だから言ったでしょう?

わらびもち

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毒薬の村

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 ライアスとアニーが生まれ育った村にはそこでしか採れない名産品がある。
 それはロキ草と言われる薬草で、煎じて飲めば鎮痛薬となるものだ。

 しかしこれだけでは大した利益にならない。というのも鎮痛薬となる薬草は他にも種類があるからだ。
 ロキ草だけが鎮痛薬の市場を独占しているわけではないので、比較的安く買いたたかれてしまう。

 だからこそ代々の領主はこのロキ草で何か唯一無二となるものを作れないか試行錯誤を繰り返した。
 そうして出来たのがロキ草を原料とした毒薬である。

 この毒薬、即効性があることで主に貴族の“毒杯”に使用され、瞬く間に売れていった。
 
 毒が売れることで利益を得るのは倫理的にどうかといえど、今まで貧乏暮らしを強いられてきた領主にとって初めての儲けだ。手放すことはできない。

 領主は薬の調合法を門外不出とし、それを知る者を長とした商会を起ち上げた。
 完成した毒薬はその商会を通じてひっそりと販売し、村人にすらその存在を隠し続けてきた。
 もし知られたらその利益が奪われてしまう。それが領主にとっては我慢ならなかった。

 なのでこの毒薬の存在を知るのは代々の領主と商会、そして村長のみ。
 特に村長には村人が毒薬の存在に気付かぬように彼等を監視する役割を担っている。

「我が領地の生命線である毒薬を、勝手に作った挙句、くだらないことに使いおって……! 絶対に許さん! アニーとかいう小娘もその家族も全て根絶やしにしてくれるわ!」

「落ち着いてください領主様! それはあくまで想像でしかありません。まだアニーが薬を作ったと決まったわけでは……」

「じゃあどうやって毒薬を手に入れたというんだ!? 村娘がそんな高価な薬を買えると思うか? そんなわけないだろう! 外部に調合法が漏れる前にすぐに小娘とその家族を始末せねば……我が家も我が領地も終わりだ!」

 怒り狂う領主をなんとかなだめようとする村長だが、その声は届かない。
 領主の頭は己の利権を奪われることに対する焦りと不安で埋め尽くされている。

「仮にアニーが毒薬のことなど何も知らなかった場合、彼女を始末したら余計に怪しまれます! それにアニーはすでに憲兵に拘束されているんじゃありませんか? それでは手の出しようもありません!」

「ならばどうする? 小娘の家族を尋問するか? ……もしかすると村人たちも調合法を知ったかもしれん。全員尋問せねば気が済まぬ!」

「それはいけません領主様! 村人への聞き取りは村長である俺がしますのでどうか落ち着いてください! 社会的弱者である村人を尋問なんてすれば領主様の名誉に傷がつきます!」

「む……それも、そうか……。分かった、それは其方に任せよう。だが小娘の家族は別だ。野放しにしておけばいつまでたっても安心できぬ」

「それは……いえ、分かりました。ですがどうか尋問だけはご容赦ください。おそらく彼等は何も知らぬと思われますので……」

 村長の必死の懇願に領主はしぶしぶ頷いた。

 
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