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永遠にさようなら
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「う……そ、そうだな……。分かった……カサンドラのことはもういい……」
「さようでございますか」
あれだけ執着していたくせに、私が少し矛盾点をついたくらいで心変わりをするのか。
ならば婚約していた時に同じことを言えば改心しただろうか、と思ったがすぐにその考えを打ち消した。
彼女にのぼせ上っている状態で言っても聞くはずがない。
それにあのままだとこの人が当主になっていた。
浅慮で視野が狭く、下の者を平気で虐げるようなこの男が。
それよりもエリナ様の方がよほど当主として相応しい器と品格を備えている。
彼女のおかげでロバス家はかろうじて名誉を保っているのだから。
「な、なあ……もう一度私とのことを考え直してくれないか?」
「嫌だと言いましたけど……聞こえておりませんでした?」
「だがっ……! だが、このままでは名誉あるロバス公爵家がなくなってしまう! あいつは恥知らずにも陛下に降爵を願い出て……父上もそれに賛同したんだぞ!? 公爵家が伯爵家になるなんて耐えられない!!」
「ご英断かと思います。爵位が下がることによって借金まみれにならずに済んだのですから」
当家よりも爵位を下にすることによって、提携事業への出費を抑えられたというのに何を言うのか。
名誉も大切だが、当主は家を傾かせないことや領民を守ることも大切だ。
エリナ様はすでに当主としての器を見せているのに、この人は見栄ばかり。
本当に情けなくて小さいと呆れてしまう。
「そんなのどうとでもなるだろう!? 君が嫁げばミンティ家が援助してくれるだろうし……」
「まあ! 結局わたくしにおんぶにだっこ、というわけですね? 妻の生家のお金だけを頼りにするなどなんて情けない!」
「なんだと!? 嫁は婚家に尽くすものだ! 嫁いできた嫁の金を使って何が悪い! 君だって公爵夫人という名誉ある座に就けるのだから構わないだろう!?」
この人は自分がとんでもなく失礼なことを言っている自覚はあるのだろうか……。
嫁いだ家に尽くす、というのは分かる。
だが妻の生家のお金を好きに使っていいなどとは初めて聞いた。
妻の家は夫の家の奴隷ではないのに。
「お断りですわ。わたくし、貴方の妻になることで生じる嫌なことが耐えられませんの」
「は? 何だその嫌なことというのは……? あ、もしかしてカサンドラのことか? それなら大丈夫だ。あの女にはもう会わないと誓う。なんなら誓約書を書いてもいい」
「いいえ、スピナー公爵令嬢はもう関係ありません。わたくしが嫌なのは……貴方といるとお茶が不味く感じることです。これから先、死ぬまで不味いお茶を飲み続けるなど耐えられませんわ」
彼の妻になったら永遠に美味しいお茶が飲めない。
今だってどうせ美味しく飲めないからとお茶を出すのは止めてもらったほどだ。
「はあ!? なんだそのふざけた理由は! そんなの納得できるか!」
唾を飛ばして怒鳴る元婚約者の姿はどこぞの破落戸のよう。
とても貴公子とは思えないほど品が無い。
「納得する必要はありませんので問題ありませんわ。わたくしと貴方は二度と縁を結ばない、それだけです。さあ、お客様がお帰りよ! お見送りしてさしあげて!」
パンと手を叩き、背後にいる護衛騎士に命じる。
すると彼等はすぐにクリスフォード様の両脇に移動し、腕を掴み立たせた。
「やめろ! 離せ無礼者! 私はまだレオナと話が……!」
「わたくしから話すことはもうありません。では、永遠にごきげんよう。市井でもどうぞお元気で」
まだ何かを喚く元婚約者を、力強い護衛騎士達が抱えて外まで運んでいく。
五月蠅い声が聞こえなくなったことを確認し、私はテーブルにあるベルを鳴らした。
「サリー、喉が渇いたからお茶をお願い」
