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私に会いたい人
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「ところでレオナ、元ロバス子息が君に会いに来たんだって?」
「まあ! それをどちらでお知りになったのですか?」
「ええっと……それは、風の噂で……」
目を泳がせる彼にハッと気付いた。
「アルフォンス様……。わたくしの周辺に王家の“影”をつけましたね?」
王家の“影”とは文字通り影から対象を警護する役割を担う者。
同時に監視の役割も持つので、対象が何をしたかを主人に報告する義務も持つ。
「レ、レオナ……。 “影”なんてどこで知って……」
「王妃教育で習いましたの。監視の役割を持つ影が、どうしてわたくしについているのかしら……?」
ジッと見つめるとバツの悪そうな顔でアルフォンス様が口を開いた。
「ごめん……。レオナが心配で……」
「心配してくださるのは嬉しいですけども……。わたくしの知らぬ内に行動が把握されているのは嫌ですわ。止めてくださいまし」
「う……分かった、ごめん」
項垂れた彼は男なのにどこか可愛い。
その姿に思わず絆されてしまいそうだが、それは駄目だ。
監視は許すべきでない。
「……ということは、その時の様子も“影”から聞いているのでは?」
「うう……はい、聞いてます。レオナが華麗に追い払ったと……」
これは褒められているのだろうか?
「こちらの言いたいことだけ言って追い返しただけですわよ。結局謝罪も引き出せませんでしたし……」
そういえばあの人は一度も謝罪をしていない。
別に期待もしていなかったが、あれだけのことをして一度も謝らないとはどういう神経をしているのだろう。つくづく相容れない存在だった。
「いや“影”の報告だとレオナは感情的にもならずに常に冷静で、相手のペースに呑まれることもなかったと聞いている。素晴らしいよ、妃とは泰然であるべきだもの。流石は私の最愛だ!」
「まあ……いやですわ、アルフォンス様ったら……」
こんな簡単な愛の言葉で絆されてしまうのだから単純だ。
惚れた弱み、と言うがまさにそう。
何でも許してしまいそうなくらい彼が愛しい。
「母上も君を褒めていたよ。王妃教育も難なくこなすし、とても優秀だと」
「ふふ……嬉しいです」
覚えることの多い王妃教育だが、彼の妻になれると思うと不思議と苦痛は感じない。
愛する人から愛を囁かれ、生涯を共にする喜びの方が勝る。
「それにロバス家の嫡女と交流を深めたことも褒めていた。それによって次代のロバス家は未来の王太子妃と何のわだかまりもない、と社交界に示したからね。なにせロバス家の嫡女はそれまで存在すら認知されておらず、こちらの社交界に人脈すらない。その状態で当主の座に就くのは至難の業だろう。王太子妃となるレオナと親密であるということは彼女の武器になるからね」
「ええ、エリナ様は聡明で器の広い御方ですの。それにわたくし達、とても気が合いますから」
今ではすっかり定期的に手紙を交わし合うほどの仲だ。
彼女がこちらに帰国し、直接話せる日が待ち遠してく仕方ない。
「ロバス家はこれで名誉が回復されたも同然だ。だが……同じ公爵家のスピナー家は名声もすっかり地に落ちてね」
「ああ、それは聞いております。新当主が婚約者に逃げられたほどに深刻だと……」
「そうなんだよ。おまけに方々に慰謝料を請求されているからすっかり借金まみれになったとか。そんな家に嫁ぎたい令嬢がいるわけないしね。まあそれで……悪あがきとも言うべきかな。ロバス家の話を聞いたスピナー公爵が謁見を申し出てきた。私と、君にね」
「え!? わたくしもですか?」
「うん、レオナは未来の王太子妃だからね。君の元婚約者を奪ったという愚行はこのうえない瑕疵だ。そこで公式に謝罪することで、スピナー家と未来の王太子妃は和解したと周囲に知らしめれば名声もちょっとは回復するんじゃないか、という考えだろう」
「それは……謝罪なさるのは御当主ですか?」
「いや、当主とスピナー公爵令嬢だ。今回の騒動を引き起こした当人に謝らせると言っていた」
「謝らせるということは、スピナー公爵令嬢の意思ではないということですよね……」
「うん、私もそう思う。断ってもいいんだけど……これ以上スピナー公爵家の権威が落ちるのは避けたいというのが陛下の意向でね」
「うーん……それじゃ断れないですね。分かりました、会いましょう」
「ごめんね……ありがとうレオナ。もし怖いなら当日は私の後ろに隠れてもいいからね?」
「子供じゃないんですからそんなことしません! それに、スピナー公爵令嬢には聞きたいこともありますし……」
あの人は私のことを自分の“友人”だと言っていた。
だがそんな事実はない。初対面が私の婚約者の腕を掴んで現れた時なのに、それでどうして友人などと言えるのか、それが分からない。
それにアイリスのことを“ヒロイン”と呼び、悪し様に罵ったこともそうだ。
あんな奇怪な人と直接話すのは怖ろしくもあるが、どうしてもこれだけは気になって仕方ないのだ。
「そうか……。彼女に聞きたいことなら私にもあるな……」
アルフォンス様はそう呟いてどこか遠い目を向けた。
「まあ! それをどちらでお知りになったのですか?」
「ええっと……それは、風の噂で……」
目を泳がせる彼にハッと気付いた。
「アルフォンス様……。わたくしの周辺に王家の“影”をつけましたね?」
王家の“影”とは文字通り影から対象を警護する役割を担う者。
同時に監視の役割も持つので、対象が何をしたかを主人に報告する義務も持つ。
「レ、レオナ……。 “影”なんてどこで知って……」
「王妃教育で習いましたの。監視の役割を持つ影が、どうしてわたくしについているのかしら……?」
ジッと見つめるとバツの悪そうな顔でアルフォンス様が口を開いた。
「ごめん……。レオナが心配で……」
「心配してくださるのは嬉しいですけども……。わたくしの知らぬ内に行動が把握されているのは嫌ですわ。止めてくださいまし」
「う……分かった、ごめん」
項垂れた彼は男なのにどこか可愛い。
その姿に思わず絆されてしまいそうだが、それは駄目だ。
監視は許すべきでない。
「……ということは、その時の様子も“影”から聞いているのでは?」
「うう……はい、聞いてます。レオナが華麗に追い払ったと……」
これは褒められているのだろうか?
