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呆れました
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ライアスが目を覚ましたとの知らせを受け、ロザリンドは彼が入院する軍専用病院を訪れた。
そこにいる医師や看護師はロザリンドの姿を見ると丁重に頭を下げ、訪問を歓迎する。
「お久しぶりにございます、ロザリンドお嬢様。本日はどのようなご用向きで?」
「先日毒に倒れたライアス第三部隊長のお見舞いにね……。どちらにいるかしら?」
「ライアス隊長ですか? ああ、お嬢様の元夫の……。彼でしたら2階の奥にある個室におりますよ。君、案内してあげて」
医師が案内を頼むと看護師は「畏まりました」と恭しく頷いた。
彼等にとってロザリンドは将軍のご令嬢であり、決して無礼を働いてはいけない相手だ。
丁重な扱いをすることは当然だった。
それは東方師団内でも同様で、師団長ですらロザリンドには敬意を払っていた。
なのにアニーはそれをすることなく、あろうことか将軍の娘婿にちょっかいを出し、それがどれだけ不敬なのかを分かろうともしなかった。
そのため、アニーが毒殺未遂犯だと聞いても誰も彼女を庇うことはしなかった。
むしろ痴情のもつれだろうと誰もが納得し、誰一人として彼女の罪を疑うことすらしない。
それも当然だ。既婚者を狙う女なぞ社会的に見て不道徳な存在なのだから。
そんな存在が痴情のもつれのような事件を起こしても「ああ、やっぱり……」と周囲は納得するだろう。
そしてそれを見越したうえで今回の事件は引き起こされた。
結果はまんまと黒幕の思い通り。
ライアスとロザリンドが離婚することこそが黒幕の狙いであった。
ただ黒幕にとっても誤算だったのは、離婚が事件を起こす前に成立したこと。
これが事件後だったならばライアスはまだ貴族のままだったので、アニーを公に処刑することができた。
だが平民となったライアスでは被疑者への罰も強制労働と軽い。
黒幕は若干これに不満を持ったものの、不倫狙いの村娘一人が騒いだところで大した影響はないだろうと考えた。
それにあまり五月蠅ければ始末してしまえばいい。平民一人始末するくらい造作もない。
なので憲兵の考えは的を射たものであり、アニーはそのおかげで助かったと言えよう。
しかし、すでに離縁しているロザリンドが元夫であるライアスに何の用かというと、彼に真実を告げる為だ。
一つはアニーは犯人ではないこと。
そしてもう一つは今回の離婚について。
あの日、ロザリンドはライアスの承認を得ることなく離婚届を提出した。
父親である将軍の力を借りてーーー。
「ライアス様、お目覚めになったと伺い参りました。お加減は如何ですか?」
「ロザリンド! 来てくれたのか!?」
毒の後遺症でライアスは未だにベットから起き上がれず、横たわったままロザリンドの来訪を喜んだ。
憲兵の聞き取り調査の際に最愛の妻と離婚したと聞かされ激怒し、落胆し、その原因となったアニーに憎しみを抱いた。
だがこうして会いに来てくれたことで、離婚の話が嘘だったのかとライアスは勝手な妄想を抱く。
「聞いてくれよロザリンド、この間憲兵が来て君と俺が離婚しただなんて戯言を吐いてきやがった! とんでもない嘘つきな奴等だよ。一時は信じてしまったが、よく考えれば俺は離婚届に署名もしていないんだ。だから離婚なんて出来るわけが……」
「いいえ、ライアス様。憲兵方が仰ったことは真実にございます。わたくし達はすでに離婚が済んでおりますわ。……貴方が毒に倒れた前日に」
ロザリンドの残酷な真実を突き付ける言葉にライアスは絶句した。
彼は最愛の妻に否定して欲しかったのだ。自分達が離婚したということを……。
「なっ……なんでだよ!? なんでそんな勝手なことを……! だいたいどうやって俺の署名なく離婚なんて出来たんだよ!?」
「父の助力をもって強引に成立させました。でも、そうしなければ貴方の大切な女性は、将軍の娘婿を毒殺しようとした大罪人となってしまうからです。それは嫌でしょう?」
「はっ……? 大切な女性? ……アニーのことか? 違うって! あの子とはそういうのじゃなくて……」
「……そういうのではない? では何なのでしょうか? わたくしの忠告を無視してまで彼女手製のお菓子を受け取るくらい大切な方なのでは……?」
ライアスはここで初めてロザリンドがかなり怒っていることを理解した。
「ち……違う! 本当にそういうんじゃなくて……、俺はただ……お前に嫉妬してほしかったんだよ!!」
「はい……? 嫉妬……ですか? 意味が分かりません……」
訝しむ様子のロザリンドにライアスは自分の行動について説明した。
それは憲兵にも話したことだが、ライアスはただ妻に嫉妬してほしかったのだと。
「……呆れた言い訳ですね。そんなことのためにわたくしの忠告も無視したと?」
「う……ごめん、だってお前が嫉妬してくれたことが嬉しくて……」
