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婚約者が連れてきたのは……
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珍しくクリスフォード様から観劇に誘われ、喜んだ私を待っていたのは予想も出来ない光景だった。
待ち合わせ場所の劇場付近で待つクリスフォード様が私に気付き、軽く手を振る。
何故か隣に黒髪の美しい令嬢を侍らせて。
「え……? クリスフォード様、そちらの方は……?」
淑女らしからぬ唖然とした表情を隠しもせず、私は彼にそう尋ねた。
こんな顔を礼儀作法に厳しい母に知られたらお叱りを受けてしまう。
だが、この時ばかりは仕方ないのではないか。
そう言いたくなるほど異常な状態だったのだから。
「ああ、彼女はスピナー公爵家のカサンドラ様だよ。今日の観劇の話をしたらカサンドラ様も行きたいと仰ってね。だからこうして一緒に来たというわけさ」
何が“というわけさ”なのか分からない――――。
何故、婚約者同士の逢瀬に部外者の令嬢がついてくるのか。
しかもスピナー公爵令嬢と私は面識がない。
面識がない人間を、私に断りもなくいきなり連れてくるなど非常識すぎやしないか。
「ごめんなさいね、レオナさん。わたくしがクリスに無理を言って連れてきてもらったの」
え? 今、スピナー公爵令嬢は私のことを名前で呼んだだろうか?
しかもクリフォード様を愛称で呼んだ……?
「あ、もう始まるみたいだ。急ごうレオナ」
そう言ってクリスフォード様はスピナー公爵令嬢を連れてさっさと劇場内に入ってしまった。
私はあまりの情報量に脳が処理をしきれず、何も言葉を発せない。
後で振り返ればそのまま家に帰ってしまえばよかったのだ。
だがこの時の私は彼等の言動の異常さに衝撃を受け、頭が真っ白になっていた。
気づけば劇場内の席に座っており、隣で婚約者とスピナー公爵令嬢が仲睦まじく観劇を楽しむ姿が目に映る。
よく婚約者の目の前で堂々と浮気が出来るものね……。
呆けた頭に浮かんだのはそんな感想だ。
そう、彼等の行為は浮気と呼ぶに相応しい。
それを指摘すれば色々言い訳を述べてくるだろうが、婚約者以外の女性と嬉しそうに触れ合うことが浮気じゃないと言えるのか。彼等が否定しても世間はそうは見ないだろう。
ふと、周囲を見渡せば好奇な視線があちらこちらから注がれている。
そして「あれは王太子殿下の婚約者のスピナー公爵令嬢では?」という小さな囁き声がそこら中から聞こえてきた。
「隣にいるのは誰かしら? 王太子殿下ではないようね?」
「あれはロバス公爵家のご子息よ! 殿下以外の殿方とあんなに親し気にするなんて……」
「いやだわ。こんな場所で堂々と不貞をするだなんて……不潔よ」
そんな声に居たたまれなくなり、私はすぐに席を立った。
このままここにいて、不貞と噂されている彼等と関係があると知られたくない。
挨拶もせずに席を立ち、その場を去るなど礼を欠いた行動であるが、先に失礼極まりない行為をしたのは彼等だ。
無礼な相手にこちらが礼を返す義理はない。
逃げるようにその場を去り、そのまま馬車で邸へと帰った。
待ち合わせ場所の劇場付近で待つクリスフォード様が私に気付き、軽く手を振る。
何故か隣に黒髪の美しい令嬢を侍らせて。
「え……? クリスフォード様、そちらの方は……?」
淑女らしからぬ唖然とした表情を隠しもせず、私は彼にそう尋ねた。
こんな顔を礼儀作法に厳しい母に知られたらお叱りを受けてしまう。
だが、この時ばかりは仕方ないのではないか。
そう言いたくなるほど異常な状態だったのだから。
「ああ、彼女はスピナー公爵家のカサンドラ様だよ。今日の観劇の話をしたらカサンドラ様も行きたいと仰ってね。だからこうして一緒に来たというわけさ」
何が“というわけさ”なのか分からない――――。
何故、婚約者同士の逢瀬に部外者の令嬢がついてくるのか。
しかもスピナー公爵令嬢と私は面識がない。
面識がない人間を、私に断りもなくいきなり連れてくるなど非常識すぎやしないか。
「ごめんなさいね、レオナさん。わたくしがクリスに無理を言って連れてきてもらったの」
え? 今、スピナー公爵令嬢は私のことを名前で呼んだだろうか?
しかもクリフォード様を愛称で呼んだ……?
「あ、もう始まるみたいだ。急ごうレオナ」
そう言ってクリスフォード様はスピナー公爵令嬢を連れてさっさと劇場内に入ってしまった。
私はあまりの情報量に脳が処理をしきれず、何も言葉を発せない。
後で振り返ればそのまま家に帰ってしまえばよかったのだ。
だがこの時の私は彼等の言動の異常さに衝撃を受け、頭が真っ白になっていた。
気づけば劇場内の席に座っており、隣で婚約者とスピナー公爵令嬢が仲睦まじく観劇を楽しむ姿が目に映る。
よく婚約者の目の前で堂々と浮気が出来るものね……。
呆けた頭に浮かんだのはそんな感想だ。
そう、彼等の行為は浮気と呼ぶに相応しい。
それを指摘すれば色々言い訳を述べてくるだろうが、婚約者以外の女性と嬉しそうに触れ合うことが浮気じゃないと言えるのか。彼等が否定しても世間はそうは見ないだろう。
ふと、周囲を見渡せば好奇な視線があちらこちらから注がれている。
そして「あれは王太子殿下の婚約者のスピナー公爵令嬢では?」という小さな囁き声がそこら中から聞こえてきた。
「隣にいるのは誰かしら? 王太子殿下ではないようね?」
「あれはロバス公爵家のご子息よ! 殿下以外の殿方とあんなに親し気にするなんて……」
「いやだわ。こんな場所で堂々と不貞をするだなんて……不潔よ」
そんな声に居たたまれなくなり、私はすぐに席を立った。
このままここにいて、不貞と噂されている彼等と関係があると知られたくない。
挨拶もせずに席を立ち、その場を去るなど礼を欠いた行動であるが、先に失礼極まりない行為をしたのは彼等だ。
無礼な相手にこちらが礼を返す義理はない。
逃げるようにその場を去り、そのまま馬車で邸へと帰った。
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