貴方といると、お茶が不味い

わらびもち

文字の大きさ
上 下
7 / 49

エスカレートする婚約者

しおりを挟む
「レオナ、今日はカサンドラ様がいらしてる」

「………………は?」

 定例のお茶会のためにロバス邸を訪れた私を待っていたのは、眩しい笑顔でスピナー公爵令嬢を隣に侍らせた婚約者だった。

「どういうことですの……?」

 言いたいことは山ほどあれど、目の前の光景が衝撃過ぎてそれしか言葉が出てこない。

 婚約者同士の交流を図るお茶会に、何故部外者がいるのか?

 何故、彼女はこうも執拗に自分達の交流に割り込もうとするのか?

 そう言いたいのに、私の前で仲睦まじく寄り添う二人を見ると言葉にならない。

「たまには未来の王妃様と交流を図るのも必要だろう?」

「まあ、クリスったら気が早いわ! まだ婚約者でしかないのよ?」

「婚約者ならばそのまま婚姻するものだろう? なあ、レオナ?」

 この人達は何を言っているのだろう?

 未来の王妃と交流を図る機会とは、わざわざ婚約者同士の交流に合わせねばならないのか。
 それがおかしいことだと、この人達は何故理解しようとしないのだろう。


 ああ、もういいわ……。

 この瞬間、私はクリフォード様に一切の期待をすることを止めた。

 あれほど非常識な行いだと、私や両親、それにロバス公爵夫妻にも説かれたというのにそれを理解せずまた繰り返す。そのこちらへの迷惑など何も考えていない無神経さに嫌気がさしてくる。

 そしてそれはスピナー公爵令嬢も同様だ。
 他人の婚約者と仲睦まじくし、婚約者同士の交流に割って入る無神経で常識のない行動が気持ち悪い。

 こんな人が王太子殿下の婚約者なんて―――。
 そのことに私は一番怒りを覚えた。

 殿下の婚約者という立場なら、未来の国母となるのなら、全ての令嬢の模範になるような淑女であってほしかった。

 この人ならばに相応しいと、そう思わせてほしかった。

 そうでないと……分からなくなる。

「………………大変申し訳ございませんが、体調が優れませんのでこれで失礼させて頂きます」

「は? 今来たばかりじゃないか?」

「ええ、申し訳ございません。ですがどうにも気分が悪くて……このままここにいたら折角のお茶席を台無しにしてしまうかと……」

 ちら、と用意されたテーブルセットを見ると、そこには華やかな薔薇が活けられており、お茶請けには高価なチョコレートが並べられている。

 それだけでこの茶席が誰の為に用意されたかが分かる。
 決して自分の為ではない。彼の一番大切であろう女性の為に。

「む……それはよくないな。分かった、気を付けて帰ってくれ」

「ええ、それでは失礼いたします……」

 私が帰ればこの人はスピナー公爵令嬢と二人きりでお茶を楽しむのだろう。

 ああ、何だかもう全てが馬鹿馬鹿しい。
 
 どうして私の婚約者はこんなにも無神経なのだろうか。
 
 こちらに歩み寄るどころか、会うたび惨めな想いをさせるような人と、この先夫婦になり子を成さねばならないなんて……。

 そこまで考え、不意に背筋に寒気を感じた。
 将来、この人と閨を共にせねばならないことを想像して怖気が走る。

 こんな人に触れられたくない。

 この人との子供なんて欲しくない。

 訪れるであろう未来に絶望し、馬車の中で私は静かに涙を零した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】愛することはないと告げられ、最悪の新婚生活が始まりました

紫崎 藍華
恋愛
結婚式で誓われた愛は嘘だった。 初夜を迎える前に夫は別の女性の事が好きだと打ち明けた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

処理中です...