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もう離れない

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「レオナ……嬉しいよ! ああ、今一度君をこうしてこの腕に抱く日を何度となく夢に見たことか……」

「ひあっ!? で、殿下……!」

 感極まった殿下がいきなり私を抱きしめた。
 その逞しい体に胸が熱くなり、全身が沸騰してしまいそうに熱い。

「殿下ではなく“アルフォンス”と。君は私の妻となるのだから」

「で、ですが、まだ婚約も交わしておりませんし……。陛下や父が何と言うか……」

「それは全く問題ない。実は、陛下とミンティ侯爵には既に承諾を得ている。特に侯爵からは『レオナが承諾するのなら構わない』と言質もとっているからな」

「ええ!? お、お父様が?」

「ああ、侯爵は今度こそ娘の望む相手に嫁がせたいとも言っていた。だから私は君の気持ちを聞くため母上に協力してもらい、この場を設けた」

「妃殿下に? それは何故……」

婚約者でない令嬢を私の名で呼び出すということは、事実上婚約したと見なされる行いだ。そしてそんな外堀を埋めてしまえば、君は拒否することは出来ない。でもそれじゃ嫌なんだ。きちんと君の意思を聞いたうえで婚約を進めたかった」

「え……? それでは、殿下……いえ、アルフォンス様は、わたくしのためにわざわざお時間を割いてこのような場を設けてくださったのですか? もし、わたくしが断ればどうなさったの……?」

「君の為ならいくらでも時間なんて作れるよ。それと……君が断るのならそれも受け入れるつもりだった。……すごく辛いけどね」

 彼が自分の時間を私に割いてくれたことも、こうして私の意思を尊重してくれることも涙が出るほど嬉しい。
 大切にされ、愛されていると痛いほど分かる。

「嬉しいです……アルフォンス様。貴方にこんなにも大切に想われて、わたくしはこの世の誰よりも果報者ですわ」

「それは私もだ。こんなにも愛らしく美しい初恋の君を手に入れたのだから」

「初恋? アルフォンス様もですか……?」

「”も”ということは、君も私が初恋か? 嬉しいな……」

 柔らかい微笑みはあの頃と同じ。
 大人になってもそれは変わらない。

「レオナ、改めて聞くよ。私の妻になってくれるかい?」

 真っ直ぐに私を見つめる青い瞳。
 その瞳の中に嬉しさで泣きそうな私が映る。

「はい、喜んで……。これからはずっと、貴方様のお傍を離れません」

「ああ、私もだ。これからは生涯君を離さない」

 きつく私を抱きしめる温もりと、芳しい花園の香りに酔いしれる。
 
 この日をきっと生涯忘れない。

 愛しい人と想いが通じ合った今日という日を―――。
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