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クリスフォードのその後①
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「ふふ……。ねえ、お兄様、今どんなお気持ちかしら? 散々見下していた妹に家督を奪われるのはどんな気分? 聞かせてくださいな、ほらほら!」
こちらを見下ろし愉快そうに嗤う女に殺意がこみ上げる。
五月蠅い、黙れ、と叫びたいのに口を塞がれているためこうして睨みつけることしか出来ない。
どうしてこうなった?
視界に入ることすら煩わしかったこの女……血を分けた実妹に、私が座るはずだった当主の椅子を奪われたのは何故だ!
「あら、まーだそんな目をする元気があるなんてね……! レオナ様に復縁を迫ってもすげなく断られ、家から籍を抜かれてもまだお元気だなんて羨ましいかぎりだわ! そんなお兄様なら何処へ行っても大丈夫でしょうね?」
この女……!
由緒正しきロバス家の子息である私をあんな場所へ送るなんて……!
「うーん、黙らせている相手と話すのもつまらないわね? いいわ、口枷を外して頂戴」
妹がそう命じると我が家の騎士が私の口を閉ざしていた枷を外す。
今までは私の命令に従っていた騎士達はいまや妹の手先だ。
彼等は皆一様に蔑んだ目をこちらに向けている。
どいつもこいつも不忠者ばかりだ!
この家の主人に相応しいのは私だということを分からないのか!?
「このっ……愚妹が! 調子に乗るなよ!!」
「まあ! ひねりがなくてつまらない罵倒ね? 流石はお兄様ですこと」
お前程度の知能ではありふれたつまらない罵倒しか吐けぬのだろう、と暗に馬鹿にしているのか……!
「ふん、お前こそ自分の頭脳によほどの自信があるようだな? 女だてらに学園入学するような頭でっかちでは男に好かれぬぞ? お前のような可愛げのない女に婿入りするような物好きが果たして存在するだろうか……!」
「……それって、お兄様がオナモミのようにくっついていたスピナー公爵令嬢もそうじゃないですか。彼女も学園に通っていたし、女の身で事業を手掛けていたと聞きましたけど? なら彼女も可愛げのない女ですね」
「だからカサンドラとはそういう関係じゃない! カサンドラとはそう……友人だ! 友人に対して可愛げのない女だと思うはずもないだろう!?」
「二人きりでお茶会をする関係が友人? 第三者から見れば恋仲にしか思えませんよ。少なくとも婚約者よりも友人を優先するのは相手への誠意がない行為です」
「お前は何を言ってるんだ!? レオナよりもカサンドラの方が身分が高いんだぞ! 身分が高い者を優先するのは当然のことだろう?」
貴族であるのなら身分が高い方が優先される。
この愚妹はそんな簡単なことも分からないのか!?
そんなことも分からないくせに栄えあるロバス家の当主になるつもりなのか!
「ふうん、そうですか。ならこの国で陛下の次に身分が高く、尊き御身である王太子殿下を優先なさっていないのはどうしてです?」
「は……? どうしてそこで殿下が出てくるんだ? 優先するも何も、私は殿下にお会いしたこともないんだぞ?」
妹は蔑んだ視線をこちらに向け、大きなため息をついた。
それはまるで『お前は何にも分かっていない』と馬鹿にされているようで頭にくる。
「スピナー公爵令嬢は“王太子殿下の婚約者”だったのですよ? そんな彼女と間違った距離感で接することは、殿下に対する不敬です。乱暴な言い方をすれば『王太子殿下の婚約者を奪ってやった』と公言しているも同然。世間ではお兄様のことを不忠者と嘲笑っておりますわ」
「なっ……不忠者だと!? 私が……? 馬鹿な……!!」
「ええ、馬鹿なことをなさいましたね。身分が上の者を優先する、と言いますけどお兄様のそれは相手の立場がどのようなものかを全く考えずに阿呆みたいに媚びを売っているだけですわよ」
「はあぁ!? お前……どこまで私を侮辱するつもりだ!」
「侮辱なさっていたのはお兄様じゃありませんか? スピナー公爵令嬢を優先することで婚約者のレオナ様を侮辱し、ひいては王太子殿下までをも侮辱なさった。その結果がこれですよ。廃嫡のうえ強制労働行き。しかも家は醜聞に塗れ、傾く寸前。それでもご自分の行動は正しいと言えますの?」
「う……うるさい! うるさい! だいたいレオナが悪いんだ……私の妻になれるだけでも幸運なのに、カサンドラのことでみっともなく騒ぎ立てるから……」
「みっともないのはお兄様ですよ。だいたい何ですその“私の妻になれるだけで幸運”というのは? どれだけ上から目線ですの?」
「上から目線なんじゃない! 私が上なのは当然なんだ! お前もレオナもそんな簡単なことも分からないなんて頭が悪いとしか言いようがない!」
「ああ、お兄様は頭も悪いし性根も悪いんですね? レオナ様はこんな傲慢で相手の気持ちも考えられない人に嫁がなくて正解でしたわ」
「はあ!? ふざけるな! お前はどれだけ私を愚弄する気だ!」
「許されるならいつまでも。存外、幼い頃の恨みって消えないものですよね……」
深淵を思わせるほど昏い目で見てくる妹に喉がヒュッと鳴った。
何だ?
