」
「私が誰ですって? 私はねぇ……貴女が色目を使った宰相の子息、エドワードの元婚約者よ! 貴女さえ……貴女さえいなければ……私はエドと結婚できたのに……!」
己の胸にある怒りをそのままぶつけるような叫びに唖然とした。
宰相の子息のエドワードですって……?
そのまま隣国の顔も知らない貴族の元に嫁入りした。
わたくしの夫になる男はなかなか綺麗な顔をしていて、身に着けているものも高級感がある。
ふうん、悪くないわね。
そういえば悪役令嬢が追い出された場所で美男子に溺愛される、という展開は鉄板よね?
ここからゲームの強制力が消え、悪役令嬢カサンドラの幸福な人生が始まる……。
うん、素敵だわ。
相手の男性が男爵ってのがイマイチ気に入らないけど……。
どうせなら隣国の王太子とか第二王子とか、王族がよかったわ。
まあでも贅沢は言ってられないわよね。男爵でも顔がイイから我慢してあげるわ。
そうやって折り合いをつけたわたくしに夫がかけた言葉は信じられないほど酷いものだった。
愛することはないですって……?
高貴なわたくしになんて無礼な!
「貴族と平民は結婚できないからね。私のように妻には出来ない恋人がいる男は君のような仮初の妻が必要だ。だからロバス公爵から君を金で買ったんだよ。公爵は君をどう扱っても構わないと、何があっても絶対に国元に帰さないでくれと私に頼んできた」
「何ですって……? お兄様がそんなことを……!? 嘘よ!」
「え? ……何で嘘だなんて言えるんだ? 散々やらかして家を傾けた張本人が……」
夫は信じられない者を見るような目をわたくしに向けた。
「王太子殿下の婚約者としての役割も果たさない、婚約者のいる令息に擦り寄って彼等の婚約を壊す、大商会を怒らせて取引停止を言い渡される……。いや、すごい悪行だね。君に比べたら私の『君を愛さない』という発言も可愛いものだ」
「違うわよ! それはわたくしが破滅しないために仕方なく……!」
「は? ……うーん、よく分からないけど、つまりは君は自分以外はどうでもいいということだよね?」
「………………え?」
男の発言に一瞬言葉を失った。
それと同時に心臓が鷲掴みにされるような心地に襲われる。
「な、何を言って……そんなわけ……」
「いや、だってそうでしょう? 君は自分がその……破滅? それをしたくないから、他の人間の人生を壊して回った。そしてそのことに対して罪悪感を覚えるどころから当然だと思っている。……いや、すごいね。流石の私でも妻を名ばかりの存在に置くことに罪悪感を覚えたのにさ」
「大袈裟なこと言わないで! わたくしのせいで婚約が壊れたからって……その人の人生までもが壊れたわけじゃないわ!」
そうだ……別に婚約が壊れたくらいで何だと言うのだ。
レオナなんてクリスとの婚約が壊れたおかげで王太子の婚約者になれたのだし、むしろ幸福になったではないか。
「本気で言ってる? 君に侍っていた令息は軒並み家を勘当されてるし、令嬢側にも婚約破棄なんて望んでいなかった者がいるんだよ。ねえ、パティ?」
夫が親しみを込めた愛称でメイドを“パティ”と呼んだ。
わたくしの腕を掴んでいるこの無礼なメイドを。
「仕方ありませんよ、旦那様。この女は自分以外なんてどうでもいいし、興味もないんですから。こんな女のせいで私は……私は……エドと……」
俯いてはらはらと涙を流すメイド。
そんなメイドの肩に夫は優しく手を添える。
「パティ、君はまだ元婚約者のことを……?」
「ええ、勿論です……。ずっと忘れられません……」
主人と使用人とは思えないほどの親しい距離感。
もしやこの無愛想なメイドが夫の恋人なのかと訝しんだ。
すると夫はメイドに向けていた心配そうな表情から一転、蔑むような視線をこちらに向けた。
「もしかして彼女が私の恋人だと思ってる? 違うよ、私とパティは従姉弟なんだ。というか、彼女の事誰だか分からないの?」
このメイドが誰かって? こんな無礼なメイドがわたくしの知り合いなわけないでしょう!?
夫の呆れた声にカッとなり睨みつける。
すると今度はメイドが侮蔑を含んだ目で睨み返してきた。
「……呆れた。自分の国の貴族令嬢の顔すら知らないとはね? 仮にも王太子殿下の婚約者だったのなら、国内の貴族の顔と名前くらい全部頭に叩き込んでおきなさいよ」
「はあ!? アンタいったい誰なの? 何でアンタにそんなこと言われなきゃならないのよ!」
「私が誰ですって? 私はねぇ……貴女が色目を使った宰相の子息、エドワードの元婚約者よ! 貴女さえ……貴女さえいなければ……私はエドと結婚できたのに……!」
己の胸にある怒りをそのままぶつけるような叫びに唖然とした。
宰相の子息のエドワードですって……?
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