20 / 25
村長の思惑
しおりを挟む
「だけど村長、誤解されたまま暮らすのは辛いですよ。村の奴等、俺を見てヒソヒソと……。両親まで俺を詰るし……。不倫なんかしてないのに不倫男扱いされるし。アニーみたいなつまらない女を選んだ見る目のない男だと思われるのも嫌です」
「お前、気にするところがそこなの? 本当に下衆だな……。そんなに嫌なら村を出りゃいいじゃねえか」
「村を出たって、ここ以外行く所ないですよ。毒の後遺症もあるから働けるか自信もないですし……」
「伝手はあるぞ。知り合いの商家で婿さんを探していてな。そこに行ってみるか?」
「再婚しろってことですか? でも俺、商売のことなんて何も分からないですよ?」
「問題ない。むしろ仕事自体に関わってほしくないそうだ。跡継ぎ娘が面食いでな、必要なのは若く顔がいい男だと。お前にピッタリじゃないか?」
ライアスにとっては願ってもない美味しい話だ。
仕事をしなくてもいい、だなんて夢のよう。
だが一つ、ライアスはどうしても譲れない部分がある。
「……その娘ってのは美人ですか? 婿を探さなきゃ見つからないってんなら、ブスなんじゃ……」
ライアスには女性の見た目をやたら気にする。
それこそ美人じゃないと女として見れないなんていう最低なところがあった。
「いや、行き遅れの年齢ではあるが美人だぞ? 婿が見つからないのは彼女が賢過ぎるからだよ。女は馬鹿な方が可愛いなんて言う馬鹿な男が多いからな。賢い女ってのはどうも敬遠されがちだ。お前はどうだ? 馬鹿な女の方がいいか?」
「いや……俺は、賢い女は好きです。ロザリンドも賢かったし……」
ライアスは賢く美しい妻を愛していた。
愛していたなら大切にすればいいものを、つまらない劣等感から彼女の信頼をなくし、結局何もかもを失った。
「そうか、なら決定だな。先方はきっと喜ぶぞ。お前もこの村から出れるしよかったな」
村長の言葉にライアスは頷く。
自分の生まれ故郷だが、この村は今の自分にとって居心地が最悪の場所に変わってしまった。
ロザリンドとの結婚が決まった時はあんなに涙を流してライアスを褒め称えてくれた両親も、今じゃ手の平返したように罵倒する。羨望の眼差しを向けていた村人たちも今じゃ軽蔑の視線を向けてくるし、ライアスにとってこの村は針の筵のようなもの。そんな彼にとって、この村から出て生活できる申し出はありがたいものだった。
話も終わり、ライアスは村長の家を後にした。
彼の姿が完全に見えなくなると、村長のいる部屋に一人の女性が入ってきた。
「あなた、お話はいかがでした? 知りたい情報は全て聞きだせましたか?」
こんな田舎に似つかわしくないほど華やかな容姿をした女性。彼女は村長の妻である。
村長は物騒な台詞を吐く妻に驚きもせず、疲れた顔を彼女の方に向けた。
「ああ……驚くほど簡単に聞き出せた。こんなことなら、自白剤を使用しなくてもよかったな」
「あら、そうでしたか? なら、わざわざ実家から取り寄せる必要もなかったですね」
「すまないな。俺もまさかこんな単純で能天気な奴だったとは思いもしなかった……」
「そんなにですか? ついこの間まで貴族でしたのに?」
「ああ、あんなんでよく貴族社会で生きてこれたものだ……。いや、実際それが原因で死にかけたわけだな……」
ひどく疲れた様子の夫に、妻は気遣わしげな表情を向けて問いかけた。
「あなた……随分顔色が悪いですわ? どうされましたの?」
「ん? ああ、俺もあの葉巻を吸ったからかもな……」
「まあ! アレを? あれほどあなたは吸わないでくださいと言いましたのに!」
「悪い悪い……。アレをライアスだけに吸わせるのも悪いと思ってな……」
「もう! 変なところを気にするんですから! 自白剤は体に負担がかかるんですのよ? ほらもう、横になってくださいな」
妻は憔悴した夫の手を引き、そのままソファーに寝かせた。
「お前、気にするところがそこなの? 本当に下衆だな……。そんなに嫌なら村を出りゃいいじゃねえか」
「村を出たって、ここ以外行く所ないですよ。毒の後遺症もあるから働けるか自信もないですし……」
「伝手はあるぞ。知り合いの商家で婿さんを探していてな。そこに行ってみるか?」
「再婚しろってことですか? でも俺、商売のことなんて何も分からないですよ?」
「問題ない。むしろ仕事自体に関わってほしくないそうだ。跡継ぎ娘が面食いでな、必要なのは若く顔がいい男だと。お前にピッタリじゃないか?」
ライアスにとっては願ってもない美味しい話だ。
仕事をしなくてもいい、だなんて夢のよう。
だが一つ、ライアスはどうしても譲れない部分がある。
「……その娘ってのは美人ですか? 婿を探さなきゃ見つからないってんなら、ブスなんじゃ……」
ライアスには女性の見た目をやたら気にする。
それこそ美人じゃないと女として見れないなんていう最低なところがあった。
