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婚約者とのお茶会
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色とりどりの花に囲まれた王宮の庭園。
今日はその美しい景色を楽しみつつお茶を楽しんでいる。
新たな婚約者、アルフォンス様と二人で。
「レオナ、どのお菓子が食べたい?」
「そうですね……では、そちらのフィナンシェをお願いします」
テーブルの上には様々なお菓子が並んでいる。
華やかな飾りのクリームたっぷりのケーキやタルト、綺麗な焼き色のフィナンシェやクッキー。
どれも美味しそうで迷ってしまう。
「それじゃ食べさせてあげよう。はい、アーンして?」
「ええ!? い、いえ……自分で食べられますので」
「ああ、この距離じゃ食べにくいんだね? それじゃこうして……」
「やっ、ちょっと殿下!」
アルフォンス様はいきなり私を抱き上げて自分の膝の上に座らせた。
「殿下! わたくしはもう幼い子供ではありません! 子供扱いは止めてくださいませ!」
「何を言う? レオナが子供ではないことなど分かっているよ」
「では何故このような幼子にするような真似をなさるのですか!」
そう抗議するとアルフォンス様は蠱惑的な笑みを浮かべ、私の耳元で囁いた。
「レオナは知らない? これは愛し合う男女の戯れだよ」
「え? そうなのですか……?」
「そうだよ。君を大人の女性として見てるからこうして触れ合いたいんだ。愛する人に触れたいと思うのは当然だろう?」
「まあ、殿下……嬉しいです」
恥ずかしいが、アルフォンス様が触れてくれるのはとても嬉しい。
「はい、口を開けて。もう一度、こうやってレオナに私の手で食べさせたいと願ってたんだ」
確かに何も知らない幼い自分はこうやってアルフォンス様の手でお菓子を食べさせてもらっていた。
もうそれを恥ずかしいと知る今の私がやるのは抵抗がある。
だけど最愛の人に懇願されて断れるはずがない。
私は大人しく口を開き、アルフォンス様の手でフィナンシェを食べさせてもらった。
「レオナ、美味しい?」
「はい、とても美味しいです……」
青い瞳を輝かせてこちらを見つめるアルフォンス様。
そのご尊顔は眩しすぎて直視できず、思わず目を逸らしてしまった。
「はあ……幸せだな。こうしてまたレオナと過ごせるなんて夢のようだ……」
うっとりした声で呟き、アルフォンス様はそのまま私を抱き締める。
愛しい人の温もりと逞しい腕に胸が熱くなり、心臓が早鐘を打つ。
こうして恋い慕う人と過ごす時間は夢のようで、時折本当に夢なんじゃないかとさえ思ってしまう。
「殿下……いえ、アルフォンス様、わたくしも幸せです。ですが恥ずかしいので人前では控えてくださると嬉しいのですが……」
「人前? 大丈夫だよ、王宮の使用人達は皆優秀だから空気を読んですぐに下がってくれるから。ほら、誰も周りにいないだろう?」
周囲を見渡すと先ほどまでいた女官や護衛がいない。
いつの間に去ったのか、物音一つしなかった。
「え……? いつのまに……!?」
「私が君に菓子を取り分けた辺りだな。甘い空気を察知し、速やかに下がってくれた」
「そんなに早く!? 王宮の使用人優秀過ぎでは……?」
「はは、そうだな。それに皆嬉しいんだと思うよ。レオナが私の婚約者になったことが」
「え? そうなのですか……?」
何故私が婚約者になったことで使用人達が喜ぶのだろうか?
こう言ってはなんだが、王太子の婚約者が誰になろうと使用人にはそこまで影響はないのではないか。
それがよほど酷い人物でなければ。
「スピナー公爵令嬢が私を避けていたことを皆知っているからね。仕える主が蔑ろにされていれば使用人達は面白くないだろう?」
「ああ……確かに。アルフォンス様との交流を一切拒否なさっていたのでしたか?」
スピナー公爵令嬢はその“よほど酷い人物”だった。
婚約者の務めを一切果たさないような人物が未来の王妃になる、というのは使用人の立場でも面白くないだろう。
「レオナが婚約者に内定した日は城中がお祭り騒ぎだった。あの日は下働きに至るまで酒とご馳走が振る舞われ、賑やかだったな」
「そんなことがあったのですか!?」
婚約者が変わったくらいで祝杯をあげるなんて、皆よほど腹に据えかねていたんだな。
歓迎されているのは嬉しいけど、それ以上に驚きの方が強い。
「うん。今日もほら、君が来るから料理人達が張り切って菓子を作ってくれた。通常の茶会でもここまでは出ないよ」
「確かに……沢山並べられているので驚きました」
テーブルに所狭しと並べられたお菓子は茶会で提供されるよりも量が多い。
それだけ歓迎されているのだなと思うと胸が熱くなる。
「それで気付いたのだけど、レオナはクリームケーキよりも素朴な焼き菓子が好きなんだね?」
「はい、クリームも嫌いではありませんが、どちらかといえばこういうお菓子の方が好きです」
「なら、次からはそういう菓子を多めに用意しよう。ふふ、また一つレオナの事を知れて嬉しいよ」
