貴方といると、お茶が不味い

わらびもち

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彼女の器

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「頭の悪い連中は私を王太子殿下の婚約者に推薦しようと躍起になっていますけど、悪手もいいところです。当家は持参金すら払えないほど逼迫してるというのに……王家に嫁ぐなんて出来るわけがない。なのに私を公爵令嬢という高位の身分だけを材料に無理矢理殿下の婚約者の座に捩じ込もうとするなぞ愚の骨頂。その行為が殿下の婚約者たるレオナ様とミンティ家に喧嘩を売るものだと理解しないような奴等の想い通りになぞなってたまるものですか……」

 きっぱりとそう言い切る彼女は既に当主としての器を見せていた。

 周囲の甘言に惑わされず、家の為に必要な行動がとれる彼女はまさに当主として相応しい。
 
 もしかするとクリスフォード様は妹の器の大きさに劣等感を抱いていたのかもしれない。

「それに、王太子殿下はレオナ様をそれはもう……大層溺愛されていると聞きます。そんなお二人を引き裂く『悪役令嬢』のような役割など御免ですもの」

「『悪役令嬢』……? それは何かしら?」

「ああ、これは隣国で流行っていた恋愛物語の本に出てきた言葉なんです。愛し合う二人を引き裂く悪役の令嬢のことをそう呼んでおりました」

「まあ、そうなのですね? “悪役”に“令嬢”がつくなんて斬新だわ」

「まあ恋のスパイス役というか、当て馬ですね。だいたいが主人公よりも身分が上の令嬢がその役として使われることが多いからそう呼ぶのかもしれません」

 そのエリナ様の言葉にふとスピナー公爵令嬢が思い浮かんだ。

 私とクリスフォード様の婚約や、他にも数多の婚約を引き裂いた彼女はまさにそう言えるのではないだろうか。

「『悪役令嬢』か……。まるでスピナー公爵令嬢のことみたいだわ」

「ふむ。ですが彼女はどちらかといえば、ただ恥知らずで男好きなだけかと。『悪役令嬢』はプライドは高いけど立派な淑女ですから」

「へえ、そうなのですか? 一度その本を読んでみたいですね」

「私が見立てたものでよろしければいくつか贈らせていただきます」

「嬉しい! 是非お願いします」

 どんな人なのかと神経を尖らせていた自分が馬鹿みたいに思えるほど、エリナ様は器の大きい才女だった。
 
 そしてとりとめのない会話を楽しめるほど、私ととても気が合う。

 帰り際に彼女は一際深く頭を下げ、ロバス家のミンティ家に対する態度を詫びた。

「ミンティ家にはご負担ばかりかけて申し訳ございません。事業の資金も結局はそちら頼みのまま。当家からは僅かばかりの慰謝料しか支払えず、本当に不甲斐ない……」

「いえ、それはもうお気になさらないでください。公爵夫妻からも貴女からも謝罪はして頂きましたし、爵位を下げてくれるということでわたくしも婚約者の座を奪われる心配が無くなりましたもの。これ以上は当家もわたくしも望みませんわ」

「レオナ様……本当にありがとうございます」


 真っ直ぐにこちらを見て話す彼女を好ましいと感じた。


 クリスフォード様との婚約は時間の無駄だったが、こうして彼女と知り合えたことはよかったと思う。
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