「こちらの言いたいことだけ言って追い返しただけですわよ。結局謝罪も引き出せませんでしたし……」
そういえばあの人は一度も謝罪をしていない。
別に期待もしていなかったが、あれだけのことをして一度も謝らないとはどういう神経をしているのだろう。つくづく相容れない存在だった。
「いや“影”の報告だとレオナは感情的にもならずに常に冷静で、相手のペースに呑まれることもなかったと聞いている。素晴らしいよ、妃とは泰然であるべきだもの。流石は私の最愛だ!」
「まあ……いやですわ、アルフォンス様ったら……」
こんな簡単な愛の言葉で絆されてしまうのだから単純だ。
惚れた弱み、と言うがまさにそう。
何でも許してしまいそうなくらい彼が愛しい。
「母上も君を褒めていたよ。王妃教育も難なくこなすし、とても優秀だと」
「ふふ……嬉しいです」
覚えることの多い王妃教育だが、彼の妻になれると思うと不思議と苦痛は感じない。
愛する人から愛を囁かれ、生涯を共にする喜びの方が勝る。
「それにロバス家の嫡女と交流を深めたことも褒めていた。それによって次代のロバス家は未来の王太子妃と何のわだかまりもない、と社交界に示したからね。なにせロバス家の嫡女はそれまで存在すら認知されておらず、こちらの社交界に人脈すらない。その状態で当主の座に就くのは至難の業だろう。王太子妃となるレオナと親密であるということは彼女の武器になるからね」
「ええ、エリナ様は聡明で器の広い御方ですの。それにわたくし達、とても気が合いますから」
今ではすっかり定期的に手紙を交わし合うほどの仲だ。
彼女がこちらに帰国し、直接話せる日が待ち遠してく仕方ない。
「ロバス家はこれで名誉が回復されたも同然だ。だが……同じ公爵家のスピナー家は名声もすっかり地に落ちてね」
「ああ、それは聞いております。新当主が婚約者に逃げられたほどに深刻だと……」
「そうなんだよ。おまけに方々に慰謝料を請求されているからすっかり借金まみれになったとか。そんな家に嫁ぎたい令嬢がいるわけないしね。まあそれで……悪あがきとも言うべきかな。ロバス家の話を聞いたスピナー公爵が謁見を申し出てきた。私と、君にね」
「え!? わたくしもですか?」
「うん、レオナは未来の王太子妃だからね。君の元婚約者を奪ったという愚行はこのうえない瑕疵だ。そこで公式に謝罪することで、スピナー家と未来の王太子妃は和解したと周囲に知らしめれば名声もちょっとは回復するんじゃないか、という考えだろう」
「それは……謝罪なさるのは御当主ですか?」
「いや、当主とスピナー公爵令嬢だ。今回の騒動を引き起こした当人に謝らせると言っていた」
「謝らせるということは、スピナー公爵令嬢の意思ではないということですよね……」
「うん、私もそう思う。断ってもいいんだけど……これ以上スピナー公爵家の権威が落ちるのは避けたいというのが陛下の意向でね」
「うーん……それじゃ断れないですね。分かりました、会いましょう」
「ごめんね……ありがとうレオナ。もし怖いなら当日は私の後ろに隠れてもいいからね?」
「子供じゃないんですからそんなことしません! それに、スピナー公爵令嬢には聞きたいこともありますし……」
あの人は私のことを自分の“友人”だと言っていた。
だがそんな事実はない。初対面が私の婚約者の腕を掴んで現れた時なのに、それでどうして友人などと言えるのか、それが分からない。
それにアイリスのことを“ヒロイン”と呼び、悪し様に罵ったこともそうだ。
あんな奇怪な人と直接話すのは怖ろしくもあるが、どうしてもこれだけは気になって仕方ないのだ。
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アルフォンス様はそう呟いてどこか遠い目を向けた。
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