「まあ……アルフォンス様……」
愛しい彼が私のことを知ろうとしてくれることが嬉しい。
それにとても新鮮に感じる。前の婚約者は私に一切興味を示さなかったから。
今日はその美しい景色を楽しみつつお茶を楽しんでいる。
新たな婚約者、アルフォンス様と二人で。
「レオナ、どのお菓子が食べたい?」
「そうですね……では、そちらのフィナンシェをお願いします」
テーブルの上には様々なお菓子が並んでいる。
華やかな飾りのクリームたっぷりのケーキやタルト、綺麗な焼き色のフィナンシェやクッキー。
どれも美味しそうで迷ってしまう。
「それじゃ食べさせてあげよう。はい、アーンして?」
「ええ!? い、いえ……自分で食べられますので」
「ああ、この距離じゃ食べにくいんだね? それじゃこうして……」
「やっ、ちょっと殿下!」
アルフォンス様はいきなり私を抱き上げて自分の膝の上に座らせた。
「殿下! わたくしはもう幼い子供ではありません! 子供扱いは止めてくださいませ!」
「何を言う? レオナが子供ではないことなど分かっているよ」
「では何故このような幼子にするような真似をなさるのですか!」
そう抗議するとアルフォンス様は蠱惑的な笑みを浮かべ、私の耳元で囁いた。
「レオナは知らない? これは愛し合う男女の戯れだよ」
「え? そうなのですか……?」
「そうだよ。君を大人の女性として見てるからこうして触れ合いたいんだ。愛する人に触れたいと思うのは当然だろう?」
「まあ、殿下……嬉しいです」
恥ずかしいが、アルフォンス様が触れてくれるのはとても嬉しい。
「はい、口を開けて。もう一度、こうやってレオナに私の手で食べさせたいと願ってたんだ」
確かに何も知らない幼い自分はこうやってアルフォンス様の手でお菓子を食べさせてもらっていた。
もうそれを恥ずかしいと知る今の私がやるのは抵抗がある。
だけど最愛の人に懇願されて断れるはずがない。
私は大人しく口を開き、アルフォンス様の手でフィナンシェを食べさせてもらった。
「レオナ、美味しい?」
「はい、とても美味しいです……」
青い瞳を輝かせてこちらを見つめるアルフォンス様。
そのご尊顔は眩しすぎて直視できず、思わず目を逸らしてしまった。
「はあ……幸せだな。こうしてまたレオナと過ごせるなんて夢のようだ……」
うっとりした声で呟き、アルフォンス様はそのまま私を抱き締める。
愛しい人の温もりと逞しい腕に胸が熱くなり、心臓が早鐘を打つ。
こうして恋い慕う人と過ごす時間は夢のようで、時折本当に夢なんじゃないかとさえ思ってしまう。
「殿下……いえ、アルフォンス様、わたくしも幸せです。ですが恥ずかしいので人前では控えてくださると嬉しいのですが……」
「人前? 大丈夫だよ、王宮の使用人達は皆優秀だから空気を読んですぐに下がってくれるから。ほら、誰も周りにいないだろう?」
周囲を見渡すと先ほどまでいた女官や護衛がいない。
いつの間に去ったのか、物音一つしなかった。
「え……? いつのまに……!?」
「私が君に菓子を取り分けた辺りだな。甘い空気を察知し、速やかに下がってくれた」
「そんなに早く!? 王宮の使用人優秀過ぎでは……?」
「はは、そうだな。それに皆嬉しいんだと思うよ。レオナが私の婚約者になったことが」
「え? そうなのですか……?」
何故私が婚約者になったことで使用人達が喜ぶのだろうか?
こう言ってはなんだが、王太子の婚約者が誰になろうと使用人にはそこまで影響はないのではないか。
それがよほど酷い人物でなければ。
「スピナー公爵令嬢が私を避けていたことを皆知っているからね。仕える主が蔑ろにされていれば使用人達は面白くないだろう?」
「ああ……確かに。アルフォンス様との交流を一切拒否なさっていたのでしたか?」
スピナー公爵令嬢はその“よほど酷い人物”だった。
婚約者の務めを一切果たさないような人物が未来の王妃になる、というのは使用人の立場でも面白くないだろう。
「レオナが婚約者に内定した日は城中がお祭り騒ぎだった。あの日は下働きに至るまで酒とご馳走が振る舞われ、賑やかだったな」
「そんなことがあったのですか!?」
婚約者が変わったくらいで祝杯をあげるなんて、皆よほど腹に据えかねていたんだな。
歓迎されているのは嬉しいけど、それ以上に驚きの方が強い。
「うん。今日もほら、君が来るから料理人達が張り切って菓子を作ってくれた。通常の茶会でもここまでは出ないよ」
「確かに……沢山並べられているので驚きました」
テーブルに所狭しと並べられたお菓子は茶会で提供されるよりも量が多い。
それだけ歓迎されているのだなと思うと胸が熱くなる。
「それで気付いたのだけど、レオナはクリームケーキよりも素朴な焼き菓子が好きなんだね?」
「はい、クリームも嫌いではありませんが、どちらかといえばこういうお菓子の方が好きです」
「なら、次からはそういう菓子を多めに用意しよう。ふふ、また一つレオナの事を知れて嬉しいよ」
「まあ……アルフォンス様……」
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