これからはずっと美味しいお茶が楽しめるだろう。
だって、お茶が不味くなる元凶とはもう一生会わないのだから。
「さようでございますか」
あれだけ執着していたくせに、私が少し矛盾点をついたくらいで心変わりをするのか。
ならば婚約していた時に同じことを言えば改心しただろうか、と思ったがすぐにその考えを打ち消した。
彼女にのぼせ上っている状態で言っても聞くはずがない。
それにあのままだとこの人が当主になっていた。
浅慮で視野が狭く、下の者を平気で虐げるようなこの男が。
それよりもエリナ様の方がよほど当主として相応しい器と品格を備えている。
彼女のおかげでロバス家はかろうじて名誉を保っているのだから。
「な、なあ……もう一度私とのことを考え直してくれないか?」
「嫌だと言いましたけど……聞こえておりませんでした?」
「だがっ……! だが、このままでは名誉あるロバス公爵家がなくなってしまう! あいつは恥知らずにも陛下に降爵を願い出て……父上もそれに賛同したんだぞ!? 公爵家が伯爵家になるなんて耐えられない!!」
「ご英断かと思います。爵位が下がることによって借金まみれにならずに済んだのですから」
当家よりも爵位を下にすることによって、提携事業への出費を抑えられたというのに何を言うのか。
名誉も大切だが、当主は家を傾かせないことや領民を守ることも大切だ。
エリナ様はすでに当主としての器を見せているのに、この人は見栄ばかり。
本当に情けなくて小さいと呆れてしまう。
「そんなのどうとでもなるだろう!? 君が嫁げばミンティ家が援助してくれるだろうし……」
「まあ! 結局わたくしにおんぶにだっこ、というわけですね? 妻の生家のお金だけを頼りにするなどなんて情けない!」
「なんだと!? 嫁は婚家に尽くすものだ! 嫁いできた嫁の金を使って何が悪い! 君だって公爵夫人という名誉ある座に就けるのだから構わないだろう!?」
この人は自分がとんでもなく失礼なことを言っている自覚はあるのだろうか……。
嫁いだ家に尽くす、というのは分かる。
だが妻の生家のお金を好きに使っていいなどとは初めて聞いた。
妻の家は夫の家の奴隷ではないのに。
「お断りですわ。わたくし、貴方の妻になることで生じる嫌なことが耐えられませんの」
「は? 何だその嫌なことというのは……? あ、もしかしてカサンドラのことか? それなら大丈夫だ。あの女にはもう会わないと誓う。なんなら誓約書を書いてもいい」
「いいえ、スピナー公爵令嬢はもう関係ありません。わたくしが嫌なのは……貴方といるとお茶が不味く感じることです。これから先、死ぬまで不味いお茶を飲み続けるなど耐えられませんわ」
彼の妻になったら永遠に美味しいお茶が飲めない。
今だってどうせ美味しく飲めないからとお茶を出すのは止めてもらったほどだ。
「はあ!? なんだそのふざけた理由は! そんなの納得できるか!」
唾を飛ばして怒鳴る元婚約者の姿はどこぞの破落戸のよう。
とても貴公子とは思えないほど品が無い。
「納得する必要はありませんので問題ありませんわ。わたくしと貴方は二度と縁を結ばない、それだけです。さあ、お客様がお帰りよ! お見送りしてさしあげて!」
パンと手を叩き、背後にいる護衛騎士に命じる。
すると彼等はすぐにクリスフォード様の両脇に移動し、腕を掴み立たせた。
「やめろ! 離せ無礼者! 私はまだレオナと話が……!」
「わたくしから話すことはもうありません。では、永遠にごきげんよう。市井でもどうぞお元気で」
まだ何かを喚く元婚約者を、力強い護衛騎士達が抱えて外まで運んでいく。
五月蠅い声が聞こえなくなったことを確認し、私はテーブルにあるベルを鳴らした。
「サリー、喉が渇いたからお茶をお願い」
これからはずっと美味しいお茶が楽しめるだろう。
だって、お茶が不味くなる元凶とはもう一生会わないのだから。
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