貴方といると、お茶が不味い

何がしたかったのか

「アイリス、大丈夫？　わたくしの元婚約者がとんだ失礼をしたわ」

「え？　あれお嬢様の婚約者だったんですか！？　あんなヤッバイのが？」

　ああ、第三者の目から見てもクリスフォード様の言動は異常なのか。
　
　何も知らない人からそう評価されると安心する。
　スピナー公爵令嬢と知り合ってからのクリスフォード様はずっとあのような調子だったから、いつしか自分がおかしいのではないかとすら思えてしまった。

　自分はおかしくない、そう改めて思えてよかった。
　思えなかったら、自分がもっと彼を理解できていたならと、無駄な罪悪感に苛まれていたはず。

「ええ、貴女を意味不明な言葉で罵った令嬢に傾倒してすっかりおかしくなってしまってね……」

　もしかしたらスピナー公爵令嬢のせいではなく、元からああだったのかもしれない。
　もうそれを知る術はないし、知りたいとも思わないが。

「お嬢様、彼等がどこの家の者か教えて頂けますか？　正式に商会から取引中止の通知を出しますので」

「ええ、勿論。当家からも抗議の手紙を出すわ。当家が後見を務める商会長の妻アイリスを侮辱されては黙っていられないもの」

　彼等はどうやらネイサンがレブンス商会の長で、アイリスはその商会長の妻だということを知らないようだ。
　国で最も影響力のある大商会の長を敵に回しては彼等の家も終わりだろう。

　愚かな子女のせいで彼等の家は破滅に向かう。
　だが哀れだとは思わない。貴族が子をまともに育てられないのはそれだけで恥なのだから。あの状態の彼等を放置した家に罪がある。

　それにしてもスピナー公爵令嬢はいったい何がしたかったのだろう。

　私の婚約者に手を出し、アイリスを意味不明な言葉で罵倒する。
　それで彼女は何を得るというのだろうか……。
　考えても分からない。