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事件の真相④
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「そんな……ライアス隊長……。アタシは無実なのに……なんでこんなことに……!! 何も悪いことしていないのに……なんでっ!!」
「自業自得だろう? 周囲からの忠告も無視して既婚者に擦り寄るから罰が当たったんじゃないか? まあお前さんがいくら喚こうが結果は変わらん。仮にお前さんが自分の無実を訴えたとしてライアス隊長とロザリンドお嬢様の離婚は覆らない。娘婿の醜態に将軍閣下はいたく失望しているからな。それにお前さんはこれから数年は修道院での強制労働が課されている。どちらにしてもその間はライアス隊長には会えないぞ」
「はあ!? 強制労働ですって? 何で無実のアタシがそんなことしなきゃならないのよ!!」
「じゃあ自分の無実を訴えてみるか? 止めはしないが、さっきも言ったようにそれをした途端消されるのは間違いないぞ? 修道院行きだとしても、命があるだけマシだと思うがな。それにこの処遇は軽い方だ。本来なら一族全員処刑だったのを、ロザリンドお嬢様のおかげ免れたんだぞ? お前さんはお嬢さんに感謝すべきだ」
「はあぁ!? 何であの女に感謝しなきゃいけないのよ? それに一族全員処刑って何よ!?」
「毒を盛られた日、すでにライアス隊長とロザリンドお嬢様は離婚していた。そのため隊長の身分は貴族から平民に戻り、お前さんの罪は軽くなったというわけだ。もし離婚せず隊長が貴族の身分のままだったら罪はかなり重い。平民が貴族を害そうとするだけで重い厳罰が課される。おまけに隊長は将軍閣下の娘婿だ。罪の重さは相手の身分に比例するから死刑は確定。しかも一族断絶は免れない。お前さんの両親も、兄弟も、親戚さえも全てだ」
「え? お父さんもお母さんも……妹や弟達まで? 何で……!?」
アニーは家族が処刑されることを想像し青褪める。
家族や親戚は何も関係ないのに、どうして……。
「”連座”って言葉を知ってるか? 平民が貴族に手をかけた場合、一族郎党全員道連れなんだよ。それは王国法で決まっている。よかったな、ロザリンドお嬢様のおかげで家族は罰を受けなくて済む。 感謝して当然だろう?」
「い、嫌よ……。あの女に感謝なんて……」
アニーの態度に憲兵は心底呆れた。
助けてもらっておいて感謝もできないのかと。
それに、ロザリンドが何故こうなることを予測していたのかについて全く触れてこない。
目の前の女は性根も悪いが頭も悪いのだなと侮蔑の表情を浮かべた。
「はあ……そもそも貴族の妻がいる男にちょっかいをかけて、無事でいられることが奇跡だって分かってるか?」
「は…………?」
全く言葉の意味を理解していないアニーに憲兵は頭を抱えた。
こいつは貴族の恐ろしさを全く分かっていないと。
「呆れたな。お前さん、何の覚悟もなしに妻帯者の貴族に堂々と職場でちょっかいをかけていたのか? ロザリンドお嬢様が思慮深い方だったからよかったが、貴族婦人なんざ苛烈な気性の人が多い。自分の旦那に手を出そうとした平民女性を無礼打ちにしたなんてよく聞く話だろう?」
「え? あ……でも、東方師団内で身分差は関係ないもの! 身分じゃなくて階級が上の方が偉いのよ? いくらあの女が貴族でも、東方師団では関係ないわ!」
プライベートなことなのだから、東方師団こそ関係ないだろう。
憲兵はそう呆れたものの、アニーの言う”階級”で説明した方が理解しやすいかと思い、そのまま話を続けた。
「階級ねえ……。じゃあ、俺達やお前さんのトップは誰だか知っているか? 師団長じゃなくてさらにその上、軍人全員を統率しているのは誰だ?」
「え? それは、将軍閣下で……あっ……!」
ここまで説明してやっとアニーは気づいた。
自分が今口にした階級の頂点に立っているのは将軍。ロザリンドの父親だということを。
つまり自分は階級の頂点にいる方を敵に回したも同然だと。
「ようやく気づいたか? お前さんはよりにもよって自分が所属する組織のトップを敵に回したんだよ。俺は最初からロザリンド様をお嬢様と呼んでいるだろう?」
憲兵にとってロザリンドは自分が所属する組織のトップの娘。
それはもちろんアニーにとっても同じ。
普通なら気づくはずだがお花畑思考の彼女には分かっていなかった。
「あ……アタシ……そんなつもりじゃ……」
今更ながら自分のしたことの恐ろしさに気付きアニーは震えた。
「そんなつもりじゃない? とんでもないお花畑な頭だな……」
彼からすればアニーの行動はとても正気とは思えぬ蛮行だ。
自分よりも遥か上の存在に喧嘩を売るなんて。
