貴方といると、お茶が不味い

わらびもち

文字の大きさ
上 下
33 / 49

スピナー家の謝罪①

しおりを挟む
 あのお茶会から数日後、私は王宮にある謁見の間でアルフォンス様の隣に立っていた。

 目の前で跪くのは若きスピナー公爵とその妹のカサンドラ・スピナー。
 公爵は神妙な様子であるのに、スピナー公爵令嬢は不思議そうな顔をしていた。

「王太子殿下、並びにご婚約者のミンティ侯爵令嬢にご挨拶申し上げます。この度は私共の謁見の申し出をお受け下さり、誠に感謝の念にたえませぬ」

 身分は私よりも公爵の方が上にも関わらず、まるで格上に対するような礼だ。
 それだけこの謁見に賭けているのだと伝わってくる。

 ここで殿下と私が謝罪を受け入れたなら、スピナー公爵家は王太子と未来の王太子妃に許されたことになる。
 公爵は何がなんでも謝罪を受けて貰おうとしているのが手に取るように分かった。

「よい、顔をあげよ。回りくどいのは好かぬのでな。早々に用件を述べるがよい」

 こんな突き放した態度をとるアルフォンス様は初めて目にする。
 彼にとってはそれだけ思う所があるのだろう。

「あ……ありがとうございます、殿下「え? なんでレオナさんが殿下の隣?」カサンドラ! 殿下の許可も得ずに発言するとは何事だ!?」
 
 王族の方を前にして許可なく発言することが不敬であると理解していないのだろうか?

 貴族なら誰でもまず初めに習うことなのに。
 なぜ公爵家という高位の身分を持ちながら礼儀を弁えていないのか不思議で仕方ない。

「で、殿下……愚妹が無礼を働き申し訳ございません……」

「……本当にな。公式に発表した私の婚約者の存在を知らぬとは……」

「申し訳ございません……。妹は邸に閉じ込めていた故、外の情報に疎く……」

「家の者は誰も教えなかったということか? 呆れたな……。それで? 謝罪をするのだったか? なら早くしたらどうだ?」

 冷めた声音でアルフォンス様がそう促すと、公爵は妹に視線を送った。
 それは「謝罪しろ」という意味合いの視線だろうが、当の本人はそれが分からずキョトンとしている。

「謝罪? 悪いのは殿下でしょう? 何故わたくしが謝らなければならないの?」

 あまりの物言いに彼女以外の者は皆唖然としてしまった。

 今彼女はアルフォンス様が悪いと言ったが、彼のどこがそうだと言うのか。

「カサンドラ!! お前は何を言っているんだ!?」

「だってお兄様、殿下はアイリスを妃にするつもりなのよ? わたくしとの婚約を破棄したのもそれが理由なのでしょう?」

 ここまで頭がおかしかったとは……。

 おそらくこの場にいる者は皆そう思ったことだろう。
 よりにもよって王太子殿下に言いがかりをつけるなんて正気を疑うし、その理由も意味が分からない。ここでどうしてアイリスの名が出てくるのだろう。

「なにを馬鹿なことを言ってるんだ!! お前が婚約破棄されたのは婚約者の責務を果たさなかったことと、不特定多数の異性と親しくしたこと、そして複数の貴族間の婚約を壊したことだと説明しただろう!? 全部お前が悪いんだ! それは殿下のせいにするとは何事だ!!」

「え……だって、殿下はどうせ将来わたくしとの婚約を破棄するのよ? 他所の女と不貞を働き、わたくしを断罪した挙句にその女を妃にするような男とどうして交流しなくちゃいけないの? それに不特定多数の異性と親しくしたと言うけど、それはわたくしが生き延びるために仕方のないことなの。それで婚約が壊れたと言われても……それってわたくしのせいなのかしら? 元々仲が悪かったんじゃなくて?」

 あまりにも自分勝手な発言に公爵は妹を叱ることも忘れてその場で固まってしまう。

 私とアルフォンス様はというと、冷めた顔で彼等を見るしかできなかった。
 こんな異次元な理解力の持ち主と話し合うことなど無理なのではないか、と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

君に愛は囁けない

しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。 彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。 愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。 けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。 セシルも彼に愛を囁けない。 だから、セシルは決めた。 ***** ※ゆるゆる設定 ※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。 ※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

愛せないですか。それなら別れましょう

黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」  婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。  バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。  そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。  王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。 「愛せないですか。それなら別れましょう」  この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

処理中です...