貴方といると、お茶が不味い

わらびもち

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エリナ様の事情

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「はい。仰る通り、兄は幼少の頃より私を虐げておりました。それを見かねた両親が私を隣国の親戚の元へと避難させたのです」

「幼い妹を……!? 避難しなければならないほどに……?」

「ええ。ですがそれは悪手でした。両親は私を排除するのではなく、自分より弱い者を平気で虐げるような兄の性根を直すべきだったのですよ。それを放置した結果、貴女を蔑ろにして別の女性を優先させるような屑に成り果てた」

 私はこの時までクリスフォード様が変わってしまったのはスピナー公爵令嬢が原因だと思っていた。でもエリナ様の話を聞く限りだとそれは間違いだと痛感する。

 クリスフォード様が、あの奇怪な行動全てに納得ができる。

 彼にとって、身分が下の私はで、自分より立場が上のスピナー公爵令嬢はだったのだ。

「わたくしも貴女も、あの方のせいで人生が変わってしまったのね……。エリナ様は隣国の学園に入学する予定だったのでしょう? そちらはどうされるの?」

 難関試験にせっかく合格したというのに、当主になるため諦めなければならないのだろうか。
 だとしたら彼女の努力が無駄になってしまう。

「ふふ、ご心配には及びません。父には入学を辞退しろと言われましたけど、それは絶対に拒否しました」

 そう言ってエリナ様は不敵に微笑んだ。
 彼女の聡明さと強かさを現したようなその笑みに不意にドキッとした。

「兄を更生させずに放置し続けたのは両親に責任があります。なのでその責任をとり、私が学園を卒業するまでは当主の座には就かせぬよう父に誓約書を書いてもらいましたの」

「まあ……ふふ、それはよかったです。貴女の努力が無駄にされずにすんで、本当に」

「ええ、それともう一つ。これを承諾しないのなら、私は跡継ぎの座に就かないと約束させたことがありますの」

「あら? それは何ですの?」

「それは、ロバス家を降爵させることです」

 降爵、という言葉に絶句した。
 自らの家を盛り立てたいと思う貴族はいれど、下げたいと願う貴族は滅多にいない。

「なぜ降爵を!? 貴女がそこまで責任を感じなくともよろしいのでは?」

「いえ、責任というよりです。公爵位のままでは家を維持することが出来ず、私の代で爵位を返上するやもしれません。そうならない為に必要な処置なのです」

「ロバス家と維持するため……? それはどういうことです?」

「ええ、理由は二つあります。まず一つは当家とミンティ家の事業提携、こちらはミンティ家の方が資金も労働力も高い比重を占めておりますよね。兄とレオナ様の婚約はこの不公平な部分を補うものでした。……あんな男の妻になることで補えるとは到底思えませんけど。それで兄の愚行により婚約破棄となり、ロバス家は王家より事業に対する資金や労働力をミンティ家よりも多く出すようにとの命令が下りました。当家の方が爵位が上ですので……」

 これは同じようなことを父から説明されている。 
 我が国の事業提携は本来であれば爵位が上の方が負担も大きいのが普通だと。
 だが懐事情が我が家よりも寂しいロバス家に配慮したうえでの婚約だった。
 つくづく我が家にそこまで利益のない婚約だったなと改めて思う。

「正直に言って払うお金も提供できる労働力もありません。なので父を伴い陛下と直接交渉を致しました。そうした結果、身分を伯爵まで下げることでそれを免除するとのお言葉を頂きまして」

「貴女が陛下に直接交渉を!?」

 こんなに年若い少女が国王に直談判を願うなどとは信じられない。
 彼女はどうやら賢いだけでなく、度胸も優れているようだ。

「はい。父では埒が明かないので。そしてもう一つの理由、これはレオナ様の為にもなるかと」

「え? わたくしの為……?」

 ロバス家の爵位が下がることで私にどんな影響が?
 そこまで考えた私はハッとし、ある考えに思い至る。

「もしかして……ロバス家が伯爵位にまで下がれば、王太子殿下の婚約者になる資格が失われるからですか?」

 私の発言にエリナ様は静かに頷いた。
 やはり公爵令嬢である彼女を殿下の婚約者として推す者がいるらしい。

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