11 / 49
アイリスの店
しおりを挟む
あれからそう日数が経たないうちにクリスフォード様は二度に渡ってスピナー公爵令嬢を邸に招いた。
何故か私を招待した日に被せて。
陛下まで巻き込んで交わした誓約をよくもまあアッサリと破れたものだ。
その無謀さに呆れる。
スピナー公爵令嬢との二度目の逢瀬をわざわざ私の目に晒してくれたので、誓約通り婚約破棄の手続きを父主導のもと進めてもらった。
これでようやく自由の身。
もう目の前で婚約者が別の女性と仲睦まじく戯れている様を見なくて済む。
それがとても嬉しい。
「お嬢様! ようやくあの屑男の阿呆面を見なくて済むんです! 気分を変えて街へ出かけませんか?」
「いいわね。そうだ、久しぶりにアイリスのお店に行こうかしら?」
サリーからの嬉しい提案を私は喜んで受け入れた。
そういえば外出も久しぶりだ。ずっとあの婚約者のことで心を悩ませていたから外に出ることが億劫になっていたから。
悩みが消えると体まで軽くなったように感じる。
弾む気持ちで装いを整え街へと繰り出した。
「ん? アイリスのお店、何だか物々しい雰囲気が漂ってますね?」
「あら、ほんとうね。前来た時よりも警備兵の数が増えてるわ……」
王都の中心街にある店“アイリス”。そこは国で一番繁盛しているといわれる商会のブティックだ。
常ならばそこは出入り口に警備員が一人いるだけだったのに、今日は3人も立っている。
まるで何かを警戒しているかのような物々しさだ。
店の中に入る際にも警備員たちがこちらをジロジロ見てくるので何だか居心地が悪い。
いったい何があったのだろうと顔を見合わせた私達に可憐な声がかかる。
「お嬢様? それにサリーも! お久しぶりです!」
ピンクブロンドの髪を結い上げた可憐な美少女が華やかな笑みを浮かべてこちらに駆け寄ってきた。
彼女の名はアイリス、この店のオーナーだ。
「アイリス、久しぶりね。あら? 何だか元気がないようだけど、どうかしたの?」
「あ……ご心配をおかけして申し訳ございません。実は先日、店に変なお客様が来たものでして……」
「変な客?」
「ええ、そうなんです。店に入って私を見るなり『ああっ! 貴女、ヒロインね!?』と訳の分からない台詞を叫び、ぎゃあぎゃあと騒ぎ初めまして……」
「え? 何その人、気でも触れているのかしら……?」
「ええ、そうとしか思えないほどおかしな人でした。その後も『誰狙いなの!? もしかして逆ハー狙い? なんてふしだらなの!』と訳の分からない言葉で怒り出して……。幸い他のお客様がいなかったからよかったものの、今度また来たら困るということで警備員を増やしたんです」
「危険人物じゃない! 憲兵に突き出してもよかったんじゃないの?」
「ええ、主人に話したらお嬢様と同じことを言ってました。でも、多分……そのお客、王太子殿下の婚約者のご令嬢っぽいんですよね……」
「え? それって……スピナー公爵令嬢のこと……」
そう尋ねようとした瞬間、勢いよく店のドアを開ける音が響く。
思わずそちらを向くと、そこには渦中の人物であり、もう二度とお目にかかりたくなかった黒髪の令嬢が佇んでいた。
何故か私を招待した日に被せて。
陛下まで巻き込んで交わした誓約をよくもまあアッサリと破れたものだ。
その無謀さに呆れる。
スピナー公爵令嬢との二度目の逢瀬をわざわざ私の目に晒してくれたので、誓約通り婚約破棄の手続きを父主導のもと進めてもらった。
これでようやく自由の身。
もう目の前で婚約者が別の女性と仲睦まじく戯れている様を見なくて済む。
それがとても嬉しい。
「お嬢様! ようやくあの屑男の阿呆面を見なくて済むんです! 気分を変えて街へ出かけませんか?」
「いいわね。そうだ、久しぶりにアイリスのお店に行こうかしら?」
サリーからの嬉しい提案を私は喜んで受け入れた。
そういえば外出も久しぶりだ。ずっとあの婚約者のことで心を悩ませていたから外に出ることが億劫になっていたから。
悩みが消えると体まで軽くなったように感じる。
弾む気持ちで装いを整え街へと繰り出した。
「ん? アイリスのお店、何だか物々しい雰囲気が漂ってますね?」
「あら、ほんとうね。前来た時よりも警備兵の数が増えてるわ……」
王都の中心街にある店“アイリス”。そこは国で一番繁盛しているといわれる商会のブティックだ。
常ならばそこは出入り口に警備員が一人いるだけだったのに、今日は3人も立っている。
まるで何かを警戒しているかのような物々しさだ。
店の中に入る際にも警備員たちがこちらをジロジロ見てくるので何だか居心地が悪い。
いったい何があったのだろうと顔を見合わせた私達に可憐な声がかかる。
「お嬢様? それにサリーも! お久しぶりです!」
ピンクブロンドの髪を結い上げた可憐な美少女が華やかな笑みを浮かべてこちらに駆け寄ってきた。
彼女の名はアイリス、この店のオーナーだ。
「アイリス、久しぶりね。あら? 何だか元気がないようだけど、どうかしたの?」
「あ……ご心配をおかけして申し訳ございません。実は先日、店に変なお客様が来たものでして……」
「変な客?」
「ええ、そうなんです。店に入って私を見るなり『ああっ! 貴女、ヒロインね!?』と訳の分からない台詞を叫び、ぎゃあぎゃあと騒ぎ初めまして……」
「え? 何その人、気でも触れているのかしら……?」
「ええ、そうとしか思えないほどおかしな人でした。その後も『誰狙いなの!? もしかして逆ハー狙い? なんてふしだらなの!』と訳の分からない言葉で怒り出して……。幸い他のお客様がいなかったからよかったものの、今度また来たら困るということで警備員を増やしたんです」
「危険人物じゃない! 憲兵に突き出してもよかったんじゃないの?」
「ええ、主人に話したらお嬢様と同じことを言ってました。でも、多分……そのお客、王太子殿下の婚約者のご令嬢っぽいんですよね……」
「え? それって……スピナー公爵令嬢のこと……」
そう尋ねようとした瞬間、勢いよく店のドアを開ける音が響く。
思わずそちらを向くと、そこには渦中の人物であり、もう二度とお目にかかりたくなかった黒髪の令嬢が佇んでいた。
1,012
お気に入りに追加
7,190
あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。


絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し

【完結】どうかその想いが実りますように
おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。
学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。
いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。
貴方のその想いが実りますように……
もう私には願う事しかできないから。
※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗
お読みいただく際ご注意くださいませ。
※完結保証。全10話+番外編1話です。
※番外編2話追加しました。
※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

あなたへの想いを終わりにします
四折 柊
恋愛
シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる