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カサンドラの後悔②
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ここは乙女ゲームの世界だということをわたくしは知っている。
そのゲームのタイトルは忘れてしまったが、内容はよく覚えている。
平民のヒロインが王太子含む様々な攻略対象と恋に落ちるというありがちなものだ。
そしてわたくしはその王太子の婚約者、カサンドラ・スピナー公爵令嬢として生を受けた。
ヒロインと王太子の恋の当て馬であり、断罪され国外追放される運命にある少女に。
あんまりだと思う。
別に好きで婚約者になったわけではないのに、勝手に恋のスパイスとして使い捨てられるなんて……。
破滅の未来しかないのなら、いっそ婚約なんて破棄してしまいたい。
でもきっと無理。
だって婚約者に相応しいのはわたくししかいない、とゲームのキャラクター設定にあったもの。
ならやることは一つしかない。
悪役令嬢に転生したらまず、断罪回避のために動くことが大切。
カサンドラは高慢で近寄りがたい雰囲気を持った美少女だったから、それとは正反対の性格を目指そう。
幸いにも前世のわたくしは明るくて親しみやすい性格だったし。
しかし元のカサンドラの人格がそんなわたくしの努力をことごとく妨害してきた。
誰彼構わず気さくに話しかけようとすると「気安く他人に声をかけないで!」と頭の中に甲高い声が響き、前世の知識を元に事業でも始めようかと思えば「王妃になるのにそんなこと必要ない!」と抵抗する。
特に困ったのは、わたくしが婚約者の王太子に会うことを避けていることを激しく叱責することだ。
どうせ彼は将来私を断罪する。なら交流を深めても無駄じゃないか。
だが元のカサンドラはそれを否定する。
「殿下はそんな非道な御方じゃないわ!」
「せっかく婚約者になれたのよ? 彼に好かれるように振る舞いなさい!」
「わたくしは彼の婚約者よ! 積極的に交流して仲を深めなさい!」
わたくしの心の中で時に泣きながらそう訴える元のカサンドラを哀れに思った。
そういえばゲームでも彼女は王太子に夢中だったが、彼はしつこく付き纏ってくるカサンドラを毛嫌いしていたのに。
可哀想だからそれだけは言わないでおいてあげようとしたのに、元のカサンドラがあまりにもしつこいからつい口にしてしまった。
「王太子はアンタのことを嫌ってるわよ? 男なんてアンタみたいな高圧的な女よりも、優しくて穏やかな女を好むものなのよ!」
そう、ヒロインみたいな……と言う前に私の中にいた元のカサンドラが消えた。
まるで煙のように、それまで本当に彼女がいたという痕跡すら残さずあっさりと。
「あらまあ……よほどショックだったみたいね?」
あんなに五月蠅くしつこくわたくしを叱責し続けていた気の強い彼女の声が消えた。
好きな人から嫌われていると知った途端にぷつりと。
消える寸前に彼女は「え……? 嘘……嘘よ!」と取り乱していたようだった。
そんなにショックだったろうか、好きな人に嫌われているという事実が。
「まあ……まだ嫌われてはいないんだけどね」
カサンドラがしつこく付き纏うことで王太子は彼女を嫌う。
まだそれをしていないので嫌われてはいないだろう、多分。
まあ何でもいい。これでようやく邪魔者が消えた。
やっと自分の好きにやれる。
そう思うと清々しい解放感でいっぱいだ。
当て馬になる惨めなカサンドラ・スピナーは消え、断罪を回避し自ら幸せを掴む新しい自分に生まれ変わったのだから。
そのゲームのタイトルは忘れてしまったが、内容はよく覚えている。
平民のヒロインが王太子含む様々な攻略対象と恋に落ちるというありがちなものだ。
そしてわたくしはその王太子の婚約者、カサンドラ・スピナー公爵令嬢として生を受けた。
ヒロインと王太子の恋の当て馬であり、断罪され国外追放される運命にある少女に。
あんまりだと思う。
別に好きで婚約者になったわけではないのに、勝手に恋のスパイスとして使い捨てられるなんて……。
破滅の未来しかないのなら、いっそ婚約なんて破棄してしまいたい。
でもきっと無理。
だって婚約者に相応しいのはわたくししかいない、とゲームのキャラクター設定にあったもの。
ならやることは一つしかない。
悪役令嬢に転生したらまず、断罪回避のために動くことが大切。
カサンドラは高慢で近寄りがたい雰囲気を持った美少女だったから、それとは正反対の性格を目指そう。
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しかし元のカサンドラの人格がそんなわたくしの努力をことごとく妨害してきた。
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特に困ったのは、わたくしが婚約者の王太子に会うことを避けていることを激しく叱責することだ。
どうせ彼は将来私を断罪する。なら交流を深めても無駄じゃないか。
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「わたくしは彼の婚約者よ! 積極的に交流して仲を深めなさい!」
わたくしの心の中で時に泣きながらそう訴える元のカサンドラを哀れに思った。
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可哀想だからそれだけは言わないでおいてあげようとしたのに、元のカサンドラがあまりにもしつこいからつい口にしてしまった。
「王太子はアンタのことを嫌ってるわよ? 男なんてアンタみたいな高圧的な女よりも、優しくて穏やかな女を好むものなのよ!」
そう、ヒロインみたいな……と言う前に私の中にいた元のカサンドラが消えた。
まるで煙のように、それまで本当に彼女がいたという痕跡すら残さずあっさりと。
「あらまあ……よほどショックだったみたいね?」
あんなに五月蠅くしつこくわたくしを叱責し続けていた気の強い彼女の声が消えた。
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そんなにショックだったろうか、好きな人に嫌われているという事実が。
「まあ……まだ嫌われてはいないんだけどね」
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まだそれをしていないので嫌われてはいないだろう、多分。
まあ何でもいい。これでようやく邪魔者が消えた。
やっと自分の好きにやれる。
そう思うと清々しい解放感でいっぱいだ。
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