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クリスフォードの来訪④
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「なるほど、よく分かりました。それでロバス子息はどのようにしてスピナー公爵令嬢に悩みを解決してもらったのです?」
「うん? 私は妹への劣等感をカサンドラに見破られたんだ。それで卑屈になってしまいがちな私を彼女は慰めて励ましてくれた……。『妹がいくら優秀でも跡継ぎは貴方なのよ。彼女はどう転んでも貴方には敵わないの』とな」
先ほどの侯爵子息の話と矛盾してない?
優秀な方が跡継ぎになるべき、という意味合いの台詞を吐いてたのに。
どうしてそう意見がコロコロ変わるのだろう?
「そうですか、そんなことが……。ん……? お待ちになって、どうしてスピナー公爵令嬢は妹君の存在を知っていらしたの?」
「は? どうしてって……そんなの知っていて当然だろう?」
「いいえ、妹君の存在はそれまで社交界では認識されていませんでした。幼少の頃に隣国へと渡った彼女の姿を見た者は少ないようでして、わたくしの両親すらもロバス家に令嬢がいると知らなかったのです。……それに、もし認識されていれば王太子殿下の婚約者候補として挙がっていたはずですわ」
「は……? なら、どうやってカサンドラは私の妹の存在を知ったんだ?」
「さあ……? あ、そういえば彼女はレブンス商会長のこともご存知でしたね。弟がいて、彼がその弟に劣等感を抱いていると仰ってました。まあ後者は当たっておりませんが。でもアイリスが彼の妻だとは知らなかった……。こちらは周知の事実で貴族なら誰もが知っておりますのに」
「なんだ? 何が言いたい……?」
「スピナー公爵令嬢は何故本人以外知りえない情報を持っていて、何故誰もが知っている情報を持ち合わせていないのか、ということです。ロバス子息は妹君のことを誰かに話しましたか?」
「は? 言うわけないだろう? 口に出すのも嫌なのだからかな!」
「ならスピナー公爵令嬢はどうやって妹君のことを知り、貴方が劣等感を抱いていると知ったのでしょう?」
「それは……父上か母上がきっと……」
「いいえ、それは有り得ないかと。幼い娘を自分の家で養育せずに他家に押し付けるなど、社交界に知られたらいい笑い者です。娘一人すら養育できないほど貧しいのかと。現に今、妹君の存在を知った社交界では公爵夫妻は“育児放棄”と白い目で見られていますよ」
エリナ様を隣国の親戚に預けたことはロバス公爵家の醜聞として瞬く間に社交界に広まった。
そして彼女自身に同情が集まり、彼女を支持する者も増えつつある。
「ああ、もう! ごちゃごちゃとうるさいな! いいから私と復縁すると父上に君から話すんだ! 君だって私を愛していただろう!?」
「え? 嫌ですけど。それに貴方を愛していた記憶はこれっぽっちもありませんわ」
「な……なぜだ!? なぜそんな嘘を……」
「嘘じゃありませんけど? むしろどうして愛されていると思っていたのか不思議です」
「いや、だって……私は公爵家の嫡男だったんだぞ!? 女ならば誰だって……」
「ああ、外見と身分だけで好かれると思ってらっしゃったのですね? お生憎様ですけどわたくし、それだけしか持ち合わせていないような殿方に魅力を感じませんの。それにご存じないようですけど、わたくし王太子殿下の婚約者となりましたのよ?」
「は……? 君が殿下の婚約者? 馬鹿な……そんなの務まるわけないだろう!?」
「いや、勝手に決めつけないでくれます? 無関係の、部外者である貴方にそんなこと言う資格はありませんけど?」
「未来の王妃とは、カサンドラくらい優秀で聡明な女性がなるべきだ! 君じゃ無理に決まっているだろう!? 大人しく婚約者を辞退し、私の妻になったほうがいいぞ!」
「まあ、気持ち悪い。絶対に御免ですわ」
「気持ち悪いだと!?」
「ええ、吐き気を催しますね。それと……優秀で聡明と仰いますけど、スピナー公爵令嬢のどの辺がそうなのでしょうか? 殿下を避けるなどの不敬な行為や、婚約者がいる令息と不必要に親しくする行為を鑑みますと、とても優秀で聡明とは思えないんですが?」
「い、いや、それは……そうだが、彼女は学園の成績も良くてだな……」
「……なんと言いますか、その学園に通っているということがもう、未来の王妃として有り得ない行為なんですよ」
「は? どういうことだ?」
「ロバス子息は学園が何のためにあるのか知ってますか? 何を学び、何を成す場所なのかを……」
「は……? 何の、だと……?」
私の言葉に目が点になる彼を見ると、どうやら知らないのだろう。
学園が何をする場所なのかを。
「うん? 私は妹への劣等感をカサンドラに見破られたんだ。それで卑屈になってしまいがちな私を彼女は慰めて励ましてくれた……。『妹がいくら優秀でも跡継ぎは貴方なのよ。彼女はどう転んでも貴方には敵わないの』とな」
先ほどの侯爵子息の話と矛盾してない?
優秀な方が跡継ぎになるべき、という意味合いの台詞を吐いてたのに。
どうしてそう意見がコロコロ変わるのだろう?
「そうですか、そんなことが……。ん……? お待ちになって、どうしてスピナー公爵令嬢は妹君の存在を知っていらしたの?」
「は? どうしてって……そんなの知っていて当然だろう?」
「いいえ、妹君の存在はそれまで社交界では認識されていませんでした。幼少の頃に隣国へと渡った彼女の姿を見た者は少ないようでして、わたくしの両親すらもロバス家に令嬢がいると知らなかったのです。……それに、もし認識されていれば王太子殿下の婚約者候補として挙がっていたはずですわ」
「は……? なら、どうやってカサンドラは私の妹の存在を知ったんだ?」
「さあ……? あ、そういえば彼女はレブンス商会長のこともご存知でしたね。弟がいて、彼がその弟に劣等感を抱いていると仰ってました。まあ後者は当たっておりませんが。でもアイリスが彼の妻だとは知らなかった……。こちらは周知の事実で貴族なら誰もが知っておりますのに」
「なんだ? 何が言いたい……?」
「スピナー公爵令嬢は何故本人以外知りえない情報を持っていて、何故誰もが知っている情報を持ち合わせていないのか、ということです。ロバス子息は妹君のことを誰かに話しましたか?」
「は? 言うわけないだろう? 口に出すのも嫌なのだからかな!」
「ならスピナー公爵令嬢はどうやって妹君のことを知り、貴方が劣等感を抱いていると知ったのでしょう?」
「それは……父上か母上がきっと……」
「いいえ、それは有り得ないかと。幼い娘を自分の家で養育せずに他家に押し付けるなど、社交界に知られたらいい笑い者です。娘一人すら養育できないほど貧しいのかと。現に今、妹君の存在を知った社交界では公爵夫妻は“育児放棄”と白い目で見られていますよ」
エリナ様を隣国の親戚に預けたことはロバス公爵家の醜聞として瞬く間に社交界に広まった。
そして彼女自身に同情が集まり、彼女を支持する者も増えつつある。
「ああ、もう! ごちゃごちゃとうるさいな! いいから私と復縁すると父上に君から話すんだ! 君だって私を愛していただろう!?」
「え? 嫌ですけど。それに貴方を愛していた記憶はこれっぽっちもありませんわ」
「な……なぜだ!? なぜそんな嘘を……」
「嘘じゃありませんけど? むしろどうして愛されていると思っていたのか不思議です」
「いや、だって……私は公爵家の嫡男だったんだぞ!? 女ならば誰だって……」
「ああ、外見と身分だけで好かれると思ってらっしゃったのですね? お生憎様ですけどわたくし、それだけしか持ち合わせていないような殿方に魅力を感じませんの。それにご存じないようですけど、わたくし王太子殿下の婚約者となりましたのよ?」
「は……? 君が殿下の婚約者? 馬鹿な……そんなの務まるわけないだろう!?」
「いや、勝手に決めつけないでくれます? 無関係の、部外者である貴方にそんなこと言う資格はありませんけど?」
「未来の王妃とは、カサンドラくらい優秀で聡明な女性がなるべきだ! 君じゃ無理に決まっているだろう!? 大人しく婚約者を辞退し、私の妻になったほうがいいぞ!」
「まあ、気持ち悪い。絶対に御免ですわ」
「気持ち悪いだと!?」
「ええ、吐き気を催しますね。それと……優秀で聡明と仰いますけど、スピナー公爵令嬢のどの辺がそうなのでしょうか? 殿下を避けるなどの不敬な行為や、婚約者がいる令息と不必要に親しくする行為を鑑みますと、とても優秀で聡明とは思えないんですが?」
「い、いや、それは……そうだが、彼女は学園の成績も良くてだな……」
「……なんと言いますか、その学園に通っているということがもう、未来の王妃として有り得ない行為なんですよ」
「は? どういうことだ?」
「ロバス子息は学園が何のためにあるのか知ってますか? 何を学び、何を成す場所なのかを……」
「は……? 何の、だと……?」
私の言葉に目が点になる彼を見ると、どうやら知らないのだろう。
学園が何をする場所なのかを。
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