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毒薬の存在

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「結論から言うと、アニーはシロだ。ライアスに毒を盛ったのは全くアニーと関係のない貴族らしい」

 ソファーに寝転んだままの姿勢で村長はそう話し始める。
 そしてそのまま先ほどライアスから聞いた事件のあらましを説明した。

「まあ……! では、アニーもライアスものことは何も知らない、ということですね?」

「ああ、そうだな。真相を知れば何だそれって話だが、何にせよあの毒薬の調合法が漏れていなくてよかったな……」

「ええ、本当に。これで領主様もお父様も安心なさるでしょう。それに……アニーもライアスも、ようございましたわ」

「ああ……さすがに昔から知ってる奴等を始末するのは避けたかったからな。よかった、本当に……」

 のどかな田舎の村長夫妻とは思えぬほどの物騒な会話。
 では何故彼等がそんな話をしているのかというと、その発端はちょうどライアスが毒に倒れたあたりまで遡る。



「毒薬の調合法が漏れたかもしれない……」

 村長の家の奥にある客間にて、一人の老紳士が顔面蒼白で呟いた。

「へっ……? どういうことですか領主様……」

 老紳士はこの地を治める領主で、見た目は穏やかでいかにも優しそうだ。
 だが村長は知っている。目の前の老紳士はそんな無害な人物ではないことを。

「先日、東方師団に所属する息子から報せが届いた。この村にいたライアスという若者は知っているか?」

「あ、ああ……もちろんです。将軍閣下の娘婿となった幸運な男ですよ。彼がいったいどうしたのんですか?」

「不倫相手から毒を盛られて倒れたそうだ。それで今は軍専用の病院に入院している」

「はあ!? 不倫? ライアスが?」

「驚くところはそこじゃない。その不倫相手の方だ。相手もこの村出身の女で、名をアニーという」

「ええ!? アニーが? 大人しそうな子だったのに、そんなことを……」

「そこもどうでもよい。肝心なのはその女が使った毒だ。その毒はうちの商会で扱ってるものだそうだ……!」

「はああ? あれは平民がおいそれと買えるような代物じゃないですよね? アニーはどうやってそれを手に入れ…………あ! ま、まさか……」

「そのまさかだ。アレは貴族じゃないと購入できんようになっている。なのにそれを使ったということは……調としか思えん! そうだろう!?」

「そんな馬鹿な! アニーは自分で薬を調合できるような賢い子では……」

「じゃあどうやって毒薬を手に入れたというんだ!? 薬の材料はこの村でのみ手に入るんだぞ? だとしたらそのアニーとかいう女が作ったとしか考えられんだろう?」

 興奮してがなり立てる領主。その姿はとても紳士と呼べるようなものではない。

「落ち着いてください領主様! まだそうと決まったわけじゃ……」

「これが落ち着いていられるか! あの毒薬を作れるからこそ我が領地は豊かでいられるんだぞ!? 知られたからには始末するしかない! そのアニーとかいう女を始末しろ!」

「そ、それは……! どうか落ち着いてください!」

 ひどく取り乱す領主だが、それも仕方ない。
 彼は今、唯一と言っていい領地の利益を失くすかもしれないという不安に苛まれているのだから。
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