「将軍閣下もロザリンドお嬢様も聡明な御方だから、お前に何かしようなんざ考えないと思う。だが、将軍閣下を敵に回したお前を全ての軍人はよく思わないだろう。下手すりゃ勝手に私刑を考えている奴だっているかもしれない。だからこれ以上何もしないで大人しく修道院に向かった方がいい。その方が安全だ」
私刑、という言葉に身震いしたものの、アニーには譲れないことがある。
それは好きな人に誤解されたままは嫌だということ。
「嫌よ! だってこのままじゃアタシはライアス隊長を毒殺しようとした犯罪者じゃない!? 隊長だって家族だってアタシを誤解したまんま……そんなの嫌よ!!」
「じゃあどうするんだ? 言っておくがお前さんの処遇はもう確定しているんだから逃げられないぞ? それにアンタが家族に自分は無実だと叫べば、今度はその家族に危険が及ぶかもしれない。せっかく一族処刑を免れた家族をわざわざ危ない目に合わせようっていうのか?」
「あ……あ、それは……」
「悪いことは言わない。大人しく刑に服した方がお前さんと家族のためだ。そうしないと黒幕は確実にお前さんはもちろん、家族までも消すかもしれない。それでもいいのか?」
憲兵の真剣な表情に、アニーはこれがハッタリなどではなく本当なのだと気づく。
同時に言いようのない恐怖に全身が震え、涙と嗚咽がとめどなく溢れた。
「い、いや……そんな……。なんで……なんで……?」
自分はただ好きな人に手作りのお菓子を渡しただけなのに……。
これだけ説明したのに、あくまでも被害者ぶるアニーの浅はかな様子に憲兵はため息をついた。
「諦めな。生きていたいんだろう? なら、大人しく全てを受け入れるしかない」
無実の罪を着せられたのは可哀想だと思うが、そもそも自業自得だろうと憲兵はアニーをこれ以上会話することを止めた。
どう足掻いても自分にはどうすることもできないし、不道徳なアニーに何かしてやりたいとも思わない。
いまだ涙を流したままのアニーに対し、憲兵は彼女が向かう修道院についての説明を始めた。
「お前さんが向かうのは西部地方にある修道院だ。そこでは修道女が衣料品の製造を行っている。皆お前さんと同じようにワケありだ。そこでしばらく労働に服せばその後は自由になれる。……一応忠告しておくが、家族の命が惜しければ会いにいかない方がいいぞ」
「うっ……ううっ……。ぐすっ……ひっ……」
泣いて話を聞く気のないアニーを無視し、憲兵はそのまま説明を続けた。
彼が受刑者に説明するのは義務であり、相手に納得してもらう必要はないからだ。
それにどうせ目の前の女は人の話を聞かないタイプだ。
なら理解してもらおうとする必要性をなおさら感じない。
憲兵は泣くアニーを慰めることなく、ただ淡々と説明を進めた。
「自業自得だろう? 周囲からの忠告も無視して既婚者に擦り寄るから罰が当たったんじゃないか? まあお前さんがいくら喚こうが結果は変わらん。仮にお前さんが自分の無実を訴えたとしてライアス隊長とロザリンドお嬢様の離婚は覆らない。娘婿の醜態に将軍閣下はいたく失望しているからな。それにお前さんはこれから数年は修道院での強制労働が課されている。どちらにしてもその間はライアス隊長には会えないぞ」
「はあ!? 強制労働ですって? 何で無実のアタシがそんなことしなきゃならないのよ!!」
「じゃあ自分の無実を訴えてみるか? 止めはしないが、さっきも言ったようにそれをした途端消されるのは間違いないぞ? 修道院行きだとしても、命があるだけマシだと思うがな。それにこの処遇は軽い方だ。本来なら一族全員処刑だったのを、ロザリンドお嬢様のおかげ免れたんだぞ? お前さんはお嬢さんに感謝すべきだ」
「はあぁ!? 何であの女に感謝しなきゃいけないのよ? それに一族全員処刑って何よ!?」
「毒を盛られた日、すでにライアス隊長とロザリンドお嬢様は離婚していた。そのため隊長の身分は貴族から平民に戻り、お前さんの罪は軽くなったというわけだ。もし離婚せず隊長が貴族の身分のままだったら罪はかなり重い。平民が貴族を害そうとするだけで重い厳罰が課される。おまけに隊長は将軍閣下の娘婿だ。罪の重さは相手の身分に比例するから死刑は確定。しかも一族断絶は免れない。お前さんの両親も、兄弟も、親戚さえも全てだ」
「え? お父さんもお母さんも……妹や弟達まで? 何で……!?」
アニーは家族が処刑されることを想像し青褪める。
家族や親戚は何も関係ないのに、どうして……。
「”連座”って言葉を知ってるか? 平民が貴族に手をかけた場合、一族郎党全員道連れなんだよ。それは王国法で決まっている。よかったな、ロザリンドお嬢様のおかげで家族は罰を受けなくて済む。 感謝して当然だろう?」
「い、嫌よ……。あの女に感謝なんて……」
アニーの態度に憲兵は心底呆れた。
助けてもらっておいて感謝もできないのかと。
それに、ロザリンドが何故こうなることを予測していたのかについて全く触れてこない。
目の前の女は性根も悪いが頭も悪いのだなと侮蔑の表情を浮かべた。
「はあ……そもそも貴族の妻がいる男にちょっかいをかけて、無事でいられることが奇跡だって分かってるか?」
「は…………?」
全く言葉の意味を理解していないアニーに憲兵は頭を抱えた。
こいつは貴族の恐ろしさを全く分かっていないと。
「呆れたな。お前さん、何の覚悟もなしに妻帯者の貴族に堂々と職場でちょっかいをかけていたのか? ロザリンドお嬢様が思慮深い方だったからよかったが、貴族婦人なんざ苛烈な気性の人が多い。自分の旦那に手を出そうとした平民女性を無礼打ちにしたなんてよく聞く話だろう?」
「え? あ……でも、東方師団内で身分差は関係ないもの! 身分じゃなくて階級が上の方が偉いのよ? いくらあの女が貴族でも、東方師団では関係ないわ!」
プライベートなことなのだから、東方師団こそ関係ないだろう。
憲兵はそう呆れたものの、アニーの言う”階級”で説明した方が理解しやすいかと思い、そのまま話を続けた。
「階級ねえ……。じゃあ、俺達やお前さんのトップは誰だか知っているか? 師団長じゃなくてさらにその上、軍人全員を統率しているのは誰だ?」
「え? それは、将軍閣下で……あっ……!」
ここまで説明してやっとアニーは気づいた。
自分が今口にした階級の頂点に立っているのは将軍。ロザリンドの父親だということを。
つまり自分は階級の頂点にいる方を敵に回したも同然だと。
「ようやく気づいたか? お前さんはよりにもよって自分が所属する組織のトップを敵に回したんだよ。俺は最初からロザリンド様をお嬢様と呼んでいるだろう?」
憲兵にとってロザリンドは自分が所属する組織のトップの娘。
それはもちろんアニーにとっても同じ。
普通なら気づくはずだがお花畑思考の彼女には分かっていなかった。
「あ……アタシ……そんなつもりじゃ……」
今更ながら自分のしたことの恐ろしさに気付きアニーは震えた。
「そんなつもりじゃない? とんでもないお花畑な頭だな……」
彼からすればアニーの行動はとても正気とは思えぬ蛮行だ。
自分よりも遥か上の存在に喧嘩を売るなんて。
「将軍閣下もロザリンドお嬢様も聡明な御方だから、お前に何かしようなんざ考えないと思う。だが、将軍閣下を敵に回したお前を全ての軍人はよく思わないだろう。下手すりゃ勝手に私刑を考えている奴だっているかもしれない。だからこれ以上何もしないで大人しく修道院に向かった方がいい。その方が安全だ」
私刑、という言葉に身震いしたものの、アニーには譲れないことがある。
それは好きな人に誤解されたままは嫌だということ。
「嫌よ! だってこのままじゃアタシはライアス隊長を毒殺しようとした犯罪者じゃない!? 隊長だって家族だってアタシを誤解したまんま……そんなの嫌よ!!」
「じゃあどうするんだ? 言っておくがお前さんの処遇はもう確定しているんだから逃げられないぞ? それにアンタが家族に自分は無実だと叫べば、今度はその家族に危険が及ぶかもしれない。せっかく一族処刑を免れた家族をわざわざ危ない目に合わせようっていうのか?」
「あ……あ、それは……」
「悪いことは言わない。大人しく刑に服した方がお前さんと家族のためだ。そうしないと黒幕は確実にお前さんはもちろん、家族までも消すかもしれない。それでもいいのか?」
憲兵の真剣な表情に、アニーはこれがハッタリなどではなく本当なのだと気づく。
同時に言いようのない恐怖に全身が震え、涙と嗚咽がとめどなく溢れた。
「い、いや……そんな……。なんで……なんで……?」
自分はただ好きな人に手作りのお菓子を渡しただけなのに……。
これだけ説明したのに、あくまでも被害者ぶるアニーの浅はかな様子に憲兵はため息をついた。
「諦めな。生きていたいんだろう? なら、大人しく全てを受け入れるしかない」
無実の罪を着せられたのは可哀想だと思うが、そもそも自業自得だろうと憲兵はアニーをこれ以上会話することを止めた。
どう足掻いても自分にはどうすることもできないし、不道徳なアニーに何かしてやりたいとも思わない。
いまだ涙を流したままのアニーに対し、憲兵は彼女が向かう修道院についての説明を始めた。
「お前さんが向かうのは西部地方にある修道院だ。そこでは修道女が衣料品の製造を行っている。皆お前さんと同じようにワケありだ。そこでしばらく労働に服せばその後は自由になれる。……一応忠告しておくが、家族の命が惜しければ会いにいかない方がいいぞ」
「うっ……ううっ……。ぐすっ……ひっ……」
泣いて話を聞く気のないアニーを無視し、憲兵はそのまま説明を続けた。
彼が受刑者に説明するのは義務であり、相手に納得してもらう必要はないからだ。
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