「いや、行き遅れの年齢ではあるが美人だぞ? 婿が見つからないのは彼女が賢過ぎるからだよ。女は馬鹿な方が可愛いなんて言う馬鹿な男が多いからな。賢い女ってのはどうも敬遠されがちだ。お前はどうだ? 馬鹿な女の方がいいか?」
「いや……俺は、賢い女は好きです。ロザリンドも賢かったし……」
ライアスは賢く美しい妻を愛していた。
愛していたなら大切にすればいいものを、つまらない劣等感から彼女の信頼をなくし、結局何もかもを失った。
「そうか、なら決定だな。先方はきっと喜ぶぞ。お前もこの村から出れるしよかったな」
村長の言葉にライアスは頷く。
自分の生まれ故郷だが、この村は今の自分にとって居心地が最悪の場所に変わってしまった。
ロザリンドとの結婚が決まった時はあんなに涙を流してライアスを褒め称えてくれた両親も、今じゃ手の平返したように罵倒する。羨望の眼差しを向けていた村人たちも今じゃ軽蔑の視線を向けてくるし、ライアスにとってこの村は針の筵のようなもの。そんな彼にとって、この村から出て生活できる申し出はありがたいものだった。
話も終わり、ライアスは村長の家を後にした。
彼の姿が完全に見えなくなると、村長のいる部屋に一人の女性が入ってきた。
「あなた、お話はいかがでした? 知りたい情報は全て聞きだせましたか?」
こんな田舎に似つかわしくないほど華やかな容姿をした女性。彼女は村長の妻である。
村長は物騒な台詞を吐く妻に驚きもせず、疲れた顔を彼女の方に向けた。
「ああ……驚くほど簡単に聞き出せた。こんなことなら、自白剤を使用しなくてもよかったな」
「あら、そうでしたか? なら、わざわざ実家から取り寄せる必要もなかったですね」
「すまないな。俺もまさかこんな単純で能天気な奴だったとは思いもしなかった……」
「そんなにですか? ついこの間まで貴族でしたのに?」
「ああ、あんなんでよく貴族社会で生きてこれたものだ……。いや、実際それが原因で死にかけたわけだな……」
ひどく疲れた様子の夫に、妻は気遣わしげな表情を向けて問いかけた。
「あなた……随分顔色が悪いですわ? どうされましたの?」
「ん? ああ、俺もあの葉巻を吸ったからかもな……」
「まあ! アレを? あれほどあなたは吸わないでくださいと言いましたのに!」
「悪い悪い……。アレをライアスだけに吸わせるのも悪いと思ってな……」
「もう! 変なところを気にするんですから! 自白剤は体に負担がかかるんですのよ? ほらもう、横になってくださいな」
妻は憔悴した夫の手を引き、そのままソファーに寝かせた。
297
お気に入りに追加
4,153
あなたにおすすめの小説

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

愛されない花嫁はいなくなりました。
豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。
侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。
……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

あなたの破滅のはじまり
nanahi
恋愛
家同士の契約で結婚した私。夫は男爵令嬢を愛人にし、私の事は放ったらかし。でも我慢も今日まで。あなたとの婚姻契約は今日で終わるのですから。
え?離縁をやめる?今更何を慌てているのです?契約条件に目を通していなかったんですか?
あなたを待っているのは破滅ですよ。

貴方でなくても良いのです。
豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。

【完結】誠意を見せることのなかった彼
野村にれ
恋愛
婚約者を愛していた侯爵令嬢。しかし、結婚できないと婚約を白紙にされてしまう。
無気力になってしまった彼女は消えた。
婚約者だった伯爵令息は、新たな愛を見付けたとされるが、それは新たな愛なのか?

〖完結〗その愛、お断りします。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った……
彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。
邪魔なのは、私だ。
そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。
「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。
冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない!
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる