貴方といると、お茶が不味い

わらびもち

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クリスフォードのその後③

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 下賤な輩に混じり肉体を行使する日々が続いた。

 朝日が昇り陽が沈むまで重い荷を運び、簡素な食事をとる毎日。
 初めの頃は労働を拒否していたが、そうすると食事が貰えなかった。

 腹がすいて仕方ないなんて、貴族であった頃ではあり得なかったことだ。
 空腹がこんなに辛いだなんて知らなかった……。

 滑らかだった手が今や擦り傷やマメだらけ。
 艶やかな髪はボサボサで砂や埃にまみれている。

 湯浴みは3日に1度しかない。初めはそれが苦痛で仕方なかったが今はもう慣れた。

 来る日も来る日も同じことの繰り返し……。

 いつまでこんな日が続くんだ……!

 今日も今日とて重い荷物を運んでいると、一人の男が声をかけてきた。

「クリス……? 君、クリスフォードか!?」

「は……? そうだが、誰だ?」

「僕だよ、エドワードだ! ほら、父上が宰相だった……」

「エドワード……? エドか! なんでこんな所にいるんだ!?」

 宰相の子息であるエドワード。
 私と同じ学園に通い、共に過ごした友人だ。
 髪も顔も汚れて草臥れていたためか一瞬誰だか分からなかった。

「なんでって、生活するためだよ。仕事がなけりゃ食べていけないからな」

「食べていけない……? どういうことだ?」

「どういうことって……君、知らないのか? 僕家から追い出されたんだよ。僕達だけじゃない……あの女に傾倒した子息は大体がそうだ」

「あの女って……カサンドラのことか? どうしてカサンドラと親しくしただけでこんな目に合うんだ……?」

 エドワードは深くため息をつくと呆れた目で私を見た。

「君は相変わらず頭に花が咲いているな。ここに来るまでに家の者から散々説明されたんじゃないのか? 王太子殿下の婚約者と不貞を働くような奴、家に置いておけないだろ。おまけにそのせいで婚約破棄もされるようなマヌケだ。何の役にも立たないどころか家門に泥を塗るような人間、追い出されるのは当たり前だ……。まあ、僕も追い出されてからそれを理解したけどね……」

 不貞だって……?
 私はカサンドラと男女の仲になんてなってない!!

「……不貞なんてしていないって顔だな。そんなの僕だってそうだ。だがな、貴族の世界じゃ男女が二人で過ごしただけで不貞とみなされるんだよ。あの女は王太子殿下の婚約者だった。本来なら他の令嬢よりも貞淑に過ごさねばならなかったんだ……。それを気にせず二人きりになった僕達も大概だがな……」

「だけど……たったそれだけでどうして……」

「それだけ、じゃないんだよ。王太子殿下の婚約者と不貞を働くことは王家への反逆とみなされてもおかしくない。そんな危険人物なんてさっさと家から追い出したいと思うのが普通だろう。……僕達はそんな簡単なことも分からないほど、あの女に傾倒していたんだな……」

 自虐的な笑みでエドワードが頭を掻いた。
 彼の取柄だった眩い金の髪はすでにその輝きを失いくすんでいる。

 洗練された貴公子だった彼はもうどこにもいない……。
 
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