実の兄に向けるような目じゃないぞ……。
どうしてそんな長年の恨みを募らせたような目で私を見るんだ……?
こちらを見下ろし愉快そうに嗤う女に殺意がこみ上げる。
五月蠅い、黙れ、と叫びたいのに口を塞がれているためこうして睨みつけることしか出来ない。
どうしてこうなった?
視界に入ることすら煩わしかったこの女……血を分けた実妹に、私が座るはずだった当主の椅子を奪われたのは何故だ!
「あら、まーだそんな目をする元気があるなんてね……! レオナ様に復縁を迫ってもすげなく断られ、家から籍を抜かれてもまだお元気だなんて羨ましいかぎりだわ! そんなお兄様なら何処へ行っても大丈夫でしょうね?」
この女……!
由緒正しきロバス家の子息である私をあんな場所へ送るなんて……!
「うーん、黙らせている相手と話すのもつまらないわね? いいわ、口枷を外して頂戴」
妹がそう命じると我が家の騎士が私の口を閉ざしていた枷を外す。
今までは私の命令に従っていた騎士達はいまや妹の手先だ。
彼等は皆一様に蔑んだ目をこちらに向けている。
どいつもこいつも不忠者ばかりだ!
この家の主人に相応しいのは私だということを分からないのか!?
「このっ……愚妹が! 調子に乗るなよ!!」
「まあ! ひねりがなくてつまらない罵倒ね? 流石はお兄様ですこと」
お前程度の知能ではありふれたつまらない罵倒しか吐けぬのだろう、と暗に馬鹿にしているのか……!
「ふん、お前こそ自分の頭脳によほどの自信があるようだな? 女だてらに学園入学するような頭でっかちでは男に好かれぬぞ? お前のような可愛げのない女に婿入りするような物好きが果たして存在するだろうか……!」
「……それって、お兄様がオナモミのようにくっついていたスピナー公爵令嬢もそうじゃないですか。彼女も学園に通っていたし、女の身で事業を手掛けていたと聞きましたけど? なら彼女も可愛げのない女ですね」
「だからカサンドラとはそういう関係じゃない! カサンドラとはそう……友人だ! 友人に対して可愛げのない女だと思うはずもないだろう!?」
「二人きりでお茶会をする関係が友人? 第三者から見れば恋仲にしか思えませんよ。少なくとも婚約者よりも友人を優先するのは相手への誠意がない行為です」
「お前は何を言ってるんだ!? レオナよりもカサンドラの方が身分が高いんだぞ! 身分が高い者を優先するのは当然のことだろう?」
貴族であるのなら身分が高い方が優先される。
この愚妹はそんな簡単なことも分からないのか!?
そんなことも分からないくせに栄えあるロバス家の当主になるつもりなのか!
「ふうん、そうですか。ならこの国で陛下の次に身分が高く、尊き御身である王太子殿下を優先なさっていないのはどうしてです?」
「は……? どうしてそこで殿下が出てくるんだ? 優先するも何も、私は殿下にお会いしたこともないんだぞ?」
妹は蔑んだ視線をこちらに向け、大きなため息をついた。
それはまるで『お前は何にも分かっていない』と馬鹿にされているようで頭にくる。
「スピナー公爵令嬢は“王太子殿下の婚約者”だったのですよ? そんな彼女と間違った距離感で接することは、殿下に対する不敬です。乱暴な言い方をすれば『王太子殿下の婚約者を奪ってやった』と公言しているも同然。世間ではお兄様のことを不忠者と嘲笑っておりますわ」
「なっ……不忠者だと!? 私が……? 馬鹿な……!!」
「ええ、馬鹿なことをなさいましたね。身分が上の者を優先する、と言いますけどお兄様のそれは相手の立場がどのようなものかを全く考えずに阿呆みたいに媚びを売っているだけですわよ」
「はあぁ!? お前……どこまで私を侮辱するつもりだ!」
「侮辱なさっていたのはお兄様じゃありませんか? スピナー公爵令嬢を優先することで婚約者のレオナ様を侮辱し、ひいては王太子殿下までをも侮辱なさった。その結果がこれですよ。廃嫡のうえ強制労働行き。しかも家は醜聞に塗れ、傾く寸前。それでもご自分の行動は正しいと言えますの?」
「う……うるさい! うるさい! だいたいレオナが悪いんだ……私の妻になれるだけでも幸運なのに、カサンドラのことでみっともなく騒ぎ立てるから……」
「みっともないのはお兄様ですよ。だいたい何ですその“私の妻になれるだけで幸運”というのは? どれだけ上から目線ですの?」
「上から目線なんじゃない! 私が上なのは当然なんだ! お前もレオナもそんな簡単なことも分からないなんて頭が悪いとしか言いようがない!」
「ああ、お兄様は頭も悪いし性根も悪いんですね? レオナ様はこんな傲慢で相手の気持ちも考えられない人に嫁がなくて正解でしたわ」
「はあ!? ふざけるな! お前はどれだけ私を愚弄する気だ!」
「許されるならいつまでも。存外、幼い頃の恨みって消えないものですよね……」
深淵を思わせるほど昏い目で見てくる妹に喉がヒュッと鳴った。
何だ?
実の兄に向けるような目じゃないぞ……。
どうしてそんな長年の恨みを募らせたような目で私を見るんだ……?
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