元夫の言い分にロザリンドは呆れを通り越して頭痛すら覚えた。
そんなつまらないことで、こんな結末を迎えることになったのかと……。
そこにいる医師や看護師はロザリンドの姿を見ると丁重に頭を下げ、訪問を歓迎する。
「お久しぶりにございます、ロザリンドお嬢様。本日はどのようなご用向きで?」
「先日毒に倒れたライアス第三部隊長のお見舞いにね……。どちらにいるかしら?」
「ライアス隊長ですか? ああ、お嬢様の元夫の……。彼でしたら2階の奥にある個室におりますよ。君、案内してあげて」
医師が案内を頼むと看護師は「畏まりました」と恭しく頷いた。
彼等にとってロザリンドは将軍のご令嬢であり、決して無礼を働いてはいけない相手だ。
丁重な扱いをすることは当然だった。
それは東方師団内でも同様で、師団長ですらロザリンドには敬意を払っていた。
なのにアニーはそれをすることなく、あろうことか将軍の娘婿にちょっかいを出し、それがどれだけ不敬なのかを分かろうともしなかった。
そのため、アニーが毒殺未遂犯だと聞いても誰も彼女を庇うことはしなかった。
むしろ痴情のもつれだろうと誰もが納得し、誰一人として彼女の罪を疑うことすらしない。
それも当然だ。既婚者を狙う女なぞ社会的に見て不道徳な存在なのだから。
そんな存在が痴情のもつれのような事件を起こしても「ああ、やっぱり……」と周囲は納得するだろう。
そしてそれを見越したうえで今回の事件は引き起こされた。
結果はまんまと黒幕の思い通り。
ライアスとロザリンドが離婚することこそが黒幕の狙いであった。
ただ黒幕にとっても誤算だったのは、離婚が事件を起こす前に成立したこと。
これが事件後だったならばライアスはまだ貴族のままだったので、アニーを公に処刑することができた。
だが平民となったライアスでは被疑者への罰も強制労働と軽い。
黒幕は若干これに不満を持ったものの、不倫狙いの村娘一人が騒いだところで大した影響はないだろうと考えた。
それにあまり五月蠅ければ始末してしまえばいい。平民一人始末するくらい造作もない。
なので憲兵の考えは的を射たものであり、アニーはそのおかげで助かったと言えよう。
しかし、すでに離縁しているロザリンドが元夫であるライアスに何の用かというと、彼に真実を告げる為だ。
一つはアニーは犯人ではないこと。
そしてもう一つは今回の離婚について。
あの日、ロザリンドはライアスの承認を得ることなく離婚届を提出した。
父親である将軍の力を借りてーーー。
「ライアス様、お目覚めになったと伺い参りました。お加減は如何ですか?」
「ロザリンド! 来てくれたのか!?」
毒の後遺症でライアスは未だにベットから起き上がれず、横たわったままロザリンドの来訪を喜んだ。
憲兵の聞き取り調査の際に最愛の妻と離婚したと聞かされ激怒し、落胆し、その原因となったアニーに憎しみを抱いた。
だがこうして会いに来てくれたことで、離婚の話が嘘だったのかとライアスは勝手な妄想を抱く。
「聞いてくれよロザリンド、この間憲兵が来て君と俺が離婚しただなんて戯言を吐いてきやがった! とんでもない嘘つきな奴等だよ。一時は信じてしまったが、よく考えれば俺は離婚届に署名もしていないんだ。だから離婚なんて出来るわけが……」
「いいえ、ライアス様。憲兵方が仰ったことは真実にございます。わたくし達はすでに離婚が済んでおりますわ。……貴方が毒に倒れた前日に」
ロザリンドの残酷な真実を突き付ける言葉にライアスは絶句した。
彼は最愛の妻に否定して欲しかったのだ。自分達が離婚したということを……。
「なっ……なんでだよ!? なんでそんな勝手なことを……! だいたいどうやって俺の署名なく離婚なんて出来たんだよ!?」
「父の助力をもって強引に成立させました。でも、そうしなければ貴方の大切な女性は、将軍の娘婿を毒殺しようとした大罪人となってしまうからです。それは嫌でしょう?」
「はっ……? 大切な女性? ……アニーのことか? 違うって! あの子とはそういうのじゃなくて……」
「……そういうのではない? では何なのでしょうか? わたくしの忠告を無視してまで彼女手製のお菓子を受け取るくらい大切な方なのでは……?」
ライアスはここで初めてロザリンドがかなり怒っていることを理解した。
「ち……違う! 本当にそういうんじゃなくて……、俺はただ……お前に嫉妬してほしかったんだよ!!」
「はい……? 嫉妬……ですか? 意味が分かりません……」
訝しむ様子のロザリンドにライアスは自分の行動について説明した。
それは憲兵にも話したことだが、ライアスはただ妻に嫉妬してほしかったのだと。
「……呆れた言い訳ですね。そんなことのためにわたくしの忠告も無視したと?」
「う……ごめん、だってお前が嫉妬してくれたことが嬉しくて……」
元夫の言い分にロザリンドは呆れを通り越して頭痛すら覚えた。
そんなつまらないことで、こんな結末を迎えることになったのかと……。
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