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クリスフォードの来訪②
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「え……? 驚かないのか? 公爵家嫡男の私が市井に働きに出るんだぞ?」
「別に驚きませんけど? 婚約を壊し、王太子殿下の婚約者と必要以上に親しくしたような子息には当然の処置かと」
むしろ毒杯を渡さないだけ優しい方だと思う。
貴族間の婚約を壊すという行為はそれだけ罪が重いのだから。
だがそれを理解していないクリスフォード様は顔を赤くして喚きだした。
「何が当然なものか! 私はずっと跡継ぎとして……未来の公爵となるべく育てられたんだぞ!? それが奪われた気持ちが君に分かるものか!」
「はあ……。気持ちは分かりませんけど、道理は分かります。わたくし達の婚約と、王太子殿下の婚約を壊したんですから、その処置は妥当かと」
「それは……いや、違う、私が壊したわけでは……」
「ああ、正確には貴方とスピナー公爵令嬢ですね」
「どうしてそこでカサンドラが出てくるんだ!」
「むしろどうして関係ないと思うんですかね。結局貴方はわたくしに何を求めていらっしゃるの?」
分かってはいたけど話にならない。
エリナ様が言っていた通り、この人は未だに何が悪かったかを理解していない。
こんな視野が狭く常識も弁えていない人が婚約者だったのか、とため息をつきたくなる。
「私が何を求めているのか分からないのか? 君は私のことなど何も分かっていないんだな……!」
「はあ。それは貴方が『私のことはいいだろう』と仰ったからですわ。わたくしは貴方を理解したかったのに、貴方はそれを拒絶した。ですので責められる筋合いはありませんわ」
「は……? 言ったか、そんなこと?」
「ええ、茶会の席ではっきりと。貴方が口にすることといえばスピナー公爵令嬢のことばかり。ご自分のことを話さないばかりか、わたくしのことも知ろうとしない。わたくし達は互いのことを何も知らぬまま縁が切れたのです。なのでこれ以上わたくしに何かを求めるなど、筋違いではありませんこと?」
どう考えても彼は私に何かを求める立場にないというのに、それすらも理解していない。
こんな考え無しの人と夫婦にならなくてよかったとつくづく思う。
「そんな冷たいことを言わないでくれ、レオナ! なあ、頼む……私とやり直してくれ。君さえ頷いてくれたら私も跡継ぎの座に戻れるんだ!」
「あらまあ、跡継ぎの座でしたら妹君が座りますのでご心配されずともよろしいんじゃなくて?」
「馬鹿なことを言うな! 女が当主だなんてなれるわけないだろう!?」
「いいえ、我が国では女性が当主になることを認めておりますのよ? それに妹君は聡明で器の大きい方ですわ。きっと立派な当主となりますよ」
エリナ様を褒めると分かりやすくクリスフォード様の顔が赤く染まり、目を吊り上げる。
その顔を見るに、やはり彼は妹に劣等感を抱いていたようだ。実に分かりやすい。
「あんな生意気で頭でっかちの奴が立派な当主だと! ふざけているのか!」
「いえ、これっぽっちもふざけておりません。むしろ婚約者とのお茶会に部外者を連れてきた貴方の方がふざけておりましてよ」
「はあ!? 昔のことを持ち出すなんて卑怯だぞ!?」
「どの辺が卑怯なのか分かりませんが、いい機会ですので教えてください。なぜ、わたくしとの約束事にスピナー公爵令嬢を招待したのです?」
「だからそれはカサンドラが来たいと言ったからだと教えただろう? いい加減しつこいぞ!」
「スピナー公爵令嬢が来たいと仰ったですって……?」
婚約者同士のお茶会や外出に参加したいと思うなんて非常識だ。
彼女もクリスフォード様同様に頭がおかしい。
「カサンドラと私は不埒な仲ではないというのに……。君も両親も下衆の勘繰りをして……失礼ではないか!」
「あら? でもロバス子息はスピナー公爵令嬢のことを憎からず思ってらっしゃるのでは? わたくしの目から見てもお二人はとてもお似合いでしたわよ」
頭にお花畑が咲いているところなんか特にお似合いだ。
両者とも婚約を破棄されたのだから、堂々と恋仲にでもなればいいのに。
「別に驚きませんけど? 婚約を壊し、王太子殿下の婚約者と必要以上に親しくしたような子息には当然の処置かと」
むしろ毒杯を渡さないだけ優しい方だと思う。
貴族間の婚約を壊すという行為はそれだけ罪が重いのだから。
だがそれを理解していないクリスフォード様は顔を赤くして喚きだした。
「何が当然なものか! 私はずっと跡継ぎとして……未来の公爵となるべく育てられたんだぞ!? それが奪われた気持ちが君に分かるものか!」
「はあ……。気持ちは分かりませんけど、道理は分かります。わたくし達の婚約と、王太子殿下の婚約を壊したんですから、その処置は妥当かと」
「それは……いや、違う、私が壊したわけでは……」
「ああ、正確には貴方とスピナー公爵令嬢ですね」
「どうしてそこでカサンドラが出てくるんだ!」
「むしろどうして関係ないと思うんですかね。結局貴方はわたくしに何を求めていらっしゃるの?」
分かってはいたけど話にならない。
エリナ様が言っていた通り、この人は未だに何が悪かったかを理解していない。
こんな視野が狭く常識も弁えていない人が婚約者だったのか、とため息をつきたくなる。
「私が何を求めているのか分からないのか? 君は私のことなど何も分かっていないんだな……!」
「はあ。それは貴方が『私のことはいいだろう』と仰ったからですわ。わたくしは貴方を理解したかったのに、貴方はそれを拒絶した。ですので責められる筋合いはありませんわ」
「は……? 言ったか、そんなこと?」
「ええ、茶会の席ではっきりと。貴方が口にすることといえばスピナー公爵令嬢のことばかり。ご自分のことを話さないばかりか、わたくしのことも知ろうとしない。わたくし達は互いのことを何も知らぬまま縁が切れたのです。なのでこれ以上わたくしに何かを求めるなど、筋違いではありませんこと?」
どう考えても彼は私に何かを求める立場にないというのに、それすらも理解していない。
こんな考え無しの人と夫婦にならなくてよかったとつくづく思う。
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エリナ様を褒めると分かりやすくクリスフォード様の顔が赤く染まり、目を吊り上げる。
その顔を見るに、やはり彼は妹に劣等感を抱いていたようだ。実に分かりやすい。
「あんな生意気で頭でっかちの奴が立派な当主だと! ふざけているのか!」
「いえ、これっぽっちもふざけておりません。むしろ婚約者とのお茶会に部外者を連れてきた貴方の方がふざけておりましてよ」
「はあ!? 昔のことを持ち出すなんて卑怯だぞ!?」
「どの辺が卑怯なのか分かりませんが、いい機会ですので教えてください。なぜ、わたくしとの約束事にスピナー公爵令嬢を招待したのです?」
「だからそれはカサンドラが来たいと言ったからだと教えただろう? いい加減しつこいぞ!」
「スピナー公爵令嬢が来たいと仰ったですって……?」
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「あら? でもロバス子息はスピナー公爵令嬢のことを憎からず思ってらっしゃるのでは? わたくしの目から見てもお二人はとてもお似合いでしたわよ」
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