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変わらない彼

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 あの話し合いの後、クリスフォード様は私との交流にスピナー公爵令嬢を連れてくることはなくなり、婚約者同士で過ごせるようにはなった。

 だが…………。

「それでカサンドラはこの時こう考えたそうだ」

「はあ……さようでございますか」

 スピナー公爵令嬢を連れてこなくなったとはいえ、クリスフォード様の口から出てくるのは彼女のことばかり。
 それに対し私は「さようですか」「そうなんですね」「まあ」の3つの言葉のみ繰り返している。

 クリスフォード様がもっと目端の利く方だったのなら、私が彼の話に全く興味を示していないことに気付いたのに。生憎彼はそうではないので、目の前の私が同じ返事を繰り返しても全く気付いていない。

 いやもしかしたらどうでもいいのかもしれない、私の反応なんて。
 ただ自分が大好きなスピナー公爵令嬢の話を語れるのならそれでいいのだろう。

 この時点で彼は私を大切に扱うつもりなどなく、尊重する気もないことが分かる。

 大切にする気があるのなら私の反応を気にするだろうし、尊重するつもりなら私以外の女性のことばかり話すはずがない。ましてやその女性を私の前で名前呼びするなど無神経にも程がある。

 そして私への興味もなくなったのだろう。
 学園入学前には互いのことをよく聞いたものだが、今はそれが一切なくなった。

 だから彼は私のことを知らない。
 好物も、趣味も、好きな色も、好きな花でさえ。

 彼が知っているのも、知りたいのもスピナー公爵令嬢のことだけ。

 そして私も彼と交流するたびに知るのはスピナー公爵令嬢のことのみ。

 彼女の好物は甘くて苦いチョコレート菓子、好きな色は赤、好きな花は華やかな薔薇。

 計算は得意だが語学は苦手、料理は好きだが刺繍は苦手、馬車に乗るよりも騎馬で駆ける方が性に合っている。

 話を聞く限りだと、スピナー公爵令嬢は活発な才女という印象だ。

 でも、だから何だと言うのだろう。
 他人でしかない令嬢のことをそこまで知って何になるのか。
 それよりも夫婦となる人のことを知りたいし、自分のことも知ってほしいのに、それが叶わない。

「スピナー公爵令嬢のことは分かりましたわ。それよりもクリスフォード様のことをもっと教えてほしいのですが……」

「私のことはいいだろう? それよりカサンドラが……」

 こんな感じでこちらが軌道修正しようとしてもすぐにまたスピナー公爵令嬢の話に戻ってしまう。
 試しに自分のことを話してみたけれど「ふーん……」で返される。

 
 だったらもうスピナー公爵令嬢と婚約なさったらいかが?

 そう言いたい。そう言ってこのつまらない茶会を終わりにしたい。
 以前は『カサンドラ様』と呼んでいたのに、いつのまにか呼び捨てにするくらい仲がよいのだろうし。

 ため息を押し殺し、綺麗に並べられた焼き菓子を一つ取った。
 美しい焼き色のついたそれを口に運び、ゆっくりと咀嚼する。
 間違いなく美味であるはずなのに、今日はなぜかそれを感じられない。


 ああ、この時間が早く終わってほしい……。

 話も面白くない。美味しいはずの菓子も味を感じられない。
 婚約者の交流茶会というより、スピナー公爵令嬢の為人を知るための会に時間を割くことに何の意味があるのだろうか。

 我慢しきれずため息が漏れる。

 だが彼はそれすら気が付かず、延々とスピナー公爵令嬢のことを語り続けていた。

 
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